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転生したおじさん、目立ちたくないけど傾聴スキルでモテまくる  作者: なごやかたろう
過去編

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第41話 帰還と昇格

 アルベルトとエレナが洞窟から生還した翌日。

 二人は冒険者ギルドの一室に呼ばれていた。

 もっとも。

 七日間ほとんど満足に食べていなかったため。

 その日は帰還直後に宿へ運ばれ。

 食事と睡眠を優先された。

 そして。

 一晩眠った翌朝。


「……まだ眠い」


 アルベルトが呟く。


「贅沢言うな」


 隣を歩くエレナが言った。


「七日間寝不足だった」

「アタシも」

「じゃあ今日は帰ろう」

「呼び出されてるだろ」

「そうだった」

「しっかりしろ」


 エレナは笑った。



 ギルドの一室。

 中には。

 ギルドマスター。

 副ギルドマスター。

 そして。

 数名の職員がいた。


「座ってください」


 二人は椅子に座る。


「まず」


 ギルドマスターが口を開いた。


「無事に帰還してくれて何よりです」

「ありがとうございます」


 エレナが答える。

 アルベルトも頭を下げた。


「七日間」


 副ギルドマスターが言った。


「洞窟内で生存していた」

「その詳細を聞かせてもらえますか?」


 二人は。

 洞窟内で起きたことを話した。

 テレポートの罠。

 六人が分断されたこと。

 二人だけで洞窟深部へ飛ばされたこと。

 魔物との遭遇。

 洞窟の主と思われる巨大な魔物。

 そして。

 七日間かけての脱出。


「……」


 話を聞き終え。

 部屋の中が静かになった。


「確認します」


 ギルドマスターが言う。


「巨大な魔物を倒したと」

「はい」


 エレナが答える。


「遺体は?」

「洞窟内です」

「場所は?」

「説明できます」


 アルベルトが答える。


「壁に目印をつけて進みました」

「……」


 ギルドマスターが深く息を吐く。


「実は」


 副ギルドマスターが口を開いた。


「あなたたちが戻るまでの間」

「救助隊を二度、派遣しました」

「洞窟内部を調査しましたが」

「途中から先へ進めなかった」

「魔物が多かった?」

「違います」


 副ギルドマスターは首を振った。


「洞窟の構造が変化していました」

「……」


 エレナが眉をひそめる。


「変化?」

「最初の調査隊が通った場所も」

「救助隊が通った場所も」

「あなたたちが説明した構造と一致しない」


 アルベルトは。

 少し考える。


「転移罠の影響?」

「可能性はあります」

「それだけではありません」


 ギルドマスターが言う。


「専門家に確認を依頼しました」

「結果」

「その洞窟は」


 一度。

 言葉を切る。


「古代遺跡の一部である可能性が高い」

「……」

「しかも」

「内部に強力な魔力反応が存在しています」


 エレナが洞窟の主を思い出す。


「あの魔物か」

「おそらく」


 副ギルドマスターが答える。


「救助隊は」

「その魔物の気配を確認できませんでした」

「倒したから?」

「可能性はあります」


 アルベルトは。

 黙って話を聞いていた。


「もう一つ」


 ギルドマスターが言った。


「他の四名についてです」


 空気が変わった。


「……」

「ダグ」

「ロルフ」

「ミレイ」

「ナッシュ」

「四人はまだ発見されていません」


 エレナが目を閉じる。


「救助隊は?」

「捜索を続けています」

「しかし」


 副ギルドマスターが続ける。


「洞窟内部は非常に危険です」

「さらに」

「構造が変化している」

「これ以上の捜索には」

「高ランク冒険者が必要になります」

「……」


 エレナは。

 拳を握った。


「アタシが行く」

「駄目です」


 ギルドマスターが即答した。


「なぜ」

「あなたは七日間」

「洞窟内で遭難していた」

「今は休養が必要です」

「でも!」

「エレナ」


 アルベルトが呼んだ。

 エレナがこちらを見る。


「何?」

「今行っても、足手まといになる」

「……」

「悔しいけど、俺たちだけでは無理」


 エレナは。

 しばらく黙った。

 そして。


「……分かった」


 小さく答えた。

 *


「そして」


 ギルドマスターが。

 もう一つの話を始める。


「今回の件について」

「ギルドとして判断が出ました」


 二人を見る。


「まず」

「洞窟の危険度を再評価します」

「今回の洞窟は」

「Cランク向けの調査依頼ではありませんでした」

「少なくとも」

「Bランク以上」

「場合によっては」

「Aランク冒険者を必要とする危険度です」

「……」


 エレナが少し驚く。


「そんなに?」

「はい」

「洞窟の主と思われる魔物」

「そして古代遺跡」

「転移罠」

「変化する構造」

「どれも」

「通常のCランク冒険者では対応できません」


 アルベルトは。

 心の中で思った。

 だから嫌な予感がした。


「そこで」


 ギルドマスターは。

 一枚の書類を取り出した。


「エレナ」

「はい」

「あなたを」


 一瞬。

 間を置く。


「Aランク冒険者へ昇格させます」

「……」


 エレナが固まった。


