第13話 新人同士
翌日の昼前。
冒険者ギルドの受付に、一人の少女がやってきた。
「こんにちは」
「はい。お帰りなさい」
リゼは顔を上げる。
「あっ、フィオナさん」
「覚えててくれたんですね」
「もちろんです」
昨日、初めてまともに話したばかりだったが、フィオナのことは覚えていた。
パーティを追放された新人冒険者。
それでも冒険者を続けるため、一人で依頼を受けている少女。
「昨日の依頼はどうでした?」
「無事に終わりました」
フィオナは採取した薬草をカウンターに置く。
「確認しますね」
リゼが一つずつ確認していく。
「……はい。全部そろっています」
「よかった」
「それに、採り方も丁寧ですね」
「本当ですか?」
「はい。状態もいいです」
フィオナの顔が少し明るくなる。
「ありがとうございます」
「こちらこそ。きれいに採ってきてくれて助かります」
依頼の処理を終える。
フィオナが立ち去ろうとしたところで、リゼはふと尋ねた。
「フィオナさん」
「はい?」
「お昼、もう食べました?」
「え?」
フィオナは少し考える。
「……まだです」
「よかったら、一緒に食べませんか?」
「えっ?」
フィオナが目を丸くする。
「私と……ですか?」
「はい」
「でも、お仕事中じゃ……」
「ちょうど休憩なんです」
リゼは笑った。
「私も新人ですし。同じ新人同士、少しくらいお話ししませんか?」
「……」
フィオナは少しだけ迷った。
けれど。
「……はい。お願いします」
そう言って笑った。
◇
二人はギルドの休憩スペースで向かい合って座っていた。
「改めて聞くと、フィオナさんって十八歳なんですね」
「はい」
「私、一つ上です」
「十九歳ですもんね」
「覚えてたんですか?」
「昨日聞きましたから」
「ふふっ」
二人で笑う。
それだけのことなのに、フィオナは少し嬉しかった。
昨日まで、ギルドに来てもほとんど一人だった。
パーティにいた頃も、最近は会話が減っていた。
だから。
こうして誰かと昼食を食べることが、少し新鮮だった。
「リゼさんは、受付嬢になってどれくらいなんですか?」
「まだ半月くらいです」
「私とほとんど同じですね」
「本当ですね」
「なんだか親近感があります」
「私もです」
自然と会話が続いていく。
「仕事、慣れました?」
「全然です」
リゼが苦笑する。
「毎日覚えることばかりです」
「分かります」
「同期の子たちはもっと手際がいいんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。説明も上手だし、仕事も早くて」
リゼは少し俯いた。
「私、まだまだだなって思うことがあります」
「……」
フィオナは少し考える。
「私もです」
「フィオナさんも?」
「はい」
フィオナは苦笑した。
「私は戦うのが苦手なので」
「でも、昨日の依頼はちゃんと終わったんですよね?」
「簡単な採取依頼ですから」
「それでも一人でやったんですよね」
「……はい」
フィオナは少しだけ嬉しそうに笑った。
「でも、パーティでは役に立たないって言われました」
「……」
リゼの表情が曇る。
「ごめんなさい。嫌なことを思い出させちゃいました」
「大丈夫です」
フィオナは首を振る。
「もう終わったことですから」
「……」
「それに、一人なら誰にも迷惑をかけません」
フィオナはそう言った。
けれど、その言葉を口にした瞬間。
胸の奥が少し痛んだ。
リゼも、それに気づいたようだった。
「……私も」
「え?」
「似たようなこと、考えたことあります」
フィオナが顔を上げる。
「リゼさんも?」
「はい」
リゼは少し恥ずかしそうに笑う。
「私、怒鳴られると頭が真っ白になっちゃうんです」
「……」
「だから、失敗したときに、自分が全部悪いんじゃないかって思ってしまって」
「分かります」
フィオナがすぐに頷いた。
「私も、できないことがあると、全部自分のせいだって思っちゃいます」
「同じですね」
「はい」
二人は顔を見合わせる。
そして。
「……変な感じですね」
フィオナが言う。
「何がですか?」
「初めてちゃんと話したのに、こんなことまで話せるなんて」
「……私も思いました」
リゼは笑った。
「フィオナさんには話しやすいのかもしれません」
「私もです」
◇
昼食を終えた二人は、休憩時間を使ってギルドの外を少し歩いていた。
「そういえば」
フィオナが言う。
「リゼさんは、同期の人と比べることってあります?」
「ありますよ」
「やっぱり?」
「はい」
リゼは苦笑する。
「仕事だけじゃなくて……見た目とかも」
「見た目?」
「ほら、女の子って、いろいろ比べちゃうじゃないですか」
「ああ……」
フィオナも思い当たることがある。
「髪とか」
「顔とか」
「服とか」
「スタイルとか」
「……」
「……」
二人の会話が止まる。
ちょうど前から、女性冒険者が歩いてきた。
長い髪。
整った顔立ち。
そして――。
「……」
リゼが目で追う。
「……」
フィオナも目で追う。
女性冒険者が通り過ぎる。
しばらくして。
「……すごかったですね」
フィオナが小声で言った。
「……はい」
「スタイル」
「……はい」
また沈黙。
「……いいなぁ」
「……いいなぁ」
二人の声が重なった。
「え?」
「え?」
顔を見合わせる。
「もしかして……」
フィオナが恐る恐る聞く。
「リゼさんも?」
「……はい」
リゼが小さく頷く。
「私も……胸、小さいほうなので」
「……私もです」
「本当ですか?」
「はい」
フィオナは自分の胸元を見下ろす。
「私、昔からあまり変わらなくて」
「私もです」
「周りの子を見ると、いいなぁって」
「分かります」
「服も似合いますし」
「分かります……」
二人でため息をつく。
そして、同時に笑った。
「なんだか安心しました」
「私もです」
「私だけじゃなかったんですね」
「はい」
フィオナは少し嬉しそうだった。
「でも……」
リゼが言う。
「胸だけが女の人の魅力ってわけじゃないですよね」
「もちろんです」
「ですよね」
「……でも、もう少しあったら嬉しいです」
「それは……分かります」
二人で笑う。
さっきまでの悩みが、少しだけ軽くなった気がした。
◇
「そろそろ戻りましょうか」
「はい」
二人はギルドへ向かって歩き出す。
「今日は楽しかったです」
フィオナが言った。
「私もです」
「また一緒にお昼食べてもいいですか?」
「もちろんです」
「よかった」
フィオナは嬉しそうに笑う。
「私、ギルドに来るのが少し楽しみになりました」
「私もです」
リゼも笑った。
まだ知り合って二日。
それでも。
同じ新人だから分かることがある。
同じように悩んで。
同じように自信をなくして。
それでも頑張ろうとしている。
だからこそ、話しやすかった。
「じゃあ、また明日」
「はい。また明日」
二人は笑顔で別れた。
リゼは受付へ。
フィオナは冒険者用の掲示板へ。
向かう場所は違う。
けれど。
今日から二人には――。
仕事のことも。
自分に自信が持てないことも。
ちょっとした女の子の悩みも。
気軽に話せる友達ができた。
そんな小さな変化が、二人の毎日を少しずつ変えていくことになる。




