013 悪夢
闇の中。
誰かが呼ぶ声がする。
「…………ん」
よく聞こえない。
「……ちゃん」
耳を澄ます。
「…いちゃん」
聞いた事のある声。
「お兄ちゃん」
それは妹の。
「茜!?」
叫んだ声で我に返る。
「どうしたの? 勇二」
気が付けば、隣にいるのは。
「ミ…ヤ…?」
幼馴染みのミヤ。
「やだ、寝ぼけてんの? せっかくのデートなのに」
「ミヤ…? ミヤなのか?」
「そうよ、ほんとに寝ぼけてるの?」
頭を振って意識をはっきりさせる。
「また茜ちゃんのこと考えてたの?」
「…ん」
「そっか、やっぱりね。あたしじゃだめなんだ。あたしじゃ勇二の心の隙間、埋めてあげられないのね」
(違う、ミヤ、違う)
そう言いたいのに声が出ない。
(ミヤと茜は違う、ミヤがいてくれたから俺は…)
もう少しで声が出る、そう思った瞬間。
あたりを揺るがす爆発音が響いた。ファイヤーボムが打ち込まれたに違いない。
大慌てで逃げ惑う群衆。俺はミヤに手を伸ばす。
「ミヤ! こっちだ!」
ミヤの手をしっかりと握り、
「ミヤ! 急げ!」
安全と思われる方向へと全力で走る。
「勇二…」
「急がないとここもやられちまう」
反乱軍は無差別に攻撃を仕掛けてくる、逃げるしかない。更に足を速める。と、ミヤの手を引く、その腕が軽くなった。振り返る。
己が握っていたのはミヤの手首だけ。そこから先は焦げて無くなっている。
「ミ…ミヤ!?」
その時、空から降り注ぐ無数の炎の矢。それは俺の身体を貫いていく。俺は声もあげることなくそこで息絶え…
「…っ!」
ユージは全身に汗をにじませ、起き上がった。
「またあの夢か」
嫌な気分を振り払うように2度3度、頭を振るユージ。
「ここ2日ばかり見なかったのに」
「ユージ? どうしたの?」
そう聞いたのは横に眠っていた一糸まとわぬ格好の女。
「エリー、なんでもない」
ここはエリーの部屋。昨夜、誘われるまま、エリーの部屋で呑み、そのまま寝たのだった。
「もう外は明るくなってるな」
窓から差し込む光は朝のもの。
「まだ早いよ、もう少し寝よ?」
毛布を引き寄せてエリーが眠そうに言うがユージは、
「俺、帰るよ」
と言った。エリーは薄目を開け、
「そぅお? 朝ご飯作ったげようと思ったのにな」
といくぶん残念そうに言った。ユージは脱ぎ捨ててあった服を身に着けながら、
「また今度な」
そして服を着終わると、
「世話ンなったな、エリー」
そう言ってドアに手を掛けた。エリーはその背中に向かって、
「また会える?」
ドアを開けたユージは振り返らずに、
「縁があったらな」
そう言ってドアを閉めたのだった。
外は閑静な住宅街。歩いている者はいない。ユージは朝日に向かって背伸びをし、
「ああ、いい天気だ。船に帰ってシャワーでも浴びてメシ喰うか」
そうひとりごちながら歩いて行った。
船でシャワーを浴びてさっぱりしたユージは着替えを手に取る。と、床に落ちている物を見つけた。
「こりゃ…」
それはマリイの下着。有り体に言うとかぼちゃぱんつである。
「あー、渡してやり損なったな」
苦笑して汚れ物の籠へと放り込む。水の魔石を使った簡単な洗濯機が備えてあるのだ。水洗いで落ちるような汚れならこれで十分である。
「そういえばあいつがいた時は夢…見なかったっけか」
そう呟きながらマリイのことを思う。今ごろはもう次の島に着いているだろうか。
「あー、朝飯は外で食うかな」
気分を変えようと、ユージは着替えて船を出る。
港の桟橋を渡り終え、なんとなくそこにあった掲示板に目をやる、その顔に驚愕が走った。
「何…? 宝石、貴金属を主に狙う闇ブローカー、バサラ!?」
掲示板に貼り出されたばかりである指名手配のビラ。そこに描かれた似顔絵の顔はどう見てもマリイを託したラーダットであった。
驚愕の事実が明らかに。マリイの運命は?




