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転生したおじさん、目立ちたくないけど傾聴スキルでモテまくる  作者: なごやかたろう
過去編

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第37話 洞窟調査隊

 洞窟調査依頼の集合日、アルベルトは朝早くから冒険者ギルドへ向かう。

 背中には、いつもより明らかに大きな荷物。

 武器。

 水袋。

 簡易寝具。

 ロープ。

 火打石。

 予備の回復薬。

 そして。

 通常より多めの固形保存食。


「……重いな」


 自分で詰め込んだのだから文句は言えない。

 それでも。

 歩きながら改めて思う。


「やっぱり持ちすぎたか」


 しかし。

 嫌な予感は消えなかった。

 だから。

 減らす気にもなれない。



 ギルドへ入ると、すでに数人の冒険者が集まっていた。

 今回の調査隊は六人。

 Bランクが一人。

 Cランクが五人。

 そして。


「おはよう、アル」


 エレナが手を上げた。


「おはよう」

「来たな」

「来た」

「本当に参加したんだ」

「登録したからな」

「いや、そうだけど」


 エレナは少し笑った。

 その表情は。

 明らかに嬉しそうだった。

 アルベルトは気づかない。


「荷物、多くないか?」


 エレナが背中を見る。


「そう?」

「普段より倍くらいありそうだけど」

「期間未定だから」

「それだけ?」

「それだけ」

「心配性だな」

「そうかもな」


 エレナは笑った。


「まあ、いいけど」


 アルベルトは周囲を見る。

 今回の参加者は。

 自分とエレナ以外に四人。

 全員Cランク。


「全員揃いましたね」


 ギルド職員が前へ出た。


「今回の洞窟調査依頼について、改めて説明します」


 全員が耳を傾ける。


「対象となる洞窟は、ここから馬車で半日ほどの場所にあります」

「二週間前、近隣の村から魔物の調査依頼が出されました」

「最初の調査隊は洞窟内部へ入りましたが、途中で強い魔力反応を確認」

「その後、安全を考慮して撤退しています」

「原因は不明です」


 アルベルトは依頼書を見る。


「前回の調査隊は、どこまで進んだ?」


 質問した。


「洞窟入口からおよそ三時間ほどです」

「魔物は?」

「低位の魔物が数匹」

「それ以外は?」

「確認されていません」

「強い魔力反応の場所は?」

「洞窟のさらに奥だと推測されています」


 アルベルトは眉をひそめた。


「……推測」

「そうです」

「正確な位置は分からない?」

「分かりません」


 嫌な予感が少し強くなった。


「質問」


 別の冒険者が手を上げる。


「前の調査隊は、何で撤退した?」

「魔力反応が強すぎたためです」

「それだけ?」

「はい」


 アルベルトは少し考える。

 何かがある。

 しかし。

 何があるのかは分からない。


「それでは」


 ギルド職員が言った。


「調査隊の指揮は、Bランク冒険者であるエレナさんにお願いします」

「了解」


 エレナが答える。

 普段より少しだけ低い声。

 仕事の顔だった。


「質問は?」


 誰も答えない。


「では、出発してください」


 洞窟までは馬車で半日。

 調査隊は荷物を積み込み、出発した。

 馬車の中。

 アルベルトは静かに外を見ていた。


「なあ」


 向かい側の男が話しかけてくる。


「アルベルト、だったか?」

「そう」

「俺はダグ」


 短い髪。

 三十代半ばほどの男。

 大きな盾を背負っている。


「前衛か?」

「そうだ」

「アルベルトは?」

「何でも」

「何でも?」

「必要なことをする」


 ダグは少し不思議そうな顔をした。


「戦士じゃないのか?」

「剣は使う」

「魔法使い?」

「魔法も使う」

「……何者だ?」

「Cランク冒険者」


 ダグは笑った。


「それは知ってる」


 その後。

