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サーンズライド海軍記  作者: nanoris
海軍大学校・演習編
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第2話 演習の説明

 僕たちの二つ名は「非人道的な36期生」である。えへん。ホークス・F・アレイが中心となって立案し全員で挑んだ机上演習で教官から頂いた通り名である。聞こえは悪いが僕はこれを気に入っている。


 海軍大学校では数多くの図上演習を行う。それを通して戦術の基本が叩きこまれる。運動選手がランニングをしたり、数学を学ぶのに沢山の問題を解いて基礎体力を身に着けるのと同じだ。そして大学生活では最も楽しい時間のひとつでもある。


 机上演習は教官たちが指揮する艦隊と生徒たちの指揮する艦隊を戦わせる実習である。やっている事はボードゲームに近い。だがこれを通して僕たちは艦隊運用のみならず、そこに至るまでの計画の立案やその手順、必要な申請書類の書き方なども身に着けてゆく。

 演習にはシラバス別に色んなカリキュラムが用意されている。過去に起きた実際の海戦を再現させてみたり条件を変えてみたりして研究する。


 次の3つが毎年恒例の演習になっている。


 1)海図大演習、これは多数の艦隊を投入して艦隊決戦、夜戦、補給などの艦隊運営の基礎を学ぶための演習で、3日間かけて行う。僕たち生徒が入学したら最初に経験する大規模で本格的な海図演習。演習を学ぶための演習という位置づけ。


 2)島嶼追跡戦、教官たちの艦隊が島嶼を自在に逃走するのを追跡しながら撃滅する、通称鬼ごっこ。教官たちは逃げて隠れて島影から反撃してくる。それに対処してゆくには艦隊運動の巧さを身に着けておく必要がある。


 3)軍港攻略戦、教官たちが守備する三日月島にある海軍基地を生徒側の艦隊が攻略する。海上戦力で軍港を攻略する作戦は戦史を振り返ってもほぼ失敗している。もともとこの演習は無理難題と言われ、それ故に生徒にとっては計画も実践も難しい課題になっている。


 僕たちはいま軍港攻略戦について話し合っている。36期生64人。3つのクラスに分けてこの演習に取り組んできた。今の所2敗。先行した2クラスの状況を叩き台にして検討を重ねている。教室に全員が集合して喧々諤々。演習も三度目なら少しは上手に勝ちたい訳である。


 軍港は横幅の長い最大10km程度の三日月島にある。湾口は3km程度で閉じられており、奥行きは5km程度、その奥の所に軍港がある。天然の防波堤の島である。


 一枚の海図の上で敵味方の艦隊を配置して行う演習は一般的には二人零和有限確定完全情報ゲームの一種である。サイコロやカードを引いてヒット判定などを行わなければ、全ての情報がオープンになっている。

 敵味方艦隊の位置も運動もお互いに丸分かりの状態で、純粋に戦略をぶつけ合う事で、主に戦略を確認したりその欠点を調べる場合に使用する。何度もシチュエーションを変えては色んな手を試す。


 戦略ゲームでは索敵や砲撃のヒット判定に運の要素を入れたい場合と入れたくない場合がある。戦略を純粋に検討する場合は、運の要素で状況が変わるようでは困る。

 しかし、運の要素で負ける事は現実でもよく起きる事である。そのリアリティを感じられるように対決的な演習を行う場合は運の要素も組み込んだりする。


 もちろん実際の戦闘は運や偶然の要素が最大化する。相手がどこにいるかも分からない所から戦闘は始まる。だから情報を求め様々な想像をしながら手を打つ。

 本当の戦争では戦闘の勝利が必ずしも戦略の勝利とは限らない。戦闘で敗北し戦略で勝利する事もある。互いの情報は不完全のまま同時並行的に遷移し、互いの目論見も帰着も混乱し、局所と全体の区別さえ曖昧模糊とした推移してゆく。


 通常は一枚の海図を前に両陣営で戦略をぶつけあう。しかしもう少し実際の戦闘に近づけた再現性の高い演習がある。部屋を三つ用意する。それぞれの部屋は離れていて互いに見えないし聞こえもしない。

 情報のやり取りは完全に遮断されている。そこには僕たち生徒が籠る部屋、教官たちが籠る部屋。そして演習を運営する部隊が籠る部屋がある。


 自分たちの部屋の海図には自分たちの艦隊の情報がある。相手がどこにいるか、最初は全く分からない。演習が始まれば相手の行動を予想しながら索敵を何度も繰り返し仮想位置を移動させてゆく。自分たちの艦隊も移動さえてゆく。教官たちも全く同じ条件である。


 艦隊は索敵をしながら移動する。これらの情報は連絡員を通じて運営部屋に提出される。どこに艦隊があり、どの方向に何を探しているかの申請を受けて、運営部屋では、どこを索敵するか、どの位置に何隻が何ノットで移動しているかの情報を、運営部屋の中央に置かれた大海図の上に反映する。

 この海図には両陣営の艦隊の情報が全て書き込まれている。この海図が現実世界の反映となっている。


 相手艦隊の索敵とは早い話が艦船が吐き出している煙が見えるかどうかである。どの距離にいればどれくらい見えるかは標準的に決められている。

 運営部屋では、索敵要求に対して結果を算出し紙に書いて各部屋の連絡員に返す。何も見つからないならその旨を返す。夜になると索敵の精度が落ちる。連絡員はこの結果をもって自分の部屋に戻る。


 砲撃が始まればどの方向に撃つかを伝えその結果を得る。命中したかどうかが返される事はない。しかし被害状況として、煙が上がっているとか火災を起こしているとか情報が返される。

 艦船の速度や方向など、目視で得られる情報も伝えられる。これらの間接的な情報が実際の被害状況とは限らない。浸水して傾いているとか、沈没したとかなどあくまで外から見える状況が戻されるだけである。それを受け取って僕たちは被害を推定し、次にどう動くかを決めてゆく。


 演習は朝8時から翌8時までの24時間をかけて行う。ほぼリアルタイムで。


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