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転生したおじさん、目立ちたくないけど傾聴スキルでモテまくる  作者: なごやかたろう
過去編

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第51話 静かなる救出

 夜の森。

 盗賊たちの拠点。

 その周囲を。

 静かな男が歩いていた。

 足音はない。

 草を踏む音も。

 服が擦れる音も。

 聞こえない。


「……」


 アルベルトは。

 木の陰から。

 見張りの男を見る。

 男は。

 退屈そうに辺りを見回していた。


「……」


 アルベルトが。

 小さく指を動かす。


「眠り」


 地味な魔法だった。

 強力ではない。

 相手の意識を強制的に奪うような魔法でもない。

 ただ。

 眠気を誘うだけ。


「……あ?」


 見張りの男が。

 欠伸をした。


「……なんだ」


 もう一度。

 欠伸。


「……眠いな」


 男は。

 壁にもたれかかる。


「……」


 アルベルトは。

 さらに魔力を流した。


「……」

「……くそ」


 男の瞼が。

 ゆっくり閉じる。

 そして。

 その場に座り込んだ。

 数秒後。

 寝息を立て始める。


「一人」


 アルベルトは。

 小さく呟いた。


 次の見張り。

 同じように。

 眠らせる。

 しかし。


「……?」


 少し離れた場所にいた盗賊が。

 こちらを見る。


「おい」

「どうした?」


 男が近づいてくる。


「……」


 アルベルトは。

 動かない。


「おい」

「寝てるのか?」


 盗賊が。

 眠っている仲間を見る。


「何やってんだ」

「……」


 その背後。

 アルベルトが。

 ゆっくり近づいた。

 足音はない。


「起きろ」


 盗賊が。

 仲間の肩を掴んだ。

 その瞬間。


「……っ」


 首筋に。

 軽い衝撃。


「……?」


 盗賊が振り返る。

 しかし。

 誰もいない。


「……なんだ?」


 次の瞬間。

 また。

 眠気。


「……」

「なんだ」

「これ……」


 男の身体が揺れる。

 そして。

 ゆっくり倒れた。


「二人」



 見張りを。

 一人ずつ。

 無力化する。

 正面から戦わない。

 騒がせない。

 剣も抜かない。


「……」


 アルベルトは。

 建物の近くまで来た。

 窓から。

 中を覗く。

 盗賊たちは。

 酒を飲んでいた。


「……」


 人数。

 八人。

 そのうち。

 三人はかなり酔っている。

 残り五人。

 問題は。

 部屋の奥にいる者。


「……」


 マリアが。

 どこにいるか分からない。


「先に探すか」


 アルベルトは。

 建物の裏へ回った。

 小さな窓。

 扉。

 そして。

 奥へ続く廊下。


「……」


 扉に手を触れる。

 鍵がかかっている。


「……」


 少し考える。

 鍵を壊せば。

 音がする。


「……」


 アルベルトは。

 指先に。

 小さな水を作った。

 細い。

 針のような水流。

 鍵穴へ流し込む。


「……」


 内部で。

 小さな金属音。

 しかし。

 吸音魔法の範囲内。

 誰にも聞こえない。


「……」


 鍵が外れる。


「便利だな」


 アルベルトは。

 小さく呟いた。


 建物の中へ入る。

 薄暗い。

 廊下を進む。


「……」


 扉が並んでいる。

 一つ。

 二つ。

 確認する。

 空。

 倉庫。

 そして。

 三つ目。


「……」


 扉の前で。

 足を止めた。

 中から。

 小さな気配。


「……」


 アルベルトは。

 鍵に手を触れる。

 ゆっくり外す。

 扉を開ける。


「……っ!」


 中にいた女性が。

 驚いて顔を上げた。


「……」


 暗闇。

 しかし。

 アルベルトには。

 すぐに分かった。


「マリアさん」

「……?」

「……」


 マリアは。

 目を見開いた。


「……アルベルトさん?」

「うん」

「……どうして」

「探しに来た」

「……」


 それだけ。

 あまりにも。

 普通の言葉。

 しかし。

 マリアの目から。

 涙が溢れた。


「……っ」

「……」


 アルベルトは。

 少し困った顔をする。


「……怖かった?」

「……っ」


 マリアは。

 声を出せない。

 ただ。

 何度も頷いた。


「……」


 アルベルトは。

 近づく。


「ごめん」

「……」

「もっと早く」

「気づけばよかった」

「……違います」


 マリアが。

 小さく言った。


「アルベルトさんは」

「悪くありません」

「……」

「助けに来てくれた」

「それだけで」

「……」


 マリアは。

