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サーンズライド海軍記  作者: nanoris
海軍大学校・演習編
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第4話 目的と方法

 どうも教官たちには圧倒的な索敵能力があるらしい。これを大前提としてた作戦が求められている。この彼我(ひが)における不均衡が僕たちの軍港攻略戦の肝となるだろう。


 僕たちは過去の演習レポートも読みながら話しあいを重ねている。毎年の創意工夫を見るのは普通に読み物としても楽しい。どの年度でも大前提となる基本は同じ。教官たちの海軍基地は無力化できない。それは物理的に不可能だ。艦隊にそのような力はない。だからどうするのか。ここに目的がある。開発すべき方法がある。我々は何を目標に、何を開発し、どこへゆくのか?


「特に面白いのが22期かな」パン屋のブレッド・バンボーンが資料を見ながら読み上げる。


「22期は、ええと、たしか大規模な上陸戦だよね」記憶を頼りに話すコールド・バッチ。彼は1クラスでオーエス・カーネルらと共に実習済だ。


 軍港は三日月の形をした10kmの島にある。軍港の後ろには標高100メートル程度の山があり、その裏に崖が広がる。湾口の入り口は3kmと狭まっていてそこから5kmくらい奥に軍港がある。


「そう、なんと島の裏側から上陸戦を展開した。その当時は島の裏側は海岸線が広がっていたんだね、その海岸に全艦隊で乗り上げた。そこから陸軍部隊を上陸させて市街地、軍港を占領しようとしたんだ」ブレッドが資料を読みながら詳細を説明する。


「海軍の演習でこれは予想の斜め上だね、誰だろ作戦を立案したのは?」双璧のウォーター・ストーンダッシュ。


「うーん、レポートには書かれていないね、海軍の演習で陸軍が登場するのはこれが最初かな。陸上戦なんて誰も予想していなかったから、上陸された時点で演習は終了となったんだね」


 演習の運営委員に最初の申請があった時、担当者たちは頭を抱えたらしい。上陸戦はさすがに海軍の演習では想定外。けれどもそれを理由に失格にすることはできない。揚陸作戦を理由に却下ともいえない。とはいえ、上陸後の戦闘は規定していない。それでは演習が成立しない。そんな訳で運営のひとたちは上陸できるかどうかがはっきりする所までを演習とし、それが終わった時点で演習は打ち切りにすると宣言した。


 この作戦案はもちろん教官側には伝えられていなかった。普通に迎え撃ったのに外洋では海戦を挑もうにも生徒側は逃げに逃げ切る。追跡戦をしようにも島の裏側に向かったので軍港に戻り、監視を続けてその次の動きを待っていた。すると突然の演習終了の宣告。聞くと生徒側の全艦船が海岸に乗り上げて使用不能になった状態。驚くともに「今年は何かをやった気がしない」司令役の教官はそう語ったと記録にはある。


 この演習を切っ掛けに島の裏側は上陸不可の崖に変えられた。ただし、ある程度の上陸戦は可能とする簡易的なルールも作られた。演習のルールを変えたという事で特記に値する。


 新設されたルールでは上陸してどの地域を占領するかを申請する事で運営がその合否を判定する。この判定には教官側がどこに守備隊を展開しているかが重要になる。


「シービルド?」そう呼ばれて僕は声の方を向いた。


「君はどう思う?シービルド」ホークス・F・アレイが僕に話を振る。その後にブレッド・バンボーンが「J・スカイリンク」と合いの手をいれてはケラケラ笑っている。何が面白いのかは分からないのだが、どうやら”スカイリンク”という名前がツボらしい。恐らく王族だけに通じる冗句があるのだと思う。


「どうも地図を見る限り」と僕は話を始めた。


 山頂には二基の強力な砲台がある。たった二基とはいえ海上戦力でこれを沈黙させる事は難しい。現在の艦砲では全然火力が足りない。だから艦隊で軍港を沈黙させる事はできないとされている。半要塞化どころか、幾つかの陸上砲台を持つ施設だけでもかなりの防衛力を持つ。


「そう。艦砲射撃では陸上施設を沈黙させられない、講義で僕もそう習った」サマー・ドーン。彼も1クラスで演習に参加している。


 だから地上施設を叩くなら必ず陸戦隊をもってゆく。しかも軍港から直接上陸するなんてことはしない。他の場所で揚陸してから行軍する。基本的に陸軍と共同でやるべき作戦である。するとこの程度の演習の規模で済む話しではない。もっともっと大規模でなければおかしい。それを海軍の艦隊だけで攻略するというのは前提からして破綻(はたん)している。


「今回の演習規模で運べるのはせいぜい揚陸戦が限度だ」ブレッドが規約を覗き込みながら言う。

「でも上陸したからってそれが勝利条件になる訳じゃないでしょう?」ピピン・ピンピン。


 そうなのだ。どの期もここでみんなが立ち止まる。僕はずうっと考えていた。いつもそこで立ち止まる。そして色々と考える。一体僕たちはどうすれば勝利したと言えるのか。何をすればこの演習を成功と宣言できるのか。


 仮に軍港施設を破壊したとする。それで果たして攻略したと言えるのだろうか?戦術的にも戦略的にもそれで何かを達成したと言えるのだろうか。この演習に勝利条件の明示はない。目的が初めから空欄のままなのだ。