 他の冒険者たちも自己紹介をした。

 ダグ。

 大盾を使う戦士。

 前衛。

 ロルフ。

 槍を使う細身の男。

 索敵が得意。

 ミレイ。

 短い杖を持った女性魔法使い。

 火属性魔法が得意。

 そして。

 ナッシュ。

 二刀を使う若い冒険者。

 この四人。

 全員Cランク。

 即席の調査隊だった。


「六人か」


 アルベルトが呟く。


「何か?」


 ミレイが聞く。


「いや」


 少ない。

 危険度が高い洞窟調査。

 しかも。

 原因不明の強い魔力反応。

 Bランク一人とCランク五人。

 ギルドの判断として間違っているとは思わない。

 しかし。

 少しだけ不安だった。


「……まあ」


 考えても仕方ない。

 アルベルトは目を閉じた。



 馬車の中。

 エレナは他の冒険者たちと話していた。


「洞窟に入ったら、基本的に二人一組で行動する」

「勝手な単独行動は禁止」

「何かあったらすぐに声を上げろ」


 簡潔。

 だが。

 分かりやすい指示だった。


「質問は?」

「ありません」

「よし」


 エレナはアルベルトを見る。


「アル」

「何?」

「聞いてた?」

「聞いてた」

「じゃあ復唱」

「二人一組」

「単独行動禁止」

「何かあったらすぐ報告」

「正解」

「子供じゃないんだから」

「たまに心配になる」

「何で?」

「お前、勝手に変なことするから」

「したことない」

「……あるだろ」

「ない」


 エレナは少し笑った。

 他の冒険者たちは二人を見る。


「仲いいんですね」


 ミレイが言った。


「そう見える?」


 エレナが聞く。


「見えます」

「アタシたちはただの冒険者仲間だ」

「そうそう」


 アルベルトも頷く。


「そういうこと」


 エレナが言う。

 少しだけ。

 不満そうな顔をしていたが。

 アルベルトは気づかなかった。



 昼過ぎ。

 目的地の近くへ到着した。

 馬車を降りる。

 洞窟は森の奥にあった。

 岩山の中腹。

 黒い穴がぽっかりと開いている。


「ここか」


 アルベルトは洞窟を見る。

 入口は大きい。

 中は暗い。

 外から見ただけでは。

 普通の洞窟にしか見えない。


「気をつけろ」


 エレナが言う。

 剣を抜く。


「ここから先は、いつでも戦闘になる可能性がある」


 他の冒険者たちも武器を構える。


「隊列は?」


 ダグが聞く。


「ダグとロルフが前」

「ミレイは中央」

「ナッシュは後方」

「アルは――」


 エレナが一瞬考える。


「俺は?」

「好きなところにいろ」

「適当だな」

「お前の場合、どこにいても勝手に動くだろ」

「動かない」

「信用できない」


 アルベルトは少し笑った。


「じゃあ中央にいる」

「それでいい」


 そして。

 エレナは最後に洞窟を見る。


「行くぞ」


 六人は洞窟へ入った。


 洞窟内部は。

 思ったより広かった。

 天井は高い。

 通路も十分な幅がある。

 壁には。

 ところどころ古い魔道具らしきものが埋め込まれていた。


「……何だ?」


 ナッシュが壁を見る。


「触るな」


 アルベルトが言った。


「え?」

「分からないものは触らない」

「……そうだな」


 ナッシュは手を引っ込めた。

 アルベルトは壁を見る。

 古い。

 かなり古い。

 人工的に作られた洞窟。

 いや。

 もしかすると。

 元々は遺跡だったのかもしれない。


「アル」


 エレナが小声で呼ぶ。


「何?」

「何か気になる?」

「少し」

「何が?」

「分からない」


 アルベルトは壁を見る。


「ただ」

「ただ?」

「普通の洞窟じゃない」


 エレナは頷いた。


「アタシもそう思う」


 その時。

 前方から声がした。


「魔物!」


 ロルフの声。

 全員が武器を構える。

 通路の奥。

 数匹の魔物が現れた。


「ゴブリンか」

「三匹!」

「俺が行く!」


 ダグが前へ出る。

 しかし。


