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転生したおじさん、目立ちたくないけど傾聴スキルでモテまくる  作者: なごやかたろう
過去編

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第50話 暗闇の中で

 森の中は。

 すでに暗くなっていた。


「……」


 マリアは。

 両手を後ろで縛られたまま歩かされていた。

 足元は悪い。

 木の根。

 石。

 ぬかるんだ地面。

 何度も転びそうになる。


「遅い!」

「……っ」


 背中を押される。


「早く歩け!」

「……」


 マリアは。

 歯を食いしばった。

 泣かない。

 まだ。

 泣くわけにはいかない。

 今は。

 覚える。

 考える。

 盗賊たちの人数。

 歩いた方向。

 時間。

 道の特徴。

 少しでも。

 ギルドに情報を伝えるために。


「……」


 しかし。

 森は暗い。

 途中から。

 方向も分からなくなっていた。



「止まれ」


 しばらく歩いた後。

 一人の盗賊が言った。

 前方に。

 小さな空き地がある。

 そこには。

 粗末な建物が建っていた。

 古い猟師小屋のような建物。

 しかし。

 周囲には。

 見張りらしき男がいる。


「戻ったか」

「おう」

「収穫は?」

「金と荷物」

「それから」


 盗賊が。

 マリアを見る。


「面白いものを拾った」

「……」


 見張りの男が。

 マリアを見た。


「女か?」

「それだけじゃない」

「ギルドの職員だ」

「……!」

「本当か?」

「ああ」

「こいつから情報を聞けるかもしれない」


 マリアは。

 黙っていた。

 しかし。

 心臓が激しく動いている。

 冒険者ギルドの職員。

 だから。

 連れてこられた。

 ただの人質ではない。

 情報を聞き出すつもりなのだ。


「……」


 怖い。

 しかし。

 話してはいけない。

 ギルドの情報を。

 盗賊に渡すわけにはいかない。


「中へ入れ」


 マリアは。

 建物の中へ連れて行かれた。



 建物の中には。

 数人の盗賊がいた。

 粗末な机。

 椅子。

 酒瓶。

 そして。

 壁際には。

 武器が立てかけられている。


「……」


 ざっと数えて。

 八人。

 外にも。

 数人いる。

 少なくとも。

 十人以上。


「座れ」


 椅子へ押し込まれる。

 両手の縄は。

 まだ外されない。


「さて」


 一人の男が。

 マリアの前に座った。

 年齢は四十前後。

 他の盗賊より。

 少し身なりがいい。

 おそらく。

 頭領。


「名前は?」

「……」

「答えろ」

「マリアです」

「ギルドで何をしている?」

「受付嬢です」

「どこの支部だ?」

「……」

「答えろ」

「……」


 マリアは黙る。

 男が笑った。


「強気だな」

「だが」

「別に拷問するつもりはない」

「……」

「今のところはな」


 マリアの背筋が冷たくなる。


「俺たちが知りたいのは」

「街道周辺の情報だ」

「討伐依頼」

「護衛依頼」

「冒険者の動き」

「……」

「特に」

「盗賊討伐の依頼が出ていないか」

「……知りません」

「本当に?」

「受付嬢は」

「すべての情報を知っているわけではありません」

「そうか」


 男は。

 しばらくマリアを見る。


「まあいい」

「今日は疲れただろう」

「休め」

「……」

「ただし」

「逃げようとするな」

「逃げても」

「この森では生きて帰れない」


 マリアは。

 何も答えなかった。


「部屋に入れろ」


 盗賊に連れられる。

 建物の奥。

 小さな部屋。

 窓には木の板。

 扉には鍵。


「……」


 中へ押し込まれる。

 扉が閉まる。

 鍵の音。


「……」


 マリアは。

 一人になった。



「……」


 静かだった。

 いや。

 外から。

 盗賊たちの声が聞こえる。

 笑い声。

 酒を飲む音。

 何かを話している。


「……」


 マリアは。

 壁にもたれた。

 震えている。

 手が。

 身体が。


「……怖い」


 小さく呟く。

 誰にも聞こえない。

 もう。

 我慢する必要もない。


「……」


 涙が出そうになる。

 しかし。

 泣いたら。

