第26話 新人類……?
ジアドと対面した瞬間、ドルダートの顔にはみるみる血管が浮き上がった。
まるで肉親の仇でも見つけたかのようにジアドを睨みつけ、嬉々とした表情を浮かべながらも狂気に満ちた恐ろしい気配を放っていた。
そして同じく顔を歪めたブレンダ。
その青い瞳を血走らせながら、刀の柄を固く握りしめる。
「なんだ、二人して清々しい殺気を向けおって。
そんなに死に急ぎたいなら、二人まとめて相手をしてやるぞ。」
そんな二人の姿を見てもジアドはブレない。
相変わらずの不遜な態度で、ドルダートとブレンダに冷たい視線を向けていた。人間でありながら自分よりも大きなドルダートを前にしても、一切動揺する気配はない。
ドルダートの異質な威容に負けず劣らず、やはり獣人らしいジアドの身体つきは、人間とは一線を画す唯一無二の威圧感を放っていた。
「いいねえ!まさに白銀の夜眼だなあ!!顔も俺の足を飛ばした奴に似てるんじゃねえか?
なあ、俺はそいつの腕をぶっちぎってやったんだけどよお。てめえ、心当たりねえか?ああ?」
その言葉を聞いた瞬間、ジアドの耳がピクリと反応した。
先ほどまで余裕を見せていたジアドの眉間に、微かな皺が刻まれていく。
「貴様だったか……」
ジアドが低く、重い声で呟いた。
その大きな拳を固く握り込み、金色の瞳に鋭い眼光を宿す。
「我は夜眼の王。貴様が腕を奪った相手は我が父にして先先代の王。
この機会に感謝しよう……我らが抱えるその遺恨、ここで我が精算してやろう。」
そこには深い怒りと、障害となる目の前の敵を討つという冷静さが同居していた。
同時に、それを聞いたマーガレットもまた、怒りを露わにして顔を歪める。
「てめえか……ガイアスさんの腕を奪いやがったのは……!!」
マーガレットにとって恩人であり、ある意味では親にも似た存在のガイアス。
暗闇を切り開くその腕と、王としての立場を奪った相手を目の前にして、マーガレットの胸には激しい憎しみが込み上げた。
その瞬間──
微かに地を擦る足音が、マーガレットの耳に届く。直後、彼の死角から鋭い夜眼の爪が飛び込んだ。
だが、冷静さを欠いたかに見えたマーガレットはなんなくそれを叩き落とし、そのまま長い腕で目の端に捉えた影に裏拳を打ち込む。
しかし、その影はマーガレットの拳をすぐさま躱し、間合いの外へと飛び退いた。
「ええ……今、絶対殺ったと思ったのに……」
そこには、小柄な夜眼の少年の姿があった。
小柄ながらに引き締まったその肉体は、さすがは夜眼といえる。
赤茶の髪を揺らす夜眼の少年は、がっかりした様子でマーガレットを見つめていた。
「バレバレなんだよ、クソガキぃ……
クズ人間の味方するってんなら、夜眼でも容赦しねえぞ、ゴミクズがあッ!!」
マーガレットは怒号を飛ばし、少年めがけて飛び込んだ。一切無駄のないステップを踏み、瞬時に少年との間合いを詰める。
的確に急所を突く打撃と、爪による斬撃。繰り出される鋭い攻撃だが、少年は慌てながらもそれらを巧みに躱していく。
「うお!なっ!おお!?なんっだよ!ただの変態じゃねえの!?」
その野生的な動きは、まさしく夜眼のそれだった。
洗練された動きとは違い、掴みにくいその動きに、マーガレットの攻撃はなかなか当たらない。
「ぬははは!テスタの野郎、勝手に始めやがって!
じゃあ、こっちも始めちまうかあ!!どうやら取引するつもりは端からないようだしなあ!?」
「はっは!その通りだあ……ここで死んどけや!老いぼれがあああッ!!」
ルシウスは不敵な笑みとともに叫ぶ。すると次の瞬間、すぐさまブレンダがルシウスへと斬りかかった。
だがその時、ルシウスに迫る刃を間に入ったベルがナイフで受け止め、ギリギリと火花を散らしながら二人は互いに睨み合う。
「退きなさい、ベル嬢!!
あなたを愛でるのはこの無礼者を斬り刻んでからです!!!」
「あたしは女はいらねえって言ってんだろ?
てめえは大人しくベッドで一人遊びでもしてなあ!?」
顔を歪めながら、狂気じみた笑みを浮かべたベル。そのまま身体に力を込めると、全身に血管が浮き上がるほど筋肉が膨張していく。
身体に流れる夜眼の血によって増強された腕力は、ブレンダの身体を易々と弾き飛ばした。
「ちぃッ!馬鹿力めッ!!」
身体を翻して着地したブレンダは、再び刀を構え直す。深く息を吐いた彼女は神経を研ぎ澄まし、鋭く、冷ややかな殺意を刀身に纏わせた。
唯ならぬ空気──ビリビリと差し迫るその気配に、ベルは珍しく額に汗を滲ませた。
「ははは!いいねえ!それでこそ殺りがいがあるってもんだ!!」
ベルはそう言って楽しげに笑うと、再びブレンダの懐へと飛び込んだ。
ブレンダは巧みにベルの力を逃して躱し、隙をうかがって刃を振り下ろす。
ベルも切先を紙一重で躱し、腕を覆う籠手で刃を受けつつ、何発も重い打撃を打ち込んでいく。
「どいつもこいつも俺たちを差し置いてお楽しみだなあ!俺たちもさっさと始めようぜえ?なあ!?」
そう言ってドルダートは地を蹴った。
その巨体からは想像もつかない身のこなしで、瞬く間にジアドの懐へと滑り込む。
「むっ!?」
思わずジアドは目を見開いた──
迫る大きな拳を両腕を重ねて受け止めるが、その衝撃で、あのジアドの身体が後ずさった。
巨体を極限まで低くして繰り出される一撃は、並の夜眼では耐えられそうもない。
「その力……ただの人間とは思えんな。」
重ねた腕の隙間から、ジアドがドルダートを睨みつける。
するとドルダートは不敵な笑みを浮かべ、懐から見慣れた薬を取り出した。
それはアンスロドープ──だが、通常のものより赤みが強い。
恐らく亜人の血の濃度が高く、効果が数倍に高められた危険な代物だった。
「俺ぁ、生まれつき身体が丈夫でよお……カスどもがぶっ壊れる薬も耐えちまうし、時間が経てばスッキリ全部排出されちまうんだ。
いちいち危険を犯してまで血を取り込む必要がねえのさ!俺こそが新人類……てめえらの血なんざ、ただの消耗品に過ぎねえんだよおおおッ!ぬははははッ!」
高笑いを浮かべるドルダート──
不気味な笑みを浮かべながら、手にした注射器を自身の首へと突き刺した。
薬液が体内へ流れ込み、ドルダートの瞳が金色に染まる。ただでさえ大きなその身体は、徐々に筋肉が膨張し始めた。
盛り上がった筋肉が服を押し上げ、その巨体から放たれる威圧感は、先ほどまでとは比べものにならない。
そこにいるのは、もはや人とは言い難い。
人智を超えた生物。それこそが、自らを「新人類」と称するドルダートの姿だった。




