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転生したおじさん、目立ちたくないけど傾聴スキルでモテまくる  作者: なごやかたろう
過去編

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第40話 七日間の脱出

 洞窟での二日目。

 アルベルトは目を覚ました。

 火はまだ残っている。

 エレナは。

 少し離れた場所で眠っていた。

 昨日。

 最初の見張りをアルベルトが担当し。

 途中でエレナと交代した。

 今は再び。

 アルベルトの番だった。


「……」


 洞窟の中は静かだ。

 魔物の気配はない。

 しかし。

 安心はできない。

 アルベルトは荷物を確認する。

 保存食。

 残り。

 十分とは言えない。


「二人なら」


 節約して。

 七日程度。

 それ以上は厳しい。

 水は。

 何とかなる。

 アルベルトの水魔法。

 そして。

 昨日見つけた地下水。

 問題は食料だった。


「……」


 アルベルトは保存食の袋を閉じた。

 音に気づいたのか。

 エレナが目を覚ます。


「おはよう」

「おはよう」

「寝られた?」

「少し」

「アタシも」


 二人は簡単な朝食を取った。

 保存食。

 少量の水。

 普段なら。

 これだけでは足りない。

 しかし。

 今は仕方ない。


「行くか」

「ああ」


 洞窟の主を倒した場所から。

 二人は別の通路を進んだ。

 アルベルトが壁に印をつける。


「何してる?」


 エレナが聞く。


「戻ってきた時のため」

「迷わないように?」

「そう」

「今さら?」

「今からでも遅くない」


 エレナは笑った。


「お前らしい」

「よく分からない」

「褒めてる」

「それなら受け取っておく」


 通路は。

 何度も分岐していた。

 行き止まり。

 下り坂。

 崩れた通路。

 そして。

 また分岐。


「……」


 エレナがため息を吐く。


「迷路だな」

「そうだな」

「出口に近づいてると思う?」

「分からない」

「またそれか」

「分からないことは分からない」


 アルベルトは。

 壁を確認する。

 空気の流れ。

 わずかな風。


「ただ」

「何?」

「こっちの方が」

「風が流れてる」


 エレナが目を閉じる。


「……本当だ」

「少しだけ」

「出口か?」

「希望はある」

「それで十分」


 二人は。

 その方向へ進んだ。



 三日目。

 魔物と遭遇した。

 小型の魔物。

 昨日のような強敵ではない。

 しかし。

 戦えば体力を使う。


「避ける?」


 エレナが聞く。


「できるなら」


 二人は物陰に隠れた。

 魔物が通り過ぎる。

 息を潜める。

 数分。

 やがて。

 気配が遠ざかった。


「……」


 エレナが息を吐く。


「戦わないって選択肢もあるんだな」

「無駄な戦闘はしない」

「前からそうだった?」

「昔から」

「もっと早く知りたかった」

「言った覚えはない」

「言え」


 アルベルトは笑った。



 昼。

 二人は休憩する。

 保存食を取り出す。

 しかし。

 量は昨日より少ない。

 エレナが見る。


「減らした?」

「何を?」

「自分の分」

「気のせい」

「アル」

「気のせい」

「……」


 エレナは黙った。

 そして。

 自分の保存食を半分。

 アルベルトの方へ差し出した。


「何?」

「半分」

「エレナが食べろ」

「お前も」

「俺はいい」

「良くない」

「……」

「二人で帰るんだろ?」


 アルベルトは。

 少し黙った。


「そうだな」


 半分を受け取った。


「ありがとう」

「どういたしまして」


 四日目。

 エレナの足取りが少し重くなった。


「大丈夫?」


 アルベルトが聞く。


「大丈夫」

「本当に?」

「本当に」


 しかし。

 歩く速度は遅い。

 疲労。

 そして。

 食事不足。

 アルベルトは。

 自分の荷物から。

 小さな袋を取り出した。


「何?」

「予備」

「何の?」


 袋を開ける。

 保存食。

 まだ残っていた。


「……」


 エレナが見る。


「隠してた?」

「隠してない」

「どこに入ってた?」

「奥」

「それを隠してるって言うんだ」

「言わなかっただけ」

「同じだ」


 エレナは笑った。


「でも」

「助かった」


 アルベルトは。

 少しだけ肩をすくめる。


「嫌な予感がしたから」

「本当に役に立ったな」

「まだ帰れてない」

「帰れる」


 エレナが言った。

 今度は。

 迷いのない声だった。



 五日目。

 二人は。

 大きな地下空間へ出た。

 天井から。

 光が差し込んでいる。


「……外?」


 エレナが上を見る。


「違う」

「何で分かる?」

「光が魔石だ」


 天井には。

 淡く光る鉱石が埋め込まれていた。


「紛らわしいな」

「希望を持たせるのが上手い洞窟だ」

「褒めてない」


 二人は。

 少し笑った。

 しかし。

 以前より。

 会話が減っていた。

 体力を温存するため。

 必要なことだけ話す。

 それでも。

 お互いがいる。

 それだけで。

 一人よりは。

 ずっと楽だった。



 六日目。

 通路の先から。

 明らかな風が吹いてきた。


「……」


 二人は止まった。


「分かる?」


 エレナが聞く。


「ああ」

「今までより強い」

「出口かも」


 アルベルトは。

 久しぶりに。

 少しだけ表情を明るくした。


