121 追跡
「させるか!」
黒ずくめ男が掴もうとした星の欠片はユージが先に掴んだ。
「貴様! それを寄越せ」
「やなこったい。それよりもお前の方こそ、なぜこれを欲しがる?」
「話すと思うか?」
「思わねえ…よっ!」
一瞬に男との距離を詰めたユージは、星の欠片を持っていない右手で男の鳩尾を打ち抜いた。
「ぐっ…」
そして男は崩れ落ちる。
「何だ!? 何があった?」
隣の部屋からバルーダ伯爵とギンガム侯爵が姿を見せた。
「伯、そして侯。突然この男が乱入してきまして…」
ユージは男を縛り上げており、アンヌが2人に状況を説明する。
「ふむ、やはりというか、儂の星の欠片も狙われたのだな」
「だがしかし、侯子飼いの警備員や、儂等と一緒に来た兵士はどうしたのだ?」
そのバルーダ伯の疑問には意外なところから答えが返ってくる。
「彼等なら皆眠ってもらっていますよ」
施錠されているはずのドアを開け、2人目である黒ずくめの男が姿を現した。
「…おやおや、こちらは不首尾に終わったようですねえ。情けないことです」
そう言って2人目の黒ずくめはふっ、と口から何かを吹き放つ。
「危ない!」
射線のそばにいたアンヌをかばうユージ。それはかすかな銀色の尾を引いて、立った今捕らえた男の眉間に突き立った。
「では、ごきげんよう」
その言葉を残して男は身を翻した。
「待てっ!」
ユージもそれを追って飛び出す。
「ユージ! 無理はするなよ!」
その背中にアンヌが声を掛けるが、ユージが素直に聞くはずもない、とは思っていた。そしてアンヌは急いで捕らえた男を診る。が、
「…だめだ、事切れている」
男が吹いたのは毒針だったようで、それを眉間に受けた最初の男は既に死んでいた。
その黒覆面を取ってみると、そこから現れたのは若い男の顔。と、ギンガム侯には心当たりがあったのか、
「こやつは…」
「閣下、ごぞんじの男ですか?」
「うむ。…かつて、王弟派に属していた騎士の1人だったと思う」
「騎士、ですか」
「だが、仮にも騎士たる者がこのような強盗紛いのことをするとはな」
「まったく。情けないことです」
そうしてアンヌはゆっくりと死者を床に横たえると、
「閣下、私は屋敷内を見てまいります。先ほどの男の言葉が正しいなら、皆気絶させられているはず」
「うむ、そうだな、頼む。…フィオ、お前もアンヌに付いていけ。その仕事ぶりは勉強になろう」
「はい、お祖父様」
「マリイもおいで」
ギンガム侯爵とバルーダ伯爵の2人と一緒ではマリイにはさぞかし荷が重いだろうとのアンヌの気遣いである。
もちろんドナは当然のようにフィオレに付いてきている。
「あちらこちらに倒れた者がいるな。…ふうむ、皆、言葉通りに眠っているだけのようだ。余程強力な催眠魔法を使ったらしい」
「こういう時は正常化でいいのでしょうか?」
そう尋ねたフィオレに、
「そうだな。この場合はそれが適当だろう。やってみなさい」
「はい」
そうして、眠らされた者達を目覚めさせていったのである。
* * *
一方、ユージはまだ男を追っていた。付かず離れずの距離を置いて。
やっと掴んだ、マリイが持っていた星の欠片への手がかりである。やすやすと手放すつもりはなかった。
男は常人離れした速度で走ってはいるが、ユージは余裕を持って追っている。これはユージの両脚及び体に施された『印呪』によるものであった。
(どこまでいく気だ? まさか国外…いや、さすがにそれはないな)
今、男はおよそ時速50キロでかれこれ30分は走り続けており、既に20キロ以上を踏破したことになる。
と、男の速度が落ちた。その前にあったのは崩れかけた誰かの屋敷。戦争により住む者もいなくなった廃墟である。男はそこへ入っていった。ユージも、音を立てないよう注意してそっと中を窺った。
「…ただ今もどりました」
男が誰かに報告しているようだ。ユージは耳を澄ます。聴力も『印呪』のため、今は数倍に上がっていた。
「…はい、そうです」
「はい、申し訳御座いません」
「はい、口は封じました」
その時、忍び寄ったユージは、崩れ落ちた壁の穴からそっと中を覗いていた。男が報告している相手の姿は見えない。
「ふん、付けられたようだな」
「え!?」
そこの陰にお前を付けてきた者がいる。知っているはずだな、私が失敗を許さないことを」
「は、はい…」
「…だが、そいつを片付ければ無かった事にしてやろう」
「!」
そう言われ、男は覆面を取る。
「わかりました。見事討ち取って御覧に入れます。空気の槍!」
そうして壁の陰にいるユージ目掛けて魔法を放ったのである。
いよいよバトル展開…かも?




