↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/29

第16話 裏のボス

 姿勢を戻したマーガレットは、あからさまに不快さを滲ませた視線でアクトを見下ろした。

 細い手足をしていても、しっかりと引き締まった筋肉を纏っているのが分かり、思わずアクトは息を呑む。


 「兄貴っつうから楽しみにしてたのに……

  てめえ、人間じゃねえか。ああ?私はな、人間が大っ嫌いなんだ。

  なんで人間のてめえがリーリアみたいなイイ女囲ってんだ?金積んだか?ああ!?」


 ものすごい迫力で詰め寄るマーガレットは、その圧力だけならジアド以上にも思えた。

 張り詰めた棘のような空気がアクトの肌に突き刺さる。


 「マーガレットさん、違うよ!?

  アクト兄は、小さい頃から一緒なの!確かに人間だけど、ずっと私を守ってくれてたの!」


 「人間が夜眼を守るだって?使い潰すことしか考えてないこいつらが?」


 必死になってアクトの前に割って入るリーリア。

 だが、マーガレットは戸惑いを見せつつも、アクトへの眼光を緩めることはなかった。


 「お、俺はガキの頃にリーリアを任されたんだ!

  誰になんて言われようが、こいつは俺の妹だ!!」


 鬼のような形相で凄むマーガレットに、拳を震わせながらもアクトは引かなかった。そのままリーリアの肩に手を添え、再びマーガレットの前に立ち塞がる。

 すると、マーガレットはアクトの顔を覗き込み、重く、身体に響く声で言い放つ。


 「じゃあ、今ここで目玉一つよこしな。

  大事な家族のためなら構わねえだろ?一つ残ってりゃ女一人くらい守れるはずだ。」


 「えっ!?」


 リーリアは驚きのあまり声を上げた。すぐさまアクトを庇おうとするリーリア。

 だが、アクトは自ら彼女を手で制し、マーガレットをまっすぐ睨みつけて言葉を返した。


 「……わかった。ただ、こいつが本当の自由を手に入れるまでは待ってくれ。

  万が一、道中で残った目まで潰れちまったらそれこそリーリアを守れねえ。」


 マーガレットはきょとんとした顔を浮かべ、そのまま静かに俯いた。

 やがて肩を細かく震わせ始めると、大きな声を上げてアクトを笑い飛ばした。


 「くく……あーははははは!!夜眼のために目をくり抜かれてもいいなんて……

  とんだおバカさんじゃないのよお!んもおーさいっこう!あなた、気に入ったわーん。」


 アクトはマーガレットの変容についていけず、眉間に皺を寄せて固まっていた。

 隣にいたリーリアは、胃に穴が開きそうなほどの緊張から解放され、そっと胸を撫で下ろす。


 「な、なんだよ。まさか……俺を試しやがったのか!?」


 アクトが怒りを滲ませて身を乗り出すと、マーガレットは腕を組み、アクトを見下ろしながら鼻息を鳴らして言った。


 「ふんっ!試す……とはちょっと違うわーん。

  気に入らなかったらほんとにくり抜くつもりだったのよお?でも、あなたはご・お・か・く・よ。うふふふ。」


 そう言ってウィンクするマーガレットに、アクトは若干青ざめつつ後ずさった。

 アクトのあからさまな態度に、溜め息をついたマーガレットは改めて名を名乗る。


 「やだあん。そんな顔されたら傷ついちゃうじゃなーい。んもぉ!

  まあいいわ。私の名前は、マーガレット・ドミナーよお。よろしくねーん。」


 「はっ!?ドミナーって、あの……!?」


 アクトが驚くのも無理はない──

 “ドミナー”といえば、唯一、夜眼でありながらルシウスと対等に話をできる歓楽街のボス。

 ドミナーの機嫌を損ねれば、この辺りの酒場も娼館も、ただの買い物ですら門前払いされると言われている。

 そもそも彼自身の戦闘能力が高く、また夜眼たちの心を鷲掴みにする彼には、ルシウスも迂闊に手を出せないほどだった。


 「まあ、ルシウスちゃんにはさすがに私も手を出せないけどー。

  向こうも私の縄張りでは、下手な真似はしないから安心しておきなさーい。」


 まさかの出会いに跳ねる胸が落ち着かないアクトだったが、次々と舞い込む衝撃の連続に混乱する頭を抱えるしかなかった。


 《ジアドといいベルといい……

  しかも今度はドミナーだって……?まじでどうなってんだよ……》


 そのまま額を押さえて俯くアクトに、リーリアが駆け寄った。彼女はアクトの顔を覗き込むと、ふわりとした笑顔で声をかけた。


 「ふふ。なんだか、今までの暮らしが信じられないね。

  でも、怖いこともあったけど……私今、すっごく楽しいよ!」


 その笑顔を見たアクトは胸が軽くなるのを感じた。

 今までは笑っていてもどこか遠慮がちだったリーリアが、満面の笑みを浮かべる様子にアクトも自然と微笑んだ。


 「……話は済んだか?」


 黙って聞いていたジアドが、痺れを切らして三人に声をかけた。彼の存在を忘れていたかのようにマーガレットが声を上げる。


 「やだ!忘れてたわーん。ごめんなさーい?

  とりあえず、ここの奥がうちの店の地下室に繋がってるから、ゆっくりお茶でもしながらお話ししましょー。」


 そう言って、マーガレットはカツカツとヒールの音を響かせて奥へと歩き去った。

 深い溜め息を漏らしたジアドも、ドカドカと重い足音で後をついていく。顔を見合わせたアクトとリーリアは、互いの手を取り合って彼らの後へ続いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。