「待て」


 エレナが止める。


「何だ?」

「様子がおかしい」


 ゴブリンたちは。

 こちらを見ている。

 だが。

 襲ってこない。


「……」


 アルベルトは目を細めた。


「逃げてる?」

「何?」

「俺たちからじゃない」


 ゴブリンたちは。

 通路の奥を気にしている。

 そして。

 突然。

 こちらへ向かって走り出した。


「来るぞ!」


 戦闘になる。

 ダグが盾を構える。

 エレナが剣を振る。

 魔物を倒す。

 一匹。

 二匹。

 三匹。

 あっという間だった。


「……弱いな」


 ナッシュが呟く。


「それより」


 アルベルトが言った。


「何から逃げてた?」


 全員が黙った。

 洞窟の奥。

 暗闇が続いている。


「……行くぞ」


 エレナが言った。

 しかし。

 その声にも。

 少しだけ緊張が混じっていた。



 さらに一時間。

 洞窟を進む。

 魔物は現れなかった。

 静かすぎる。


「変だな」


 ミレイが言う。


「何が?」

「魔物の気配がない」

「さっきのゴブリンだけ?」

「その可能性は低い」


 アルベルトは周囲を見る。

 足跡。

 壁。

 天井。

 地面。

 そして。

 ふと。

 地面を見る。


「止まれ」


 アルベルトが言った。

 全員が止まる。


「何だ?」


 エレナが聞く。


「地面」


 通路の中央。

 そこだけ。

 微妙に色が違う。


「……罠か?」


 ロルフが呟く。


「可能性はある」

「どうする?」


 エレナがアルベルトを見る。


「避ける」

「当然だな」


 六人は慎重に通路の端を歩く。

 一人。

 二人。

 三人。

 問題なく通過する。

 四人。

 五人。

 そして。

 アルベルトが最後に通過しようとした時。

 洞窟全体が。

 わずかに揺れた。


「何だ!?」


 突然。

 通路の奥から。

 強烈な魔力が溢れ出した。


「エレナ!」


 アルベルトが叫ぶ。


「分かってる!」


 エレナが振り返る。

 その瞬間。

 足元の魔法陣が光った。


「テレポート!?」


 誰かの声。

 眩い光。

 そして。

 アルベルトの視界が白く染まった。


 次に目を開けた時。

 アルベルトは。

 冷たい石の床に倒れていた。


「……」


 頭を押さえる。

 周囲を見る。

 暗い。

 洞窟。

 しかし。

 先ほどまでいた場所とは違う。


「アル!」


 声がした。

 聞き慣れた声。


「エレナ?」

「無事か!?」

「多分」


 アルベルトは立ち上がった。

 そして。

 周囲を見る。

 誰もいない。


「……」

「他の奴らは?」


 エレナが聞く。

 アルベルトは答えなかった。

 見れば分かる。

 ここにいるのは。

 二人だけだった。

 洞窟の奥。

 どこかから。

 低い唸り声が聞こえた。

 アルベルトは。

 大きく息を吐く。


「……嫌な予感しかしなかったんだよな」

「今さら言うな」


 エレナが呆れた声を出した。

 しかし。

 その表情には。

 わずかな不安があった。

 アルベルトは背中の荷物を確認する。

 無事だ。

 そして。

 少し多めに詰め込んだ保存食を思い出す。


「まあ」


 アルベルトは呟いた。


「準備してきて正解だった」

「何を?」

「色々」


 エレナは。

 その言葉の意味を。

 まだ知らなかった。

 二人だけ。

 洞窟の深部。

 帰り道も分からない。

 食料も水も限られている。

 そして。

 この洞窟のどこかには。

 ゴブリンたちが逃げ出す何かがいる。


「さて」


 アルベルトは剣を抜いた。


「まずは」


 エレナを見る。


「生きて帰ろうか」


 エレナも剣を握る。


「ああ」


 こうして。

 二人だけの。

 長い洞窟脱出が始まった。

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