011 酒と喧嘩と男と女
マリイが乗った船が見えなくなるまで港で見送っていたユージは、伸びを一つすると、
「さーて、また一人か。…呑みに行くとするか」
そう言って繁華街へと足を向けた。ちなみにまだ昼前である。
* * *
4件、酒場をハシゴしたユージは、5件目のバーでカクテルを飲んでいた。さすがに日は暮れている。
2杯目のカクテルを注文、それを手に取った矢先、金切り声が響いた。
「きゃあっ! やめてください!」
見ると、店の女店員が客に絡まれているようだ。
「お客さん、困りますよ」
店長がやんわりそう言うが、酔客は耳を貸そうとしない。
「店の女にお酌をしろと言って何が悪い!?」
そう言って女店員を抱く肩に力を込める。女店員は青い顔で、
「お…お客さまはお酌だけではなくて私の身体をさわったりなさっているじゃありませんか」
そう言うが酔客には逆効果。
「なにィ…いいがかりつける気か?」
そう言って女店員の頭を押さえ、テーブルに押しつける。
「きゃあっ! 痛い! 痛いです!」
それでも酔客は押さえつける手を止めない。
「やめろ、バカ」
そう言ったのはユージ。酔っぱらってはいても悪口はわかったらしく、
「何だとォ? 誰だ? もういっぺん言ってみろ!」
そう言って周りを見回す酔客に、
「ここは静かに呑むところだ。騒ぐんなら外へ出ろ。女を抱きたきゃ娼館ヘ行け。バカ」
振り向きもせずにユージが言った。
「若僧がァ! こっちを向け!」
そう言って席を立つ酔客。だがユージが背中を向けたままなので、怒った酔客はテーブルの上のビンを掴むと、
「こっちを向けっつってんだろが!」
ユージに向かって投げ付けた。そのビンを振り向きもせずにユージは後ろ手で受け止め、
「ありがとよ、くれるのかい。…お、いい酒じゃねーか」
そう言うと更に酔客は頭に血を上らせ、ついに腰に下げたナイフを抜いた。
「こいつ…なめやがって」
それユージの背中目掛けて真っ直ぐ突き出す。
「あの世で後悔しな!」
それを見ていた女店員はユージが刺されるところを想像して目をつぶった。が、実際は。
ぱきん、という乾いた音がした。
「 え 」
間の抜けた声を出したのは酔客か、それとも女店員、はたまた店長だったろうか。
酔客の突き出したナイフはユージの人差し指と中指に摘まれ、刃の部分だけが折取られていたのである。
「酒場で刃物出すんじゃねェ!」
そう言って殺気をみなぎらせたユージに、酔客は酔いも一気に醒めたようで、
「う…く…おぼえてろよ!」
そう捨て台詞を残すと、店を出て行こうとした。その背中にユージが声を掛ける。
「待ちな」
びくっと身体を震わせ、足を止める酔客に、
「ちゃんと勘定払って行けよ」
釘を刺すユージ。酔客は舌打ちをしながらも銀貨を投げ付けるようにカウンターに置くと慌てて店を出て行ったのである。
「なかなかうまいな」
酔客が投げたビンの酒を呑むユージの所へ、
「あ…あの、ありがとうございました」
女店員が礼をする。が、ユージは、
「気にすんな、俺も静かに呑みたかっただけだ」
そう言って軽く流すのであった。そんなユージに声を掛けてきた者がいる。
「おにーさん、カッコよかったわよー」
ちらと見ると、栗色の髪を肩まで伸ばしたグラマラスな美人である。
「ね、となり座ってもいいかしら?」
「ああ。ヤローは嫌だが美人なら大歓迎だ」
「ありがと。…マスター、あたしバーボン」
ユージの隣に座った美女はそう言って注文した後、
「ね、おにーさん、名前は? あたしエリー」
と聞いてきた。それにユージは、
「ユージ」
ぶっきらぼうに答える。
「ふーん、じゃあさ、ユージ、今夜何か予定ある?」
「別に」
「ホント? じゃあさ、このあとあたしに付き合わない?」
そう言って美女、エリーはユージにしなだれかかってきた。それを拒むでもなくユージは、
「ああいいよ」
と答えると、エリーはグラスを手に嬉しそうに、
「やった! じゃあ乾杯しましょ!」
そして二人はグラスを合わせた。
実はユージはいろいろあって酒に関してはザルでした。