 涙を拭こうとする。

 しかし。

 両手は縛られている。


「……」


 アルベルトは。

 縄を外した。


「痛くない?」

「大丈夫です」

「手首、見せて」

「……」


 縄の跡。

 少し赤くなっている。

 アルベルトは。

 小さく水魔法を使う。

 冷たい水が。

 手首を優しく包む。


「……冷たい」

「少し我慢して」

「はい」


 水が消える。

 赤みも。

 少し引いていた。


「立てる?」

「……はい」


 マリアは立ち上がる。

 しかし。

 足に力が入らない。


「……っ」

「危ない」


 身体が傾く。

 アルベルトが。

 支えた。


「すみません」

「謝らなくていい」

「でも」

「怖い思いしたんだから」

「足くらい震えるよ」

「……」


 マリアは。

 アルベルトの服を掴んだ。


「……」

「……」


 少しだけ。

 沈黙。


「もう少し」

「このままでいいですか?」

「いいよ」

「……」


 マリアは。

 目を閉じた。

 安心した。

 今まで。

 ずっと張り詰めていた。

 怖くても。

 泣かないように。

 冷静でいようとした。

 しかし。

 もう。

 大丈夫だと思った。


「……」


 この人がいる。

 それだけで。


 しばらくして。


「……行こうか」

「はい」


 マリアは頷いた。

 しかし。


「アルベルトさん」

「何?」

「盗賊たちは?」

「まだいる」

「……っ!」


 マリアの顔が強張る。


「大丈夫」

「でも」

「ここから出られるんですか?」

「出られる」

「本当に?」

「うん」


 アルベルトは。

 いつものように言った。

 しかし。

 マリアは。

 その言葉を信じた。


「……分かりました」

「じゃあ」

「少し静かにね」

「はい」


 アルベルトは。

 マリアの手を取った。


「……」


 マリアの身体が。

 少しだけ固まる。


「……すみません」

「何が?」

「手」

「……」


 アルベルトは自分が自然にマリアの手を握っていることに気づく。


「嫌だった?」

「……違います!」


 マリアが。

 慌てて言った。


「嫌じゃ」

「ありません」

「ならいい」

「……」


 マリアは。

 少しだけ。

 手を握り返した。


 二人は。

 廊下を進む。

 しかし。

 その時。

 建物の外から。

 声がした。


「おい!」

「……?」

「見張りがいないぞ!」

「何?」


 盗賊たちの声。

 アルベルトが足を止める。


「……」


 マリアの手に。

 力が入る。


「大丈夫」

「……」

「まだ気づかれてない」

「……」


 外が騒がしくなる。


「全員起こせ!」

「誰かいる!」

「……」


 アルベルトは。

 少し考える。


「予定変更」

「え?」

「少し急ぐ」

「……はい」


 二人は。

 建物の裏口へ向かった。

 しかし。


「おい!」


 声。

 目の前に。

 一人の盗賊が立っていた。


「……!」


 マリアの身体が震える。


「なんだ?」

「お前ら」

「……」


 盗賊が。

 アルベルトを見る。


「誰だ?」

「……」


 アルベルトは。

 少し困ったように笑った。


「通りすがり」

「は?」

「人探し」

「……」


 盗賊は。

 マリアを見る。


「おい!」

「捕まえた女がいるぞ!」

「……っ」


 男が。

 剣を抜く。


「離れろ!」


 その瞬間。


「水」


 アルベルトの指先から。

 細い水流が飛ぶ。


「……っ!?」


 盗賊の手首に当たる。


「なっ!」


 剣が落ちる。


「……」


 アルベルトは。

 男の足元へ。

 さらに水を流した。


「うわっ!」


 盗賊が滑る。

 派手な音を立てて転んだ。


「……」

「……」


 マリアが。

 アルベルトを見る。


「……アルベルトさん」

「何?」

「今の」

「水魔法」

「……」

「便利でしょ」

「……」


 そういう問題ではない。

 マリアは思った。

 しかし。

 言葉にはしなかった。


「行こう」

「はい」


 二人は。

 森の中へ飛び出した。

 その背後で。

 盗賊たちの怒鳴り声が響いた。


「逃げたぞ!」

「追え!」

「女を取り返せ!」

「……」


 マリアの顔が青くなる。


「アルベルトさん!」

「大丈夫」

「でも!」

「走れる?」

「……はい!」

「じゃあ」

「少し走ろうか」


 アルベルトは。

 マリアの手を握ったまま。

 森の奥へ走り出した。

 その表情は。

 いつも通り。

 どこか。

 落ち着いていた。

 しかし。

 その目だけは。

 静かに。

 盗賊たちを見据えていた。

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