↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したおじさん、目立ちたくないけど傾聴スキルでモテまくる  作者: なごやかたろう
過去編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

54/56

第54話 個人的なお礼

 盗賊討伐隊が。

 ギルドを出発した。

 参加した冒険者は。

 十数人。

 全員。

 Cランク以上。


「……」


 マリアは。

 ギルドの入口から。

 その背中を見送っていた。


「気をつけてください」

「任せろ!」

「盗賊なんて」

「まとめて捕まえてくるさ!」


 冒険者たちが笑う。

 しかし。

 マリアの表情は。

 少しだけ硬かった。


「……」


 あの盗賊たち。

 思い出したくない。

 しかし。

 忘れることもできない。


「……大丈夫?」

「……っ」


 突然。

 隣から声がした。

 マリアが振り返る。


「アルベルトさん」

「顔」

「少し青いよ」

「……」

「大丈夫です」

「本当に?」

「はい」

「……」


 アルベルトは。

 少しだけマリアを見る。


「……」


 マリアは。

 誤魔化すように笑った。


「少しだけ不安なだけです」

「……」

「そっか。でも、大丈夫だと思う」

「……」

「どうしてですか?」

「今回はちゃんと準備した討伐隊だから。それに、マリアさんの情報がある」

「……」

「盗賊たちの人数」

「拠点の様子」

「見張りの位置」

「武器」

「全部」

「ちゃんと役に立ってる」

「……」


 マリアは。

 少し目を伏せる。


「……」


 自分は。

 怖かった。

 何もできなかったと思っていた。

 助けられただけ。

 そう思っていた。


「……役に立ちましたか?」

「もちろん」

「……」

「むしろ」

「一番重要な情報だったと思う」

「……」


 マリアの胸が。

 少し軽くなる。


「……ありがとうございます」

「俺に?」

「はい」

「……」

「アルベルトさんは、いつもそういうことを言ってくれます」

「……」

「頑張ったことを、ちゃんと見つけてくれる」

「……」


 アルベルトは。

 少し困ったように笑った。


「そうかな」

「そうです」

「……」


 マリアは。

 少しだけ笑う。



 その日の仕事が終わる頃。


「お疲れ様です」

「お疲れ」

「……」


 ギルドの中には。

 もうほとんど人がいない。

 受付の片付けを終えたマリアが。

 アルベルトのところへ来た。


「アルベルトさん」

「ん?」

「少し」

「時間ありますか?」

「あるけど」

「どうしたの?」

「……」


 マリアは。

 少し迷う。


「その」

「お礼をしたくて」

「お礼?」

「……」

「ちゃんと、改めて」

「……」


 アルベルトは。

 少し首を傾げた。


「もう何度も言ってもらったけど」

「それとは違います」

「……?」

「これは個人的なお礼です」

「……」


 アルベルトは。

 少し考える。


「……何か欲しいものでも」

「違います!」

「……」

「何でもありません」

「じゃあ」

「どういう……」

「動かないでください」

「……?」


 マリアが。

 一歩近づく。


「……」


 アルベルトが。

 少し驚く。


「マリアさん?」

「……」


 マリアの顔が。

 赤くなっている。


「……その」

「本当に」

「ありがとうございました」

「……」

「助けに来てくれて」

「怖くないようにしてくれて」

「帰してくれて」

「……」


 マリアは。

 少しだけ。

 唇を噛む。


「……」


 そして。


「……失礼します」

「……?」


 背伸びをする。

 アルベルトの顔へ。

 近づく。


「……」


 ちゅっ。


「……?」


 柔らかい感触。

 アルベルトの頬に。

 唇が触れた。


「……」

「……」


 一瞬。

 時間が止まる。


「……」


 マリアは。

 数秒。

 動かなかった。


「……」


 そして。

 ゆっくり離れる。


「……」

「……」


 顔が。

 一気に赤くなった。


「……」


 自分が。

 何をしたのか。

 今さら。

 理解した。


「……っ!?」

「わ、私!」

「……」


 言葉が出ない。


「い、今のは! その!」

「……」


 アルベルトは。

 頬に手を触れる。


「……」


 そして。


「お礼?」

「……っ!」


 マリアの顔が。

 さらに赤くなる。


「ち、違います!」

「違わないでしょ」

「……」

「……」


 マリアは。

 完全に混乱していた。


「……」


 逃げたい。

 今すぐ。

 しかし。

 足が動かない。


「……」


 アルベルトが。

 少し笑った。


「ありがとう」

「……」

「嬉しかったよ」

「……っ!」


 マリアは。

 顔を両手で覆った。


「……」

「もう!」

「……」

「アルベルトさん!」

「何?」

「何でもありません!」

「……」

「失礼します!」


 マリアは。

 逃げるように。

 その場を離れた。


「……」


 残されたアルベルト。


「……」


 頬を触る。


「……」

「お礼」


 小さく呟く。

 そして。

 少し考える。


「……」

「いや、それにしては随分大胆だな」



 その夜。

 マリアは。

 ベッドの上で。

 枕に顔を埋めていた。


「……」

「……」

「……」

「……」

「……っ!」


 足をばたばたさせる。


「私!」

「何してるの!?」


 思い出す。

 アルベルトの顔。

 頬。

 自分の唇。


「……っ!」


 さらに枕へ顔を埋める。


「……」


 感謝していた。

 それは本当。

 お礼をしたかった。

 それも本当。

 しかし。

 どうして。

 あんなことを。


「……」


 自分でも。

 分からない。

 ただ。

 あの人の顔を見ていたら。

 近づきたくなった。


「……」

「……」


 マリアは。

 ゆっくり。

 顔を上げる。


「……」


 胸が。

 少し苦しい。

 でも。

 嫌ではない。

 むしろ。

 思い出すと。

 嬉しくなる。


「……」

「これって」

「……」


 その先の言葉は。

 まだ。

 口にできなかった。



 数日後。


「おはようございます」

「おはよう」

「……」

「……」


 ギルドの受付。

 マリアとアルベルト。

 目が合う。


「……」


 マリアが。

 すぐに目を逸らす。


「……?」

「どうしたの?」

「何でもありません」

「そう?」

「はい」

「……」


 明らかに。

 何かある。

 しかし。

 アルベルトは。

 それ以上。

 追及しなかった。


「……」


 その優しさが。

 余計に。

 マリアを困らせる。


「……」


 マリアは。

 小さく息を吐いた。

 そして。

 受付の向こうから。

 アルベルトを見る。


「……」


 まだ。

 自分の気持ちに。

 名前をつけることはできない。

 しかし。

 一つだけ。

 確かなことがあった。

 もう。

 あの日の前と同じように。

 この人を見ることは。

 できなくなっていた。

 それだけは。

 間違いなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。