第14話 頑張りすぎる新人
それから数日。
フィオナは、一人で依頼を受け続けていた。
「次は……これ」
ギルドの掲示板を眺めながら、依頼書を一枚取る。
薬草採取。
報酬はそれほど高くない。
けれど、今のフィオナにはちょうどいい。
「これなら今日中に終わる」
依頼書を受付へ持っていく。
「フィオナさん、今日も一人ですか?」
「はい」
リゼが少し心配そうに聞く。
「最近、ずっと一人ですよね」
「そうですね」
「無理してませんか?」
「大丈夫ですよ」
フィオナは笑う。
「一人のほうが気楽ですから」
「でも……」
「それに」
フィオナは依頼書を差し出す。
「少しずつですけど、ちゃんと稼げるようになってきました」
リゼが依頼書を見る。
確かに。
ここ数日、フィオナは毎日依頼をこなしている。
「……分かりました」
リゼは受付処理をする。
「でも、無理はしないでくださいね」
「はい」
フィオナは笑顔で答えた。
「ありがとうございます、リゼさん」
「気をつけて行ってきてください」
「はい!」
フィオナは元気よくギルドを出ていった。
◇
森の中。
「……この辺りかな」
フィオナはしゃがみ込み、地面を見る。
薬草がいくつか生えている。
「よかった」
一本ずつ丁寧に採っていく。
そのときだった。
「……ん?」
フィオナが顔を上げる。
風が止まった。
鳥の声も少ない。
少し先の草が、不自然に倒れている。
「……」
フィオナは周囲を見渡す。
嫌な感じがする。
けれど――。
「大丈夫」
自分に言い聞かせる。
「魔物はいない」
慎重に辺りを確認する。
少し歩く。
すると、木の根元に別の薬草を見つけた。
「これなら、もう少し集められる」
フィオナは手を伸ばした。
その瞬間。
茂みの奥から物音がした。
「……っ!」
フィオナが飛び退く。
剣を抜く。
しかし。
出てきたのは小さな獣だった。
「……なんだ」
フィオナは胸を撫で下ろす。
「びっくりした……」
獣はフィオナを見ると、そのまま走り去っていった。
「……」
フィオナはしばらく、その方向を見つめていた。
そして。
「帰ろう」
薬草を確認する。
依頼分は十分集まっている。
それでも。
「……もう少しだけ」
フィオナは再び森の奥へ進んだ。
少しでも多く採れば、報酬が増える。
少しでも多く稼げば、早くランクを上げられる。
早く強くなれば――。
(誰にも、役立たずなんて言われない)
その思いだけが、フィオナを前へ進ませていた。
◇
夕方。
「お疲れさまです」
ギルドの受付に戻ってきたフィオナを見て、リゼが目を見開いた。
「フィオナさん……?」
「ただいま戻りました」
「……怪我してません?」
「え?」
「腕……」
フィオナが自分の腕を見る。
袖が少し破れている。
その下に、小さな擦り傷があった。
「ああ、これですか」
フィオナは笑った。
「ちょっと木に引っかけただけです」
「でも……」
「本当に大丈夫です」
フィオナは採取した薬草を出す。
「ほら。依頼分はちゃんとあります」
「……はい」
リゼが確認する。
必要数はそろっている。
品質も問題ない。
「ちゃんとできてますね」
「ありがとうございます」
フィオナは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、これで報酬を――」
「フィオナさん」
リゼが呼び止める。
「はい?」
「今日はもう休んでくださいね」
「大丈夫ですよ」
「でも……」
「本当に大丈夫です」
フィオナは笑顔を見せる。
「明日もありますから」
「……明日も?」
「はい」
リゼは少し驚く。
「明日も依頼を受けるんですか?」
「もちろんです」
フィオナは当然のように答えた。
「冒険者ですから」
そう言って、ギルドを出ていく。
リゼはその背中を見つめていた。
「……頑張りすぎじゃないかな」
◇
翌日。
その翌日も。
フィオナはギルドにやってきた。
依頼を受ける。
森へ行く。
戻ってくる。
また依頼を受ける。
少しずつ。
本当に少しずつだが、無理が積み重なっていった。
「……眠い」
朝。
フィオナは自分の顔を水で洗う。
鏡を見る。
目の下に、薄く疲れが見える。
「大丈夫」
頬を軽く叩く。
「まだ大丈夫」
そう言って、ギルドへ向かった。
◇
「フィオナさん」
「はい」
「今日の依頼、これだけですか?」
「はい」
リゼが依頼書を見る。
昨日より難易度が高い。
「これ、一人で行くんですか?」
「はい」
「……」
リゼは迷った。
止めたほうがいい。
でも。
依頼を受けるかどうかを決めるのは、冒険者本人だ。
「……気をつけてくださいね」
「はい!」
フィオナは笑う。
けれど。
その笑顔が、昨日より少しだけ疲れて見えた。
◇
昼過ぎ。
ギルドの奥。
「最近、フィオナって子をよく見るわね」
マリアが書類を整理しながら言った。
「はい」
リゼが答える。
「毎日、一人で依頼を受けています」
「一人で?」
「はい」
「パーティは?」
「……追い出されたそうです」
「そう」
マリアの手が止まる。
「それで、今はソロ?」
「はい」
「依頼内容は?」
「採取が中心ですけど、最近は少しずつ難しいものも受けるようになっています」
マリアは考える。
「無理してない?」
「……たぶん」
「たぶん?」
「本人は大丈夫って言うんですけど」
リゼは昨日のフィオナを思い出す。
「怪我してても笑ってました」
「そう……」
マリアは小さく息を吐いた。
「頑張り屋さんなのね」
「はい」
「でも」
マリアはフィオナが出ていった方向を見る。
「頑張ることと、無理をすることは違うわ」
「……」
「このままだと、どこかで倒れるわね」
リゼも頷く。
「私も、そう思います」
マリアはしばらく考えた。
そして。
「……一人、心当たりがあるわ」
「え?」
リゼが顔を上げる。
マリアは何かを決めたように立ち上がった。
「ちょっとお願いしてみる」
「誰にですか?」
「それは――」
マリアは少しだけ笑った。
「明日になれば分かるわ」
そう言って、ギルドの奥へ歩いていく。
リゼはその背中を見送った。
「……誰なんだろう?」




