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転生したおじさん、目立ちたくないけど傾聴スキルでモテまくる  作者: なごやかたろう
新人受付嬢編

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第10話 俺が説明する

 その日は、朝から少し忙しかった。

 受付には次々と冒険者が訪れ、依頼の確認や報酬の受け渡しが続いている。


「次の方、どうぞ」

「この依頼を受けたい」

「はい。確認いたします」


 私は依頼書を受け取り、内容を確認する。

 最近は、以前よりも落ち着いて仕事ができるようになってきた。

 分からないことがあれば先輩に聞く。

 焦りそうになったら、一度深呼吸する。

 そして――。

 困ったときは、一人で抱え込まない。

 アルさんに教えてもらったことを思い出しながら、今日も仕事をしていた。


「ありがとうございました」


 冒険者を送り出す。

 少しだけ、自信がついてきた気がする。


「……よし」


 小さく呟いた、そのときだった。


「おい」

「はい?」


 目の前に、一人の男性冒険者が立っていた。

 昨日の男性よりは小柄だが、かなり不機嫌そうな顔をしている。


「この依頼なんだが」

「はい」


 私は依頼書を受け取った。


「……こちらですね」

「そうだ」


 依頼内容を確認する。

 すると、少し気になる部分があった。


「申し訳ありません。この依頼は昨日、条件が変更されています」

「変更?」

「はい。討伐対象が追加されているので、こちらの確認が必要です」

「俺はそんな話を聞いてないぞ」

「……」


 私は依頼書を確認する。

 確かに、変更後の情報が記載されている。


「こちらに追記されています」

「どこだ?」

「ここです」


 私は指で示した。

 男性が依頼書を覗き込む。


「……こんなの、小さく書いてあるだけじゃねえか」

「申し訳ありません」

「だったら受付でちゃんと説明するのが普通だろ!」


 声が大きくなる。

 私は身体を固くした。


「……」

「聞いてんのか?」

「は、はい……」

「こっちは命張って仕事してんだぞ! 後から条件を追加されて、はいそうですかって受けられるか!」

「……申し訳、ありません」


 頭が真っ白になっていく。

 何を言えばいい?

 説明しなきゃ。

 でも。

 言葉が出てこない。


「だから最初から――」

「その辺にしておけ」


 聞き慣れた声がした。

 私は顔を上げた。


「……アルさん」


 アルさんが立っていた。

 いつもの穏やかな顔。

 けれど、目だけは笑っていない。


「依頼書を見せてもらえるか?」


 男性が不機嫌そうに依頼書を差し出す。

 アルさんは黙って目を通した。


「……なるほどな」

「何がなるほどだ?」

「条件変更は昨日の夕方か」

「そうだ」

「変更された内容は、ちゃんと依頼書に書いてある」

「だったら、こいつが説明すればいいだろ!」


 男性が私を指差す。

 私はまた身体を強張らせた。

 すると。


「まあ、待て」


 アルさんが静かに言った。


「この子にも確認不足はあった」

「……!」


 私は驚いてアルさんを見る。


「依頼書を渡すだけじゃなく、条件変更について一言説明しておけば、もっと親切だっただろうな」

「じゃあ――」

「だが」


 アルさんの声が変わった。


「それと、彼女を怒鳴っていいこととは別だ」

「……」

「条件変更の周知が十分だったかどうかは、受付全体の問題だ。一人の新人に全部背負わせる話じゃない」

「でも、こいつが受付だったんだぞ」

「だから?」

「だから責任があるだろ!」

「受付としての責任はある」


 アルさんは否定しなかった。


「だから本人にも反省するところはある。それは俺も認めてる」

「なら――」

「だが、責任があることと、怒鳴られて当然ってことは同じじゃない」


 男性が黙る。

 アルさんは続けた。


「説明不足があったなら、そこを指摘すればいい」

「……」

「怒鳴ったところで、説明が上手くなるわけでもないだろ」


 静かな声だった。

 怒鳴ってはいない。

 威圧しているわけでもない。

 それなのに。

 男性は何も言い返せなくなっていた。


「それでも納得できないなら、責任者と話してくれ」


 アルさんがマリアさんを見る。


「マリア」

「ええ」


 マリアさんがすぐに頷く。


「私が対応します」

「頼む」


 アルさんはそう言って、私を見る。


「リゼ」

「……はい」

「少し下がっていいぞ」

「でも……」

「いいから」


 その声は優しかった。

 私は小さく頷いた。


「……はい」


     ◇


 少し離れた場所で、私はそのやり取りを見ていた。

 男性はマリアさんと話をしている。

 アルさんは、その少し後ろに立っている。

 何かあればすぐ動ける。

 そんな距離だった。

 やがて話がまとまり、男性は帰っていった。


「ありがとうございました」


 マリアさんが頭を下げる。

 男性が見えなくなる。


「……ふぅ」


 私は大きく息を吐いた。

 自分でも驚くくらい、緊張していた。


「リゼ」

「はい」


 アルさんがこちらへ来る。


「大丈夫か?」

「……はい」

「本当に?」

「……」


 私は俯いた。


「すみません」

「なんで謝るんだ?」

「私……また何も言えなくなって」

「怒鳴られたら、そうなるんだろ?」

「はい……」

「だったら仕方ない」

「でも、受付嬢なのに……」

「受付嬢だからって、怒鳴られた瞬間に冷静に話せるようになるわけじゃない」

「……」

「昨日も言っただろ」


 アルさんが少し笑う。


「無理に一人で何とかするなって」

「……はい」

「今回は俺が近くにいたから、俺が説明した」

「……」

「それでいい」


 その言葉を聞いた瞬間。

 胸の奥が、じわっと熱くなった。


「……アルさん」

「ん?」

「ありがとうございます」

「おう」


 それだけだった。

 でも。

 私は分かってしまった。

 アルさんがいると安心する。

 ただ、それだけじゃない。

 アルさんが私を信じてくれている。

 失敗したところは、ちゃんと失敗したと言ってくれる。

 でも。

 私が悪くないことまで、私のせいにはしない。

 それが嬉しかった。


「……私」

「ん?」

「もっと頑張ります」

「そうか」

「ちゃんと説明できるようになりたいです」

「なら、一つずつ覚えていけばいい」

「はい」

「焦るなよ」

「はい!」


 私は顔を上げた。

 少しだけ、笑えた。


     ◇


 その日の仕事が終わった。

 私は受付を片付けながら、昼間のことを思い出していた。

 怒鳴られたとき。

 頭が真っ白になった。

 怖かった。

 逃げたくなった。

 でも。

 アルさんが来た。

 そして。

 「俺が説明する」

 そう言ってくれた。


「……」


 思い出すだけで、胸が熱くなる。

 私は受付カウンターの上に置かれた書類を整理しながら、小さく笑った。


「……アルさん」


 もう、名前を呼ぶだけで嬉しい。

 明日も会いたい。

 明日も話したい。

 明日も、アルさんに「頑張ったな」と言ってもらえたら嬉しい。


「……私、どうしちゃったんだろ」


 自分でも分からない。

 ただ。

 今日、アルさんに助けてもらったことで。

 私はまた一つ、アルさんのことを好きになる理由を増やしてしまった。

 そのことだけは――。

 なんとなく、分かっていた。

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