015 魔力探知
「少なくとも、初めのうちは北へ向かったはずだ」
ユージは快速艇『アーカディア』を駆りながら考える。
「少なくとも半日か一日は」
闇ブローカー、バサラと言えども、早々に疑われるような真似はすまい、と推測する。
「とにかく北へ。くそっ、軽々しく信じた自分が許せねえ」
全速で奔る快速艇『アーカディア』、その速度は普通の客船の3倍。
同じくバサラを追って港を離れた守備隊の船をも上回っている。快速艇『アーカディア』はユージが金に飽かせて造った逸品なのである。
島の間を抜けると波が高くなる。流石に小型艇では波に揉まれるが、ユージは気にしない。時には艇体が浮くこともあるくらいの速度を保ち、疾駆し続けた。
「何か手がかりさえあれば…」
船の影さえ見えず、ユージは焦り始めた。
「人間を探知する事が出来れば…まてよ?」
ふ、と思いついたのは、『大陸戦争』時に開発されたある魔導具である。それは敵軍にいる魔導士の位置を特定するためのもの。
魔導士が膨大な魔力を持っていることを利用し、その居場所を特定するものだ。原理はコンパスに似ている。
魔力に反応する『針』を、油に浮かべた物。針の刺す方向に魔力源がある。これを複数台使用することで三角測量的に位置を特定できるわけだ。
「確か、支給されたものがあったはず…捨てた憶えはねーしな」
倉庫を漁るユージ。10分ほど探すとそれは見つかった。
「あったあった。…少し油が古くなってるが大丈夫だろうな」
それを操舵室に持ち込み、風の魔石機関を止める。もちろん魔石機関の魔力干渉を防ぐためだ。
「うーん、なかなか針が安定しねーな」
そもそも、マリイに魔力がどれだけあるかが鍵なのである。因みにユージの魔力は一般人の倍程度。そんな強度では魔力探知針は動かないのだ。
「お? だんだん方向が安定してきたな。…ここから北東、か。駄目元で向かってみるか」
方角をきちんと読み取り、方位板で確認、ユージは再度『アーカディア』を走らせた。
数分後、周りの水面がおかしいことに気が付く。よく見ると水面に魚が群れているのである。それを狙う海鳥も1羽や2羽ではない。数10羽いや100羽以上が飛んでいる。
にもかかわらず魚の群れは水面を泳いでいた。
「この魚、名前は忘れたが確か魔力に寄ってくる習性のあるヤツだった気がするな、そうするとこのあたりに何か魔力を発する何かがあるということか」
船の速度を落とし、大きく円を描くように走らせてみた。同時に魔石機関は最低に絞る。多少の干渉は覚悟の上だ。
「お、左手に何か魔力があるらしい」
更に速度を落とし、描く円を縮めていく。その円の中心付近は魚で水面が盛り上がっていた。その中心に何かいる。
「あれは…!?」
見覚えのある色。マリイの服の色だ。それを確認したユージは一直線にそこを目指した。
「マリイ!」
やはりそれはマリイであった。大きな魚が押し上げるようにマリイの背中を鼻先でつついている。食べるとかそういう様子ではない。単に魔力を味わっている感じだ。
快速艇を止め、船縁から手を伸ばしてマリイを抱き上げるユージ。マリイの身体は冷え切っていた。急いで船内に戻り、用意したお湯につける。
しばらくすると、白かった頬に赤みが差してきた。
「マリイ! 俺がわかるか? しっかりしろ!」
ユージがそう声を掛けると、マリイはうっすらと目を開き、
「ユー…ジ…さ…ん…?」
か細い声を漏らし、また目を閉じた。
とりあえずマリイが生きていることを確認したユージは、マリイを毛布にくるんだ。次にすべきことは一刻も早く医者に診せることだ。
「ここから一番近い島…いや、やっぱりあそこがいいか」
少し考えた末、結論を出したユージはためらうことなく船首を巡らす。
「マリイ、死ぬんじゃないぞ」
魔石機関が壊れても良いと言わんばかりの速度で快速艇は奔る。事実、2基ある機関のうち片方にはひびが入りかけていた。
が、なんとか機関が壊れないうちに『アーカディア』は小さな島に辿り着いたのである。
船を錨で固定するや否やユージは船内にとって返し、毛布にマリイを包んだままそっと抱き上げ、揺らさないよう、だが出来るだけの急ぎ足で上陸。そのまま、目の前に見える小さな丘に向かう。正確には丘の上に立つ石造りの家に。
丘の半ばまでユージが登った時、扉が開いて中から背の高い初老の女性が出てきた。
「ほう、誰かと思えばユージ、君か。まだその時期じゃないはずだが、調子が悪いのか?…いや、その子の事らしいな?」
「アンヌ先生。そうなんだ、とにかくこいつを助けてやってくれ、頼む!」
丘の上まで一気に登り切り、有無を言わせない勢いでユージが切り出す。
「わかった、細かい事情は後で聞かせてもらうぞ。中へ入れ」
医者であろうその初老の女性は切羽詰まったユージの様子を見て取ると、余計な質問をすることなく、マリイの診察を始めた。
「肋骨骨折、腹部打撲、背部打撲、後頭部に小さな裂傷、…これは酷いな」
「助かりますか?」
心配したユージがそう尋ねると、
「私を誰だと思っているんだ? もっと酷い患者だって助けてきた。まあ任せておけ。…フラン! お湯を沸かしておけ」
「ハイ、センセイ」
フランと呼ばれたのは女性型の自動人形。やはり魔力で動く貴重品である。
「あとは任せてお前は外に出ていろ。そうだな、食事の仕度でもしておくがいい。もちろん、病人用だぞ」
「はい」
もうユージに出来ることはないとばかり、診察室を追い出される。ユージは勝手知ったるその家の台所へ向かい、粥を作ることにした。
「しかし、魔力探知針が役に立ったもんだ。ということはマリイにはかなりの潜在魔力があるって事だな」
亜人は総じて普通の人間よりも魔力が多い傾向にある。それを狙っての賭であったが、上手くいった。改めてユージは胸を撫で下ろしたのである。
お粥が出来上がる前に、診察室の扉が開き、フランが出てきた。
「ゆーじサマ、チリョウハオワリマシタ。センセイガヨンデイマス」
「わかった。じゃあ替わりにお粥が焦げ付かないよう見ていてくれ」
「リョウカイデス」
フランと入れ替わりに診察室へと向かうユージであった。
マリイ、助かりました、って、ヒロインですしね。




