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第25話 ドルダートの執着

 送電線や各種ライフラインが詰まった極太の支柱。それが数本、各層を貫く形でセントラルまでを繋いでいる。

 その支柱を守る外壁には、層ごとを行き来するための昇降機が設けられていた。


 「ぬははは。相変わらず辛気臭えところだなあ!空気が淀んでんじゃねえか?ああ?」


 豪快かつ不遜な声とともにドルダートが降り立ち、横には艶やかな金髪をなびかせるブレンダが付き添っている。


 「ドルダート様、あまり事実を口にしませんよう。

  ガイアードファミリーの方々が目の前にお見えですので。」


 言葉は丁寧でも、どこか鼻につく。

 ブレンダには恐らく悪気はないのだろうとうかがえる。だがその言葉の端々には、最下層への侮蔑が滲んでいた。


 「よお、ドルダートさんよー。久しぶりだってのにずいぶんとご挨拶じゃねえか?」


 「はっ!挨拶してやってるだけありがてえと思うんだな、小僧!」


 出迎えるルシウスの言葉に、嫌味を返すドルダート。

 二人の間には一触即発の空気が漂い、その場で抗争でも始めそうなほどの威圧感をぶつけ合っていた。


 「やめないか、親父。弱い人間ほどよく吠えるものだ。大目に見てやろうじゃないか。」


 止めに入ったのかと思いきや、ベルから放たれるまさかの挑発。

 ドルダートの横に控えていたブレンダが、その綺麗な顔を歪めて言った。


 「ベル嬢……切り離した首を飾り付け、残った胴を隅々まで愛でて差し上げましょうか?」


 「ははは。あたしはノーマルなんでね。

  熱烈な求愛はありがたいが、女の相手はごめんだよ。」


 気づけば、こちらも一触即発。

 その様子を見たアクトとリーリアは、身を寄せ合って身構えていた。


 《おいおい……勘弁してくれよ……》


 アクトは思わず息を呑む。

 隣ではリーリアがアクトの耳元で囁いた。


 「ね、ねえ……ここにいて大丈夫かな……?」


 「安心しなさーい。私がそばにいるから大丈夫よーん。」


 すると、怯える二人にマーガレットは相変わらずの様子でウィンクを飛ばした。

 その時、三人のそばにいたガイアードファミリーの幹部の一人が、ルシウスたちの元へ慌てて駆け寄る。

 短めの薄紫の髪に、淡い緑の瞳を持つ女性。少し頼りなさそうな猫背だが、黒服を纏い、どこか唯ならぬ雰囲気を漂わせていた。


 「ちょっとー。二人して何やってんすかー?

  ボスもベルさんも、ちょっと落ち着いてくださいよー。」


 「うるせえぞ、アイシャ!誰にもの言ってんだ、てめえ!?」


 「いや、すまんな。アイシャ。

  久しぶりに血が沸き立つ感じがしてな。ははは。」


 アイシャと呼ばれた女幹部は、両手を広げて溜め息をつく。ベルはそんなアイシャの肩を叩き、楽しげに笑みを浮かべていた。

 すると、イグニスファミリーからも一人、ドルダートとブレンダの脇に控える幹部が溜め息をついた。その男は傷んだ薄茶の髪を掻き上げながら、面倒くさそうに二人へ言う。


 「あのお……今日って取引じゃなかったすか……?

  いきなりドンパチやるなんて聞いてないんすけど……」


 気怠そうにする男に対し、ブレンダが鋭い視線を向ける。

 男は少し顔を引き攣らせると、頭を掻きながら再び溜め息をついた。


 「ぬはははは。てめえは相変わらずだなあ、ルイス。

  まあいい。今日の本題は白銀の夜眼だ。なあ、ルシウス?いい取引を期待してるぜー?」


 「はっ!せいぜい楽しみにしてな。」


 一部始終を見ていたアクトは、強張らせた顔の緊張が解けずにいた。

 冷や汗をかきながらリーリアの手を握り、その身を庇うように彼女の前に立つ。


 《ああ……胃が痛え……!

  ファミリー同士が鉢合うといつもこんなんなのか?》


 そんなことを考えながら腹を押さえるアクト。

 不安を抱えるアクトたちをよそに、ルシウスたちは取引場所となる倉庫へと足を運んだ。


 ◆◆◆


 倉庫に着くと、早速ドルダートが切り出した。

 少し前のめりな彼の様子は、珍しいものが手に入るというよりも、邂逅そのものを心待ちにしているように見える。


 「まーたこんな辛気くせえとこに連れ込みやがって……

  もったいぶってねえで、さっさと白銀の夜眼を出しやがれえ。」


 「そうです。ドルダート様をあまりお待たせせぬよう、早く品物を見せなさい。」


 ブレンダもどこか苛立つ様子を見せる。

 ただ、その苛立ちがどこからくるものなのかは分からなかった。


 《なんでこいつら、こんなに白銀の夜眼に固執してんだ……?》


 アクトには、それが不思議だった。確かにジアドが珍しい夜眼であることに間違いはない。

 しかし、一大ファミリーのボスがたった一人の夜眼のために、こんな僻地である最下層まで来る理由が分からない。


 「ドルダートさんよお。そんなに白銀の夜眼が恋しいのかあ?白銀の雌にでもフラれたかよ?ああ?」


 「貴様……死にたいのか……?」


 ルシウスの挑発的な態度に、ブレンダが刀の柄に手を添える。

 ルシウスはそれを楽しむように、ニヤニヤと笑みを浮かべながらブレンダを睨みつけた。


 「ぬははは。ブレンダ、落ち着けえ。

  ったく、相変わらず生意気な面しやがるなあ、ルシウス。」


 ブレンダを諌めたドルダートは、おもむろにズボンの裾を捲り上げる。

 そこから現れたのは、鉄の足──彼は膝上あたりから下の部分が義足になっていた。


 「未登録の夜眼を取引してる最中に、突然現れた夜眼に足を吹っ飛ばされてなあ……それが白銀の夜眼だった……

  まあ、本人かどうかは分からねえが、白銀の夜眼が見つかったら全部ぐちゃぐちゃにしてやるって決めてんだよ。ぬはははは。」


 「そうです。ドルダート様の足を奪った白銀の夜眼……斬り刻まねば気が済みません。」


 ドルダートは笑みを浮かべながらも、そこには底知れぬ憤りが滲む。そして同じく、ブレンダも苛立ちを露わにした。

 そんなドルダートとブレンダを嘲笑うようにルシウスが告げる。


 「はっは!ドルダートさんともあろう者が、夜眼一人に足吹っ飛ばされたってかあ?

  まあ、あんたらにリベンジできるかは知らねえが、お望み通りご対面させてやるよー。」


 そう言ったルシウスは、周囲にいる部下の黒服たちへ指示を出す。

 すると彼らに呼ばれ、倉庫の奥からジアドがゆっくりと姿を現した。


 揺れる白銀の毛並み──

 それを見た瞬間、ドルダートは大きく顔を歪ませて不気味に口角を上げた。


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