↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/31

第18話:リュネ


 玲たちは日の出とともに街を出た。目的地はさらに北。悪魔の目撃情報を辿りながら、レヴィアタンの居場所を探す。

 昨日までと違うのは、先頭を歩く人間が一人増えたことだった。


 長い黒髪。腰には刀。 左腕には、昨日の傷を覆う包帯が巻かれている。

 美月は普段と変わらない足取りで街道を進んでいた。


 一行は街道から外れた森へ入っていた。昨夜、この辺りで荷馬車が悪魔に襲われたという。幸い商人たちは逃げ切ったが、荷物はそのまま残されているらしい。

 木々の間を進んでいると、先頭の美月が足を止めた。


「いる」


 ほぼ同時に、玲も鼻を動かす。


「二体」


 美月が玲を見る。


「相変わらず便利だね、それ」

「だろ?」


 どこか得意げな玲を置いて、美月は腰の刀へ手をかけた。

 鞘から僅かに刃が覗く。


「行ってくる」

「待て」


 玲が美月の動きを止める。


「何?」

「なんで一人で行くんだよ」

「二体なら一人で倒せる」

「そうじゃなくて!」


 森に玲の声が響いた。

 椎名が額を押さえる。


「悪魔に居場所教えてどうするのよ……」


 その言葉が終わるより先に、木々の向こうから物音がした。


「来る」


 美月が再び刀へ手をかける。

 その直後、二つの影が飛び出した。

 

 人間によく似た姿。額には角、首から頬へ黒い筋が伸びている。


 片方が美月へ向かう。

 美月は迷わず踏み込んだ。


 一閃。


 悪魔の胸から血が散る。


 だが浅い。


 身体を捻った悪魔が腕を振り下ろす。

 美月はそれをかわし、そのまま懐へ入った。


 もう一体が横から迫る。


「美月!」


 玲が地面を蹴った。脚だけに力を流す。

 一気に距離を詰め、黒い長剣を引き抜いた。


 悪魔の腕と刃がぶつかる。

 玲の身体が押されるが、それでも悪魔の足は止まった。


「こっちは俺がやる!」


 返事はない。

 美月はすでに目の前の悪魔と斬り合っている。


 玲も剣を構え直した。


 悪魔が迫る。


 速い。


 だが、数日前ほどではない。


 拳をかわし剣を振る。

 それを避けられるが、玲は追わずに悪魔の次の動きを待った。


 悪魔が再び踏み込む。


 玲は脚へ力を流した。

 ぎりぎりまで引き付け、わずかに横へ飛ぶ。

 

 そして次に腕へと力を流し、素早く剣を振り下ろした。

 刃が悪魔の肩を切り裂く。


「よし!」

「前!」


 椎名の声。


「え?」


 悪魔の膝が腹へ入った。


「ぐっ――!」


 玲の身体が浮く。

 だが、地面へ落ちるより先に踏ん張った。


「痛ってえ……!」

「戦ってる途中で喜ばない!」

「当たったから!」

「それで次を食らってたら意味ないでしょ!」


 悪魔が玲へ向かう。

 その足元へ、一本の短剣が飛んだ。


 かわされる。


 だが刃の後ろには鎖が伸びていた。

 椎名が手首を返すと、鎖が木の幹を回り悪魔の進路を塞いだ。


「玲!」

「分かってる!」


 悪魔は鎖を飛び越えた。

 だが、その着地点。

 玲はすでに剣を振っていた。


 黒い刃が悪魔の胴を斬る。

 血しぶきが舞い、悪魔がよろめく。


 玲は止まらない。

 今度は追っていい。


 剣を握り直し、もう一歩踏み込もうとした——が。

 その横を黒い影が通った。


 一瞬。


 玲が相手をしていた悪魔の首に線が走る。

 目の前の悪魔が地面へ崩れ落ちた。


「倒した」


 美月が刀についた血を払う。

 少し離れた場所には、もう一体の悪魔も倒れていた。


「……早くね?」

「普通」

「俺、今いいところだったんだけど」

「そうなの?」

「そうだよ!」


 美月は玲の剣を見る。


「前より使えてる」


 玲の口が止まった。


「…………だろ?」

「うん」


 急に機嫌が直った。


「単純じゃな」


 かぐやが呟く。

 