「行こう」


 エレナも頷く。

 しかし。

 その直後。

 通路が崩れた。


「――っ!」


 前方から。

 大量の岩が落ちる。


「戻れ!」


 アルベルトが叫ぶ。

 二人は後ろへ飛んだ。

 轟音。

 通路が完全に塞がれる。


「……」


 静寂。

 エレナが呟く。


「出口じゃなかったな」

「そうだな」

「悔しい?」

「かなり」

「アタシも」


 二人は。

 しばらく動けなかった。

 体力も。

 食料も。

 残り少ない。


「……戻るか」


 アルベルトが言う。


「ああ」


 しかし。

 エレナは動かなかった。


「エレナ?」

「少しだけ」

「休ませて」

「分かった」


 二人は。

 その場に座った。



 しばらくして。

 エレナが言った。


「なあ」

「何?」

「もし」

「うん」

「帰れなかったら」


 アルベルトは答えなかった。


「……」

「ごめん」


 エレナが言う。


「何で謝る?」

「アタシがこの依頼に参加しなければ、お前は巻き込まれなかった」

「違う」


 アルベルトは。

 すぐに答えた。


「俺が参加を決めた」

「でも」

「自分で決めたことだ」


 エレナが黙る。


「それに」


 アルベルトは続ける。


「エレナがいたから参加した」

「……」

「だから」

「後悔してない」


 エレナは。

 しばらく何も言わなかった。

 そして。


「……」

「本当に」

「ずるい奴だな」

「何が?」

「何でもない」


 エレナは。

 顔を隠すように。

 少し俯いた。



 七日目。

 二人は。

 再び歩いていた。

 食料は。

 ほとんど残っていない。

 最後の保存食。

 二人で分けた。


「これで終わり」


 アルベルトが言う。


「そうだな」

「水は?」

「何とかなる」

「食料は?」

「何とかならない」

「正直だな」

「事実だから」


 エレナは笑った。

 疲れている。

 それでも。

 笑った。


「アル」

「何?」

「帰ったら」

「何する?」

「美味しいもの食べよう」

「賛成」

「肉」

「いいな」

「パン」

「いいな」

「甘いもの」

「それも」

「酒」

「エレナは飲みすぎるから駄目」

「何で!?」

「前に酔って――」

「言うな!」


 エレナが慌てる。


「まだ何も言ってない」

「言おうとした!」

「何の話?」

「忘れろ!」


 久しぶりに。

 二人は笑った。



 そして。

 しばらく歩いた。

 通路の先。

 光が見えた。


「……」


 アルベルトが止まる。


「どうした?」


 エレナが聞く。


「光」

「また魔石じゃない?」

「分からない」


 二人は慎重に進む。

 少しずつ。

 近づく。

 光が強くなる。

 そして。

 風。

 明らかな外の空気。


「……」

「エレナ」

「ああ」


 二人は。

 走った。

 最後の力を振り絞る。

 通路を抜ける。

 そして。

 目の前に。

 青い空が広がった。


「……」


 二人は。

 しばらく動かなかった。

 眩しい。

 太陽。

 風。

 草の匂い。


「……帰ってきた」


 エレナが呟く。


「帰ってきたな」


 アルベルトは。

 その場に座り込んだ。

 エレナも隣に座る。


「生きてるな」

「生きてる」

「本当に」

「生きてる」


 二人は。

 顔を見合わせた。

 そして。

 笑った。



 洞窟から少し離れた場所。

 森の中。

 どこかで人の声がした。


「……誰かいる」


 エレナが立ち上がる。


「待て」

「何?」

「俺が確認する」

「何で?」

「エレナは疲れてる」

「お前もだろ」

「俺は少し元気」

「嘘つけ」


 それでも。

 二人は声の方へ歩く。

 しばらくすると。

 馬車。

 そして。

 冒険者ギルドの職員がいた。


「……!」


 こちらに気づく。


「エレナさん!?」

「アルベルトさん!?」


 二人が。

 七日間行方不明になっていたことを。

 その時。

 初めて知った。


「生きてたのか……!」


 職員が駆け寄ってくる。


「……」

「……」


 二人は。

 顔を見合わせた。


「何?」

「どういうこと?」

「こっちが聞きたいです!」


 職員は。

 半泣きだった。


「調査隊が戻ってこなくなって!」

「救助隊を出して!」

「洞窟を探して!」

「でも見つからなくて!」

「……」

「……」


 アルベルトとエレナは。

 同時に洞窟を見る。


「……」

「……」

「大変だったな」


 アルベルトが言う。


「アタシたちより?」

「いや」

「同じくらい」

「馬鹿」


 エレナが笑った。

 そして。

 そのまま。

 アルベルトの肩へ寄りかかった。


「疲れた」

「そうだな」

「歩けない」

「じゃあ運ぶ」

「……」

「何?」

「何でもない」


 エレナは。

 少しだけ笑った。


「お願い」

「分かった」


 アルベルトは。

 エレナを背負った。


「重い?」

「軽い」

「嘘」

「本当」

「絶対嘘」

「本当」


 そう言いながら。

 二人は。

 救助隊の馬車へ向かった。

 七日間。

 二人だけで過ごした。

 長い。

 長い。

 洞窟の中。

 しかし。

 その七日間が。

 二人の関係を。

 少しだけ変え始めていた。

 そして。

 この洞窟での出来事が。

 後に。

 二人の人生を。

 大きく変えることになる。

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