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転生したおじさん、目立ちたくないけど傾聴スキルでモテまくる  作者: なごやかたろう
過去編

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第38話 二人だけの洞窟

 目を覚ました場所は、先ほどまでいた洞窟とは明らかに違っていた。

 天井は高い。

 壁は黒い岩で覆われている。

 通路は複雑に枝分かれしていた。

 そして。

 空気が重い。


「……」


 アルベルトは周囲を見回した。


「どうだ?」


 エレナが聞く。


「よく分からない」

「それは困るな」

「俺も困ってる」


 少し離れた場所には。

 他の調査隊の冒険者たちはいない。

 呼びかけても。

 返事はない。


「……完全に離されたか」


 エレナが呟いた。


「多分」

「追いかける?」

「無理だろ」


 アルベルトは首を振る。


「どこに飛ばされたか分からない」

「戻る方法も分からない」

「下手に動けば、さらに迷う」


 エレナは少し考えた。


「じゃあ、どうする?」

「まず状況確認」

「具体的には?」

「食料」

「水」

「出口」

「それから魔物」


 アルベルトは指を折る。


「優先順位を決める」

「冷静だな」

「慌てても腹は膨れない」

「……そういうところだぞ」

「何が?」

「いや、何でもない」


 エレナは少し笑った。



 二人はまず。

 周囲を確認した。

 テレポート先は。

 広い空間だった。

 洞窟というより。

 地下遺跡に近い。

 壁には。

 古い文字のようなものが刻まれている。


「読めるか?」


 エレナが聞く。


「無理」

「即答」

「古代文字は専門外」

「何が専門なんだ?」

「生き残ること」

「冒険者としては正しいのか?」


 アルベルトは壁を触らずに観察する。

 魔力の流れ。

 罠の可能性。

 しかし。

 今のところ。

 危険な反応は感じない。


「一旦」


 アルベルトは言った。


「出口を探す」

「賛成」

「ただし」

「うん?」

「無理に進まない」

「慎重だな」

「二人しかいないからな」


 エレナは少しだけ真面目な顔になった。


「……そうだな」


 歩き始める。

 アルベルトが前。

 エレナが後ろ。

 しかし。


「待て」


 エレナが言った。


「何?」

「何でアルが前なんだ?」

「罠を確認するため」

「アタシの方が前衛だ」

「エレナは戦闘向き」

「アルも戦えるだろ」

「俺は逃げる方が得意」

「本当に?」

「本当」

「信用できない」


 エレナが前へ出る。


「アタシが前」

「分かった」

「お前は後ろ」

「分かった」


 あっさり。

 アルベルトが従う。

 エレナが少し拍子抜けした。


「……もっと反論するかと思った」

「合理的だから」

「合理的?」

「エレナの方が強い」

「素直だな」

「事実だ」


 エレナは少し笑った。


「じゃあ守ってやる」

「頼む」


 しばらく歩く。

 魔物は現れない。

 静かだった。

 静かすぎる。


「なあ」


 エレナが小声で言う。


「何?」

「さっきから思ってるんだけど」

「うん」

「お前、本当に嫌な予感してたんだな」

「した」

「どのくらい?」

「依頼書を見た瞬間から」

「じゃあ何で来た?」


 アルベルトは少し考えた。


「エレナがいたから」

「……」


 エレナの足が止まった。


「何?」

「今」

「うん?」

「何て言った?」

「エレナがいたから」

「……」

「何か変?」


 エレナはゆっくり振り返った。

 少しだけ。

 頬が赤い。


「いや」

「何でもない」

「そう?」

「そう」


 エレナは再び前を向いた。

 アルベルトは首を傾げる。


「……?」


 さらに進む。

 途中。

 小さな魔物が現れた。

 犬ほどの大きさ。

 黒い毛。

 鋭い牙。


「来るぞ」


 エレナが剣を構える。

 三匹。

 いや。

 五匹。


「俺が足を止める」

「分かった!」


 アルベルトが手を伸ばす。

 水魔法。

 地面を濡らす。

 魔物の足元。

 滑る。


「今!」


 エレナが前へ出た。

 一匹。

 二匹。

 三匹。

 残り二匹。

 アルベルトが剣を抜く。

 一匹を牽制。

 動きを止めたところで。

 アルベルトが一歩踏み込む。

 剣が喉元を貫いた。

 魔物が崩れ落ちる。

 エレナが最後の一匹を倒した。


「……終わり」


 エレナが息を吐く。


「怪我は?」

「ない。エレナは?」

「ない」

「ならいい」


 アルベルトは剣をしまう。


「相変わらず便利な魔法だな」


 エレナが言う。


「水を出しただけ」

「それで魔物を止める奴はあまりいない」

「地味だろ」

「地味だけど」


 エレナは少し笑った。


「やりやすい」

「そう?」

「ああ」


 それだけで。

 アルベルトは少し安心した。



 その後。