 椎名は倒れた悪魔へ近づきながら、傷口を確認した。

 そして美月を見る。


「ねえ」

「何?」

「腕」


 白い包帯に、赤い染みが広がっている。

 先ほどの動きで傷が開いたらしい。


「また血出てるじゃない」

「平気」


 玲がすぐに寄ってくる。


「なんで最初から一人でやろうとすんだよ」

「倒せるから」

「俺たちいるだろ」


 美月が玲を見る。


「でも、玲より私の方が強い」

「……それはそうだけど」

「なら私が倒した方が早い」


 昨日、騎士たちが言っていたことと同じだった。


 美月一人の方が早い。

 美月が一番強い。

 だから、美月にやらせる。


 玲の顔から少しずつ不満が戻ってくる。


「それ嫌だ」

「何が?」

「俺らも戦う」

「危ないよ」

「美月だって危ねえだろ」

「私は慣れてる」

「関係ねえ」


 玲は即答した。


「一人で全部やんなくていいだろ」


 美月が黙る。


「俺が一体。美月が一体。椎名もいる」

「勝手に私を数えないでくれる?」

「椎名は強いから大丈夫」


 美月は二人を見ていた。


「……効率悪くない?」

「何が?」

「玲が戦うより、私が二体倒した方が早い」

「だから!」


 玲が声を上げかけるが、途中で止める。


「じゃあ俺が強くなればいい」

「…………」

「美月が一人でやるより、俺たちでやった方が早くなるくらい」


 玲は黒い剣を見る。


「まだ無理だけど」


 以前なら、できると言っていたかもしれない。

 美月はその言葉を聞いて、玲をしばらく見つめた。


「……分かった」

「本当か?」

「うん」


 美月は刀を鞘へ収める。


「次は一緒にやる」


 玲が笑った。


「おう!」

「ただし危なかったら私が倒す」

「俺が倒す」

「さっき蹴られてた」

「あれはちょっと油断しただけ!」


 また言い合いが始まりそうになり、椎名が二人の間へ入った。


「はいはい。まず傷の手当て」


 美月の腕を掴む。


「座って」

「大丈夫」

「早く座る」


 美月は少し考え、大人しく近くの木の根元へ腰を下ろした。

 椎名が包帯を外し処置を始める。


 玲はその様子を見ながら、剣を鞘へ戻そうとした。


 そこで。


「玲」


 かぐやが低い声を出した。


「ん?」

「まだ何かおるぞ」


 玲の表情が変わる。


 鼻を動かすと、確かに。

 悪魔とは違う人間の匂いがした。


「向こう」


 森の奥を見る。

 玲が歩き出すと、かぐやも後に続いた。


 茂みを抜けたところで、玲は足を止める。

 木の根元に男が倒れていた。


 服は泥と血で汚れている。

 身体にはいくつもの傷。


 だが胸は僅かに上下していた。


「生きてる!」


 玲が駆け寄る。

 声に気づいた椎名と美月も遅れてやってきた。


 美月が男の首へ指を当てる。


「脈はある」

「こいつ、襲われた商人か?」

「服装はそう見えるけど」


 椎名が荷物を確認していると、男の瞼が僅かに動いた。


「……う……」

「おい」


 玲が顔を覗き込む。


「大丈夫か?」


 男の目が開く。

 玲たちを見ると、一瞬怯えたように身体を動かした。


「悪魔は倒した」


 その言葉で男の身体から僅かに力が抜ける。


「……二体……?」

「うん」

「よかった……」


 掠れた声だった。


「何があった?」


 男はすぐには答えられなかった。


 椎名が水を飲ませる。

 少しして、ようやく呼吸が落ち着いたようだ。


「荷馬車で……北から来た」

「北?」


 玲が反応する。


「どこから?」

「リュネの町……」


 美月が僅かに眉を動かした。


「知ってる?」


 玲が尋ねる。


「ここから北にある町。歩いて二日くらい」

「そこから来る途中で襲われたのか?」


 男は首を振った。


「違う……あいつらは……町の近くから、ずっと北へ向かってた」

「悪魔が?」

「ああ……」


 玲たちは顔を見合わせる。


 また北だ。


「俺たちを見つけて……二体だけ寄ってきた。荷物を捨てて逃げたけど……」


 男は腹の傷を押さえた。


「他の悪魔は……そのまま北へ行った」

「なんで?」

「知らない……」


 男は目を閉じる。


「でも……リュネでも、同じ話ばかりだった」

「同じ話?」

「悪魔が北へ行くって……」


 玲が立ち上がった。


「じゃあ次はそこだな」

「まだ話終わってないでしょ」


 椎名に止められる。

 男は苦しそうに息をしながら、続けた。


「町に……騎士がいる」

「騎士?」

「北へ向かった悪魔を調べてる……」


 玲が僅かに眉を潜めた。


「リュネに行けば、情報があるかもしれない」

「決まりだな」


 玲が言う。

 椎名も異論はないらしい。


「乗れ」

「え……?」

「街まで運ぶ」


 男が戸惑っている間に、玲はその腕を肩へ回した。

 以前ならその重さにふらついていたかもしれない。だが、ここ数日の戦いと特訓で、玲自身も少しずつ身体の使い方を覚えてきていた。


「行くぞ」


 玲が先頭を歩く。背中には負傷した男。その横をかぐやが歩き、少し後ろを椎名と美月が続く。


 目指す場所が一つ増えた。


 『北の町、リュネ』


 悪魔たちはさらにその先へと向かっている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。