「だからこの課題では毎年多くの議論が出ているね。先輩たちの資料にもたくさんの議事録が残っている」オーエス・カーネル。


「先輩たちもずうっとこの演習の意味を見出そうとしてきた。結論としては、それぞれの期で勝利条件を自分たちで決める。そしてそれを自分たちでクリアする、そういう作戦案にする」ブレッドが言う。


 そうなんだ。どの報告書にも最初に目的の章がある。そして自分たちの作戦を詳細に記述する。この作戦はこういう事を目的とし、そのためにはこのような行動計画とした。そこから始めるしかなく。少なくとも4期生以降はずうっとこのやり方を踏襲してきている。


「既に伝統的ですね」とクラッシュ・リリック。アグネスの執事がコーヒーを飲みながら捕捉する。


 だからこの課題には矛盾がある。軍港攻略の演習。成功の条件は明示されていない。もし自分たちで勝手に目標を決めていいならぐっと簡単なものにできる。艦隊保全を目標に演習中一度も動かないのも手だ。これは31期生の作戦。


 だがそれでいいのかという疑問もある。どうもクリアと目的が一致しない。戦略を立てる事、それも軍略よりももっと上位の政略的な…。そういうものかも知れない。そうやってああだこうだと悩む事に意義がありそう。


 だから本当の事を言えば僕はこの演習をやめさせる、それが一番正しい戦略ではないかと思ったりもする。存在自身を疑え、そんな事を語った哲学者が確かいる。ではどうやったらこの演習を取り消せるのか。そこが本当に目指すべき場所ではないかと思ったりもしている。


「それをどうやって実現するんだい?」ホークス。


 教官達に言っても演習は中止にはできない。そんな権限はないだろうし。期末試験はやめましょうと言っても無駄だ。なら校長に直談判はどうか。視点が面白いとか言われて体よく校長室から追い出されそう。

 だからどうしてもやりたければ大学の機能を停止するくらいのおっきなイベントでも起こすしかない。自然災害は僕らの手にはあまる。ストライキや一揆は僕たちの方法論にはない。ここはいっそ軍人らしくクーデターはどうだ。校長を人質にとって交渉する。それくらいしか思いつかない。考えも平凡、手段も平凡、僕は平々凡々。待ってるのは銃殺刑。


「ほう、クーデターでございますか、シービルド様。それはとても斬新です」クラッシュが面白そうに笑った。その横でアグネス・ブルックリンは嫌そうな顔をしている。


「私は突撃戦がやりたいのだ。勝敗などどうでもいいんだよ。クーデターの何が面白いのか」


 みんなが好き勝手に言い合っている横で懸命に議事を取っているのがオータム・フォール。彼女はブレッドのお付きの秘書として入校している。


「わたくしはこの議事を後世に残す役割がありますから」とあまり自分の意見は言わない。しかし、全員の話を完全記憶してるってくらいには記憶力がいい。「いえいえ、わたくしは記憶力がいい訳ではありません。書いているので自然と覚えているだけで御座いましょう」と謙遜するが彼女の議事録を見れば一目瞭然。全員の話しを体系づけて分類して本人も気づいていない矛盾点まで注釈にして丁寧に記録している。


「わたしは正面から撃ち合えるならなんでもいい」とアグネス。再三再四、これだけは念押しする。

「私はそれを肯定いたします、はい。わたくしは常に『はい』という返事しか持っておりません、お嬢様」執事クラッシュが更に念押しの言葉を吐く。


 ふいに気になってブレッドが聞いている。

「どうしても彼女に『はい』と言えない場合はどうするんだい?」

「その時は沈黙をもって答えとします」

「それでも彼女が『はい』を強制してきたら?」

「その時は共和国に亡命します」


 突撃は亡命する理由にはならないらしい。


「僕はなんとか教官たちの高い索敵能力を無効化したいね」1クラスのオーエス・カーネル。「私もそれがすごく気になる、ある意味、その能力を測定するために島の裏側に回ってみたりしたんだから」2クラスのハル・ドライバ。最後に挑む3クラスへの期待は大きい。


 島の山頂に観測所を設置すれば相当な索敵能力が得られる。見える範囲は山の高さが分かれば三角関数を使って計算できる。測距儀の能力は海軍で標準的なものを当てはめればいい。それを想定した上で敵艦隊の裏をかくように艦隊運動をしたのだが、それでもハルたちの艦隊は早い段階で補足された。


 島の山頂からの索敵距離では間に合わないはずなのに。見つけてから艦隊を移動させるのでは捕捉するのは難しい。それがオーエスやハルらの結論だ。


 僕はこの演習の勝利条件について考えたい。僕はそう考えているとみんなに語った。


「だから敵艦隊を殲滅すればいいのだ」とアグネス・ブルックリン。だが教官の艦隊を相手に全滅させる事は難しい。過去のどの期もそれには失敗している。流石に相手はその道のプロである。どうこういって僕らは経験不足のひよっこである。


「まぁ、お嬢様は突撃さえ出来れば全滅しても何も気にされない方ですから特に問題は御座いません、はい」とクラッシュが付け加えた。


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