 二人はさらに奥へ進んだ。

 通路は下へ向かっている。


「出口を探してるのに下?」


 エレナが呟く。


「上へ行く道がない」

「まあ、そうだけど」

「選択肢がないなら進むしかない」

「嫌な言い方だな」

「現実的な言い方」


 しばらくすると。

 通路の先に。

 小さな水たまりがあった。


「水」


 エレナが近づく。


「待て」


 アルベルトが止める。


「何?」

「飲む前に確認する」

「毒?」

「可能性はある」


 アルベルトは指先に少量の水を取る。

 魔力を流す。

 簡易的な浄化。

 そして。

 匂いを確認。


「……大丈夫そう」

「そういうことできるんだ」

「簡単な魔法なら」

「また地味なことを」

「生き残るには役に立つ」


 エレナは水を飲む。


「冷たい」

「良かったな」

「アルも飲め」

「後で」


 アルベルトは自分の水袋を確認する。

 まだ余裕はある。

 しかし。

 この水場が使えるなら。

 かなり助かる。


「ここは覚えておこう」

「拠点にする?」

「候補だな」


 しばらく進んだ後。

 二人は一度休憩することにした。

 比較的広い空間。

 入口が一つ。

 背後を警戒しやすい。


「ここなら休める」


 アルベルトが言った。


「まだ早くないか?」

「テレポートされてから結構歩いた」

「そうか?」

「体力は残しておきたい」


 エレナは頷いた。

 アルベルトが荷物を下ろす。

 保存食を取り出す。


「……」


 エレナが見る。


「何?」

「多くないか?」

「普通」

「普通じゃない」

「期間未定だったから」

「心配性」

「そう」


 アルベルトは保存食を二つ取り出した。

 一つをエレナに渡す。


「食べるか?」

「ありがたく」


 二人で食べる。

 硬い。

 味は薄い。


「……」


 エレナが噛む。


「不味いな」

「栄養はある」

「慰めになってない」

「生きるための食事だから」

「もっと美味しいものを食べてから来れば良かった」

「それは同意する」


 二人は少し笑った。



 食事を終える。

 アルベルトは荷物を整理した。

 保存食。

 水。

 回復薬。

 寝具。

 確認する。


「どう?」


 エレナが聞く。


「一人なら、しばらく持つ」

「二人なら?」

「節約すれば」

「何日?」

「……分からない」

「正直だな」

「状況次第だから」


 エレナは少し黙った。

 アルベルトが続ける。


「ただ」

「水は何とかなる」

「俺の魔法と、さっきの水場がある」

「食料が問題」

「無駄に動かなければ、ある程度は持つ」

「ある程度?」

「……数日は」

「一週間?」

「多分」

「多分か」

「保証はしない」


 エレナは少し笑った。


「それでも」

「お前がいると安心するな」

「昨日も似たようなこと言ってた」

「言ったか?」

「言った」


 エレナは少し考える。


「……でも」

「本当にそう思ってる」


 アルベルトは保存食を袋に戻す。


「俺も」

「ん?」

「エレナがいるから助かってる」

「……」


 エレナが黙る。


「何?」

「いや」

「何でもない」


 また。

 少しだけ頬が赤い。

 アルベルトは。

 やはり理由が分からなかった。



 休憩を終える。

 再び歩き始めた。

 しばらくすると。

 通路の先から風が吹いてきた。


「風?」


 エレナが呟く。


「出口か?」

「可能性はある」


 二人は慎重に進む。

 しかし。

 その先にあったのは。

 出口ではなかった。

 巨大な空間。

 そして。

 壁には。

 無数の爪痕。


「……」


 エレナが剣を握る。


「何だ?」

「分からない」


 アルベルトは低い声で言う。


「でも」

「でも?」

「ゴブリンが逃げてた理由が」


 その瞬間。

 奥から。

 低い唸り声が響いた。

 空気が震える。

 エレナが息を呑む。

 暗闇の中。

 二つの目が光った。


「……」


 アルベルトは剣を握る。


「エレナ」

「ああ」

「逃げる準備を」

「同意する」


 二人はゆっくり後退した。

 しかし。

 その時。

 巨大な影が。

 暗闇から姿を現した。

 洞窟の主。

 それは。

 二人の想像より。

 遥かに大きな魔物だった。

 エレナが呟く。


「……これ」

「何?」

「Bランクでも」

「厳しいぞ」


 アルベルトは答えなかった。

 ただ。

 静かに剣を握り直した。

 洞窟の主が。

 ゆっくりと。

 二人へ近づいてくる。

 そして。

 大きく口を開いた。

 咆哮。

 洞窟全体が震えた。


「……本当に」


 アルベルトは呟く。


「嫌な予感しかしなかったんだよな」


 エレナが。

 小さく笑った。


「それでも来たのは誰だ?」

「……俺」

「そういうことだ」


 そして。

 二人は。

 同時に前へ出た。

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