↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/28

第3話 夜眼の王

 クールタイムの静寂が街を包む中──


 部屋に閉じこもったまま寝ていたアクトは、喉の渇きでふと目を覚ました。

 剥がれかけた壁紙を指でなぞりながら、電灯のスイッチを探す。電力を抑えた薄明かりが部屋を照らし、アクトはキッチンへ向かった。


 「はあーぁ……目が覚めちまった。まだ3時か。

  なんだよ。リーリアの奴、まだ帰ってねえのか?」


 いつもならとっくに帰ってきているはずだ。

 アクトは胸に微かな不安を抱きながら、30分ほど起きて待ってみたが、やはりリーリアが帰ってくる気配はない。


 「あいつ、怪我でもしたんじゃ……!」


 夜眼が人間離れしていることは、長年の生活でよく知っている。

 だからこそ、普段なら戻るはずの時間に戻らない彼女を、アクトは心配せずにいられなかった。


 「くっそ……明るくなるとまずい……!」


 そばにあった暗視ゴーグルと集光ライトを掴んだアクトは、慌てて家を飛び出した。

 岩壁や足場、建設途中の街に至るまで光を当てて目を凝らし、リーリアの影を必死に探す。


 ──数十分後

 やはりリーリアは見つからない。


 「あのバカ!あと1時間ちょっとでデイタイムになっちまう……!」


 5時頃になれば、街を照らす天蓋灯が作動し始める。そうなれば、耳や手足の毛皮で夜眼だとすぐにバレる。

 男なら、この街では作業員として誤魔化せる可能性もあるが、こんな時間に出歩かない女の夜眼は誤魔化せない。


 「下手に名前叫べねえし……くそったれ!!」


 その時だった。大穴の少し下の足場に、ライトを反射して光る何かがあった。

 アクトは暗視ゴーグルの倍率を上げ、光の範囲を絞ったライトを当てながら目を凝らす。


 「あれは……!リーリアの耳飾りじゃねえか!!」


 一気に血の気が引いた。

 その下の、建設途中の街へ再びライトを向け、必死にリーリアの姿を探す。


 でもどこにも姿はない──


 「降りるしかねえ……!」


 アクトが岩壁の足場へ足をかけた瞬間。

 「ガゴッ!」と音を立てて緩んでいた足場が抜け落ち、アクトの身体が宙に浮く。


 「まじかよ……!!」


 まさに落下し始めたその瞬間。

 岩壁から黒い影が飛び出した。影はアクトを抱き抱えたまま、軽やかに足場を蹴り上がる。


 そのまま地上へ登ってアクトを放り投げたその影は、目深に被った黒いフードの奥から鋭い瞳を覗かせた。


 「助かった……けど、あんたその眼……!」


 暗闇の中でも微かに光を反射する金色の瞳。

 それは、紛れもなく夜眼のものだった。


 「同胞が見つかったと思って来てみれば……

  貴様、人間ではないか。紛らわしい匂いを撒き散らすな。」


 少し高圧的な、青年と思われる声。

 彼は不満げに呟くと、すぐに外套を翻して立ち去ろうとする。


 「待ってくれ!妹を……リーリアを探してくれないか!?

  あんたが言ってた匂いは、その子のものだ!頼む!!」


 藁にもすがる思いで声を上げるアクト。

 青年は立ち止まって振り返るが、アクトへ顔を近づけ、金色の瞳で鋭く睨みつけた。


 「人間が……夜眼を“妹”だと?

  どうせ、身体目当てに汚い金で買ったのだろう?」


 「種族なんて関係ねえんだよ!大体……

  俺がそんなに金持ってるように見えんのか!?」


 青年はしばらく黙り込む。

 やがて、アクトの全身を見渡すと、溜め息とともに口を開いた。


 「まあ……たしかにな。詳しく話せ。」


 アクトは自分たちのこれまでの境遇と、今起きていることを簡潔に話した。

 全てを聞き終えた青年はフードを外し、何かを思い出すようにぽつりと呟いた。


 「あの孤児院か……」


 「あ?ババアのこと知ってんのか……?」


 「いや……なんでもない。」


 意味ありげに視線を落とす青年。

 少し間を空け、彼は再びアクトを見据えて告げる。


 「その話は真実のようだな……貴様からは嘘の匂いがせん。

  我の名はジアド。地表にある、夜の国を統べる夜眼の王だ。」


 「夜眼の王……!?」


 アクトは驚きを隠せなかった。

 それはリーリアがよく話していた“御伽話”に出てくる夜の国を統べる王。

 そんな眉唾とも言える存在を、何の躊躇いもなく名乗る夜眼が目の前に立っている。


 《あの御伽話が真実?そんなわけが……》


 一瞬考え込んだアクトだが、それを振り払うように首を振った。


 《いや……今はそれどころじゃねえ!》


 「ジアド……お願いだ。リーリアを一緒に探してくれ!俺にはあいつが必要なんだ!!」


 ジアドは少し考え込んだが、何かを察知してぴくりと耳を動かし、険しい顔でアクトに声をかけた。


 「助けるなら、少し急いだ方がよさそうだな。

  その匂いのする方角から、微かに悲鳴が聞こえた。」


 「なんだと!?」


 アクトが声を上げた瞬間、ジアドは彼を再び抱き抱えた。


 「うお!?」


 「少し我慢しろ。貴様の足では間に合わん。」


 《おいおいおい!まじかよ……!?》


 ジアドはアクトを抱えたまま、闇に沈む歓楽街へ向け、凄まじい速さで駆け抜けた。


 ◆◆◆


 その頃──


 歓楽街のさらに奥にある倉庫では、薄気味悪い笑みを浮かべるクリプトと、数人の男がリーリアを囲んでいた。

 鉄板を繋ぎ合わせただけの簡素な倉庫だが、防音だけはしっかりと施されている。


 「はっはー!いーい雌が手に入ったなぁ!」


 クリプトの不快な高笑いが響く。

 周囲の男たちも縛られたリーリアを品定めするように眺めていた。


 「いやぁ、ずいぶん上玉じゃねえか。

  変態の金持ちどもが涎垂らして寄ってくるぜぇ?」


 首輪をはめられ、壁に鎖で繋がれ、手足を拘束されたリーリアが悲痛な声で叫ぶ。


 「あんたたち何よ……!これ、解いて!!」


 「いいねぇ!もっと叫んでみなぁ?

  売り渡す前にじっくり可愛がってやるからよぉ!」


 クリプトは嘲笑い、ゆっくりとリーリアに近寄ると、彼女の首元にナイフを添えて一気に服を引きちぎった。


 「いやッ!!やだ!やめて……!!」


 「はっはー!もっと鳴けよ!なぁ!?」


 甲高い声が倉庫に響き、クリプトの汚い手がリーリアへと伸びた。


 その時──


 後方から響く、鈍い轟音が倉庫を揺らす。

 その場の全員が思わず振り返った。


 「ば、爆発!?」

 「おい……なんだよあれ!」


 振り返ると、鉄板に数本の鋭い爪のようなもの突き刺さっていた。


 「つ、爪……?」


 男の一人が恐る恐る近づいた瞬間──


 ギリギリと鉄を裂く音が響き、鉄板が斬り裂かれていく。直後、亀裂に分厚い手が差し込まれ、大きく広げられた隙間から鋭い金色の瞳が覗き込んでいた。


 顔を歪め、深い皺を刻む夜眼。

 王たる風格を纏うジアドは、燃え上がる怒りを胸に倉庫へと足を踏み入れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。