「アタシが?」

「今回」

「あなたはBランク冒険者として」

「自分より格上の危険度に対処しました」

「洞窟の主と思われる魔物を討伐」

「さらに」

「七日間」

「極限状態の中で生還した」

「実績として十分です」

「……」


 エレナは。

 書類を見る。

 そして。

 ゆっくりと。

 アルベルトを見る。


「……」

「何?」

「いや」

「何でもない」


 エレナは。

 少しだけ笑った。


「ありがとうございます」


 ギルドマスターへ頭を下げた。


「ただし」


 エレナが言う。


「一つ」

「何でしょう?」

「洞窟の主を倒したのは」


 アルベルトを見る。


「アタシ一人じゃありません」

「アルがいなければ」

「倒せなかった」


 アルベルトが。

 すぐに言った。


「違う」

「何?」

「倒したのはエレナ」

「俺は手伝っただけ」

「……」

「何を言ってる」


 エレナが眉をひそめる。


「本当だろ」

「本当に?」

「岩を落とした」

「魔物を止めた」

「弱点を見つけた」

「……」

「最後に倒したのはエレナ」

「だから」

「エレナの実績」

「……」


 エレナは。

 何も言えなかった。


「アルベルトさん」


 ギルドマスターが言う。


「あなたについても」

「昇格を検討しました」

「……」


 アルベルトが。

 嫌そうな顔をした。

 エレナが見る。


「その顔は何だ」

「嫌な予感」

「何で?」

「昇格すると面倒だから」

「……」

「ギルドとしては」

「今回の功績を評価しています」

「しかし」


 アルベルトは。

 すぐに答えた。


「辞退します」

「早い!」


 エレナが叫んだ。


「まだ何も聞いてない!」

「昇格の話だろ」

「そうだけど!」

「辞退する」

「……」


 ギルドマスターも。

 少し困った顔をした。


「理由を聞いても?」

「Cランクで困っていません」

「上がると」

「指名依頼が増える」

「面倒な仕事が増える」

「責任も増える」

「……」


 非常に正直だった。


「それでも」


 ギルドマスターが言う。


「今回の実績は」

「無視できません」

「では」


 アルベルトは少し考えた。


「洞窟の主討伐はエレナの単独討伐でお願いします」

「アル!」

「何?」

「お前!」

「事実として、最後に倒したのはエレナ」

「でも!」

「俺はCランクのままがいい」


 エレナは。

 完全に不満そうだった。


「……」

「……」


 ギルドマスターと副ギルドマスターが。

 顔を見合わせる。


「分かりました」


 やがて。

 ギルドマスターが言った。


「アルベルトさんの希望を尊重します」

「ありがとうございます」

「ただし」

「はい?」

「今回の件について」

「報酬は受け取ってください」

「それは貰う」

「即答ですね」

「生活に必要だから」


 ギルドマスターは笑った。

 エレナは。

 呆れたように息を吐く。


「本当に」

「変わらないな」

「何が?」

「何でもない」



 ギルドを出た後。

 二人は並んで歩いていた。

 エレナは。

 新しいAランクの証を見ていた。


「……」

「嬉しくない?」


 アルベルトが聞く。


「嬉しい」

「なら良かった」

「でも」

「何?」

「納得してない」

「何が?」

「お前のこと」

「俺?」

「今回、お前がいなかったらアタシは死んでた」

「大げさ」

「大げさじゃない」


 エレナが立ち止まる。


「アル」

「うん」

「どうして」

「そんなに目立ちたくない?」


 アルベルトも止まった。


「……」


 一瞬。

 前世の記憶。

 激務。

 責任。

 期待。

 そして。

 最後に倒れた瞬間。

 思い出す。


「面倒だから」


 しかし。

 口から出たのは。

 それだけだった。


「……」

「……」


 エレナは。

 しばらくアルベルトを見る。


「嘘だな」

「本当」

「全部じゃない」

「そう?」

「そう」


 エレナは。

 それ以上。

 聞かなかった。


「まあいい」

「いいの?」

「いつか話したくなったら聞く」

「……」

「アタシは」


 少し笑う。


「待つのは得意じゃないけど、話を聞くくらいはできる」


 アルベルトは。

 少しだけ笑った。


「ありがとう」

「どういたしまして」



 その日。

 エレナはAランク冒険者になった。

 そして。

 アルベルトは。

 Cランクのままだった。

 同じ依頼を受け。

 同じ洞窟に閉じ込められ。

 同じ魔物と戦った。

 しかし。

 結果は違う。

 エレナは。

 より高い場所へ進む。

 アルベルトは。

 変わらない場所に留まる。

 この時。

 二人はまだ知らなかった。

 この違いが。

 これからの二人の関係を。

 少しずつ。

 変えていくことを。

 そして。

 会える時間を。

 少しずつ。

 奪っていくことを。



 その後も。

 四人を探すための捜索は続けられた。

 だが。

 手がかりは見つからなかった。

 洞窟の構造は変わり続け。

 二次遭難の危険も高まっていった。

 ギルドは、捜索の打ち切りを決定した。

 ダグ、ロルフ、ミレイ、ナッシュ。

 四人の消息は、分からないままだった。

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