014 闇ブローカー
時間は少し遡って、前日の昼過ぎ。
マリイが乗った小さな客船は大海原のまっただ中を進んでいた。周りには島影も見えない。
その船の中、マリイはラーダットと話をしていた。
「マリイ様、リンダ様が持ってらした宝石を見せていただけますか?」
「あ、はい」
何の疑いも持たず、マリイはバッグの底にしまったペンダントトップを取り出し、ラーダットに手渡した。
「拝見します」
そう言って受け取ったペンダントトップを、ラーダットは光に当てたり、日にかざしたりして眺め、
「青を基調にした7色のファイア、見事の一言に尽きる」
そう言ってマリイを顧み、
「リンダ様はこれをどこで手に入れたかおっしゃっていませんでしたか?」
と尋ねた。マリイは、
「いえ、何も。…母さまは記憶を無くしてましたから」
そう答えると、ラーダットの顔が歪んだ。
「残念、こんな星の欠片があと2、3個あれば島一つまるごと買えたろうに」
そう呟くラーダット。
「あの、もう返して下さい」
そう言って差し出したマリイの手が弾かれる。突然の事に驚くマリイ。
「ラーダットさん…?」
だがラーダットはその顔を歪めたまま、
「ふん、俺はそんな名前じゃあない。その世界じゃちっとは名の知れた闇ブローカー、バサラだ」
「え…! それじゃあ母さまのことは?」
「あれはデタラメだ。ティスラー家というのはあるが、そこに娘がいるかどうか知らん」
ショックを受けるマリイ。
「そ…それじゃあ…」
「この星の欠片が欲しかっただけだ。たまたま立ち寄った宝石商にお前達がいたのは運がよかったぜ。お前がこれの入手先を知っているかと一芝居打ったが、それは外れだったがな」
そう言って憎々しげに笑うバサラに、マリイは縋り付いて、
「返して下さい! おねがいします!」
そう言って涙ながらに訴える。だが。
「うるさい!」
そう叫んでバサラはマリイを蹴り飛ばしたのである。
「おとなしくしていればどこかの島で逃がしてやるものを」
腹部を蹴られ、息も絶え絶えになるマリイ、だがなんとか立ち上がり、ふらふらとよろめきながらバサラに近寄っていく。
「おね…がいです、母さまの形見なんです…返して…返して下さい…おねがいです…」
だがバサラは聞く耳を持たない。
「しつこい!」
もう一度蹴られたマリイは数メートル飛ばされ、壁にぶつかってそのまま崩れ落ちた。気を失ったのか、わずかに身体をひくつかせるのみ。
「ふん、くたばっちまいそうだな。まったく役立たずだったぜこのガキ」
バサラはマリイの首を掴んで甲板に出た。
「最後に魚の餌にでもなりな」
そう言ってマリイを海目掛けて放り投げたのである。
海に落ちたマリイはしばらくは波の間に漂っていた。
(わたし…やくたたずなのかな…生きててもしかたないのかな…)
残ったかすかな意識でマリイはそんなことを思っていたが、
(…もう…なにもかんじないや…)
そしてマリイの身体は波に呑まれた。
(かあさまのところにいけるのかな…)
マリイは海の底へと沈んでいく。
(ユージさん…さよ…なら…)
それがマリイの最後の思考であった。
* * *
「こいつは今、チャーターしたとかいう小型の客船で海に出ている。昨日の昼だ」
ユージは今、港近くの自警団詰め所に来ていた。
「わかりました、情報感謝します」
早速闇ブローカーバサラの情報が手に入ったことで、自警団は色めき立っていた。
「よし、快速艇を用意しろ」
「出られる人数を確認するんだ」
「水と食料は任せるぞ」
そんな喧噪を背に、ユージは詰め所を後にする。
「これでいい、よな…あとは自警団がなんとかするだろう」
そう自分に言い聞かせながら歩く。だがユージの脳裏には今朝見た夢と、マリイの泣き顔とが浮かんで消えない。
「…ちくしょう」
吐き捨てるようにそう呟いたユージは港へ向かって走り出す。途中、管理棟へ寄り、出港する旨も伝え、
「結局中途半端なんだよな、俺ってヤツぁ」
もやい綱を解きながら苦々しげに呟き、
「今度こそ、手を離さないぞ」
そう呟きながら船室に向かう。
操縦席に座ったユージは、
「快速艇『アーカディア』発進する!」
桟橋で誘導の手旗を振る管理人へ向かって怒鳴る。そして『アーカディア』は港を離れた。
しかしマリイは不幸の星の下に生まれついてますね…