 本当に。

 何もできなくなる気がした。


「……大丈夫」

「大丈夫」


 自分に言い聞かせる。


「きっと」

「ギルドが探してくれる」


 帰らなければ。

 異常に気づく。

 馬車の乗客も。

 襲撃されたことを報告するだろう。

 盗賊討伐の依頼が出る。

 冒険者たちが来る。


「……」


 それまで。

 耐える。

 それしかない。



 一方。

 夜の街道。

 アルベルトは。

 一人で歩いていた。


「……」


 松明は持っていない。

 小さな光魔法を。

 指先に浮かべている。

 目立たない。

 しかし。

 足元を見るには十分だった。


「……」


 昼間。

 マリアが通った道。

 そして。

 隣の支部へ向かう街道。

 順番に確認する。


「……」


 しばらく歩いた後。

 道の脇に。

 何かが落ちているのを見つけた。


「……」


 アルベルトはしゃがみ込む。

 小さな布切れ。


「……」


 見覚えがあった。

 マリアが着ていた。

 制服の一部。


「……」


 周囲を見る。

 争った跡。

 馬車の車輪跡。

 そして。

 複数の足跡。


「盗賊か」


 アルベルトは。

 小さく呟いた。

 そして。

 目を閉じる。


「……」


 足跡。

 森へ向かっている。

 数は。

 多い。


「……」


 普通なら。

 一人で追うべきではない。

 ギルドへ戻る。

 討伐隊を編成する。

 それが正しい。

 しかし。


「……待っていられないか」


 アルベルトは。

 静かに森へ入った。



 アルベルトは。

 森の中を進む。

 足跡を追う。

 普通の冒険者なら。

 見失ってもおかしくない。

 しかし。

 アルベルトは。

 前世で。

 部下たちをよく見ていた。

 些細な変化に気づく癖がある。

 それは。

 この世界に来ても変わらなかった。


「……」


 折れた枝。

 踏み荒らされた草。

 泥の跡。

 そして。

 時々。

 地面に残る足跡。


「……」


 盗賊たちは。

 人数が多い。

 隠す気もない。

 だから。

 追跡は難しくなかった。


「……」


 しばらく進む。

 すると。

 遠くに。

 小さな光が見えた。


「……」


 建物。

 人影。

 見張り。


「……」


 アルベルトは。

 木の陰へ身を隠した。

 距離を取る。

 人数を確認する。

 一人。

 二人。

 三人。


「……」


 外だけで。

 五人。

 建物の中には。

 さらにいる。


「……」


 十人以上。

 おそらく。

 十五人前後。


「……」


 アルベルトは。

 小さく息を吐いた。

 面倒だ。

 本当に。

 面倒なことになった。

 しかし。

 引き返すつもりはない。


「……」


 建物を見る。

 その奥に。

 マリアがいる。

 おそらく。

 生きている。

 今のところ。

 それだけが分かればいい。


「……」


 アルベルトは。

 腰の剣に手を置いた。

 しかし。

 すぐに離す。


「……剣は」

「目立つな」


 独り言。

 そして。

 指先を地面へ向けた。


「吸音」


 小さく。

 魔法を使う。

 周囲の音が。

 消える。

 自分の足音。

 服の擦れる音。

 呼吸音。

 すべてが。

 静かになった。


「……」


 アルベルトは。

 ゆっくりと。

 盗賊たちの拠点へ近づいていく。

 誰にも。

 気づかれることなく。



 同じ頃。


「……」


 マリアは。

 暗い部屋の中で目を閉じていた。

 眠れない。

 怖い。

 不安だ。


「……」


 その時だった。

 外から。

 何か。

 小さな音がした。


「……?」


 風だろうか。

 それとも。

 盗賊が歩いているのか。


「……」


 しかし。

 すぐに。

 何も聞こえなくなる。

 静かだった。

 不自然なほど。

 静かだった。

 マリアは。

 知らない。

 今。

 建物の外で。

 一人。

 盗賊たちの見張りが。

 静かに倒れていることを。

 そして。

 自分を助けるために。

 ある男が。

 誰にも気づかれないよう。

 近づいていることを。

 まだ。

 知らなかった。

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