↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したおじさん、目立ちたくないけど傾聴スキルでモテまくる  作者: なごやかたろう
新人受付嬢編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/56

第7話 十回褒めて、一回だけ直す

 翌朝。


「おはようございます!」


 私はいつもより少しだけ元気に挨拶をした。


「おう。おはよう」


 受付カウンターの前を通ったアルベルトさんが、軽く手を上げる。

 それだけで、なんとなく嬉しくなる。

 昨日、話を聞いてもらったからだろうか。

 今日は頑張れそうな気がする。


     ◇


「では、こちらの依頼についてご説明しますね」


 午前中。

 私は一人の冒険者に依頼内容を説明していた。


「依頼場所は東側の森です。最近、魔物の目撃情報が増えているため、通常より警戒して行動してください」

「報酬は?」

「銀貨三枚です。討伐対象の証明が必要になりますので、こちらの――」


 そこまで説明してから、私は依頼書を確認した。

 以前なら、ここで説明に詰まっていた。

 けれど今日は違う。

 昨日、先輩に教えてもらったことを思い出しながら、順番に説明していく。


「以上になります。何かご不明な点はありますか?」

「ない。分かった」

「ありがとうございました。お気をつけて」


 冒険者が受付を離れていく。


「……できた」


 小さく呟いた。

 ちゃんと説明できた。

 いつもより、ずっとスムーズだった。


「今の、よかったぞ」

「え?」


 横から声がした。

 アルベルトさんだった。


「聞いてたんですか?」

「たまたまな」

「……どうでした?」

「まず、説明する順番が分かりやすかった」

「はい」

「それから、相手の顔を見ながら話してたな」

「そこも……ですか?」

「ああ」

「ありがとうございます」

「あと、最後に『何かご不明な点はありますか?』って聞いたのもいい」

「……」


 次々と出てくる。


「声の大きさも丁度よかった」

「はい……」

「それと、依頼書を確認してから話したのもいいな」

「……そんなところまで?」

「見てれば分かる」


 私は思わず笑った。


「なんだか……いっぱい褒めますね」

「いいところがあったからな」


 その言葉が嬉しかった。

 ただ「頑張ったな」と言われるよりも。

 何がよかったのかを具体的に言ってもらえる。

 ちゃんと見てもらえている。

 そんな感じがした。


「じゃあ、逆に……駄目だったところは?」

「あるぞ」

「えっ」


 少し緊張する。


「最後の確認だ」

「最後の?」

「『何かご不明な点はありますか?』って聞いたあと、相手が『ない』と言っただろ?」

「はい」

「そこで一瞬だけ、リゼが先に話し始めようとした」

「あ……」


 思い当たる。


「相手がまだ何か言おうとしているかもしれないから、あと一拍だけ待つともっといい」

「なるほど……」

「まあ、それくらいだ」

「……それだけですか?」

「ああ」


 私は少し拍子抜けした。


「もっといっぱいあるのかと思いました」

「新人なんだから、できてないところを全部探してたらキリがないだろ」

「でも、直したほうが……」

「もちろん直す」


 アルベルトさんは頷いた。


「ただ、十個できてないところがあったとしても、十個全部言えばいいってもんじゃない」

「……」

「一度に全部直せる奴なんて、そうはいないからな」

「じゃあ……」

「今日は一個だけ覚えればいい」

「一個だけ」

「ああ」


 私はその言葉を頭の中で繰り返した。


「十回褒めて、一回だけ直すくらいでちょうどいい」

「……十回?」

「まあ、今のは分かりやすく言っただけだ」


 アルベルトさんが笑う。


「でも、本当にそういう感じです」

「何が?」

「アルベルトさんって、まず褒めますよね」

「そうか?」

「はい」


 私は少し考えてから言った。


「前に私が失敗したときも、全部駄目とは言いませんでした」

「全部駄目じゃなかったからな」

「今日も、最初にいっぱい褒めてくれました」

「できてたからな」

「……」


 まただ。

 この人は、当たり前みたいに言う。

 でも。

 私には、その言葉が嬉しかった。


「ありがとうございます」

「おう」

「……私、もっと頑張ります」

「頑張るのはいいが、無理はするなよ」

「はい」


     ◇


 昼過ぎ。

 私はまた受付の仕事に戻った。

 さっき教えてもらったことを意識して、冒険者への説明をする。

 依頼内容を説明する。

 質問がないか確認する。

 一拍待つ。


「……ありがとうございました」


 今度は、少しだけ上手くできた。

 私は小さく拳を握った。


「よし」


 自分でも分かる。

 昨日までとは違う。

 ほんの少しだけど。

 前に進んでいる。


     ◇


 仕事が終わったあと。

 私は受付カウンターを片付けながら、ふと思った。

 アルベルトさんは、どうしてあんなに人のことを見ているんだろう。

 昨日は、私が悩んでいることに気づいた。

 今日は、私の説明の仕方を見ていた。

 昼には「ちゃんと食べたか」と聞いてくる。

 そして。

 私が自分では気づいていなかった小さな成長まで、見つけてくれる。


「……不思議な人」


 五十歳なのに。

 どこか落ち着いていて。

 話していると、安心する。

 もっと話してみたい。

 もっと、私のことを知ってほしい。

 そして――。

 もっと、この人のことを知りたい。


「……アルベルトさん」


 気づけば、その名前を小さく口にしていた。

 胸の奥が、ほんの少しだけ温かくなる。

 まだ、これは恋じゃない。

 ただ――。

 アルベルトさんに褒めてもらえると、嬉しい。

 また明日も話したい。

 そう思った。

 それだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。