012 杖
星空の下、ユージはエリーと歩いていた。
「あー、いいきもちに酔っちゃった」
そう言ったエリーにユージは、
「俺はまだ呑み足らねー」
「じゃあさ、あたしの部屋で呑みなおそうよー」
そう言ってユージの腕にぶら下がるエリー。
「こわいおにーさんはいねーんだろーな」
笑いながらそう言うユージにエリーは、
「いないわよォ、そんなの! いてもユージなら怖くないでしょ?」
ユージも笑って、
「ちげェねェ」
そんなユージの雰囲気が一瞬にして変わる。それを感じ取ったエリー、
「どしたの…?」
立ち止まったユージは、腕にぶら下がったエリーを振り解き、
「後ろに下がってな」
よくわかっていないエリーは、
「え…?」
と怪訝そうな顔をするが、
「いいから!」
ユージはそんなエリーを半ば強引に後ろに下がらせる。
そうしてユージは前方を見つめた。そこから歩いてくる人影。その先頭が口を開いた。
「さっきはなめたマネしてくれたな。このワーダー様を怒らせたのが運の尽きだぜ」
さっきの酔客である。どうやらチンピラ連中の頭格だったらしい。背後には5、6人の男が控えていた。
だがユージは泰然自若として、
「何だい、こんな夜更けに騒がしいな」
「ふざけるな! 土下座すりゃ半殺しで済ませてやろうと思っていたが…」
ユージは、更に何か言いかけた男の言葉を遮って、
「手っ取り早くいこーぜ。レディを待たせてるんでね」
「ふん、女のことなら心配はいらねえ。お前のかわりに俺が相手してやるからよ」
そう言ったワーダーは後ろの男達に命令する。
「やっちまえ!」
すると後ろにいた5人の男達は剣を抜き、一斉にユージへと飛びかかった。
「ふん」
だがユージは一歩後ろに下がり、振り下ろされた剣を躱す。その振り下ろした剣を再び振り上げる前に、
1人目は眉間を右手の指で突き、
2人目は喉を左手の拳で突いた。
3人目は右肘で鳩尾を一突き。
4人目は左の裏拳で鼻柱を一撃。
5人目は左膝で股間を蹴り上げた。
というわけで、一瞬にして5人は気絶して地面に転がったのである。
「さて、次はどうするんだい? お前がかかってくるのか?」
ワーダーに向き直ったユージがそう言うと、
「う…この化け物め!」
そう言って『杖』を取り出した。それを見たエリーは青ざめた。『杖』は有名な魔導具であった。だが、
「へえ、『杖』か? そんなもの、よく手に入ったな」
あくまでも軽いユージに、
「ふ、ふん! そうさ、この『杖』は例の大陸戦争の時使われていた物だ! これ1本であたりを火の海にすることが出来るんだぜェ!」
そう言って凄むワーダー。だがユージは落ち着いたもので、
「『杖』、か。魔石を加工して作った兵器。魔力のない一般人でも魔法攻撃を可能にする武器。火、水、風などの属性がある。…その『杖』は火の属性のようだな」
等と解説している。
「へっ、余裕こきやがって。いくらお前が化け物じみて強くてもこいつ相手じゃどうしようもねェだろう」
そう言って魔法発動の呪文を称えようとする。が、
「がっ!」
その頭が後ろへのけ反る。そのままワーダーはひっくり返った。
「え?」
後ろで見ていたエリーは呆気にとられる。
その後、小さな音を立てて地面に落ちた銅貨が1枚。ユージが投げた物だ。
「な…いつ投げたんだ…?」
銅貨をぶつけられた額に手を当て、顔を顰めるワーダー。
ユージはゆっくりとそんなワーダーに近づき、『杖』を奪い取った。
「こんなもの、町中で使うんじゃねえよ。つくづく救えねェヤツだ」
そう言うと、『杖』を真二つにへし折る。
更にトドメとばかりに鳩尾へ一撃。ぐえ、とカエルを踏み潰したような声を残してワーダーも気絶した。
ユージは振り返り、
「エリー、待たせたな。行こうぜ」
すると我に返ったエリーは歓声を上げる。
「すっごーい! 強いなんてもんじゃないのね! シビレたわ!」
そう言ってユージに抱きついた。
まだまだユージは本気になっていません。




