第13話 最強の出会い
ベルから語られる裏世界の事情に、アクトは好奇心と畏怖が入り混じった不思議な感覚に襲われていた。
恐らく、これを聞き終えたらもう後戻りはできない。今までのような、虚しくも普通の暮らしはできないだろう。
《上層を目指すだけのはずが、とんでもねえことになっちまったな……》
そんな想いがアクトの胸に広がる中、ベルがゆっくりと口を開いた。
「お前も、天蓋層を除く各層に代表となるファミリーがいるのは知ってるな?」
「あ、ああ……」
アクトは深く頷いた。地下世界に生きている奴なら誰でも知っている話だ。
それどころか、人によっては各層を仕切る彼らを“層王”と呼び、英雄視している者までいる。エゲツないことをやっている裏で、ある意味では小さい犯罪の抑止力になっているなんて皮肉な話だ。
「我も、その程度は知っている。」
腕を組み、ジアドも頷いた。
地表から来たという割には、地下世界の事情も多少は知っているらしい。
「あたしたちを含む、その四大ファミリーは互いに牽制しあってる訳だが……
親父が居なくなれば、とりあえず下層のクズどもが最下層に手を出すかもしれない。そうなったら、お前でもわかるだろ?」
「リーリアが危ない……!」
アクトは焦った様子で声を上げた。
ベルはアクトを見据えて頷き、話を続ける。
「そうだ。それに、下層は仕事が多い割にここより人間は少ない。
その分、夜眼はさらに使い潰される。ここは、人間も夜眼並みに働かされる分、意外と彼らの負担は少ないのさ。」
ベルが語る地下世界の事情は、アクトにとって初めて聞く内容だった。
自分は数年前に中流層から逃げてきたが、幼かったうえにリーリアを隠すのに必死で、そんなことを気にする余裕がなかった。
「つまり、最下層の夜眼を守るためにも……
ルシウスのような男でさえ、今は必要という訳か。」
ジアドの言葉にベルは頷いた。
ベルが夜眼を好きだと言った言葉は本当らしい。
恋人を殺され、実の父親から人体実験をされた絶望も恨みも全て呑み込んで、彼らを守ろうとしているのが分かる。
「それで、ベルはこの先どうしたいのだ?
我らはどちらにしろ、上層を目指さねばならん。
お前たちが、ここでの暮らしを保証してくれるのはありがたいがな。」
「俺も……ジアドについて行くって決めてんだ。
リーリアに……本当の自由を味わせてやりたい!」
ジアドの言葉に続き、アクトも深く頷いて力強く告げた。
それを見たベルは不敵な笑みを浮かべ、どこか好奇心に溢れた声でジアドに問いかける。
「ジアドはなんで上を目指すんだ?
それは、セントラルを潰すためでもあるんだろ?」
ベルはジアドがどこから来たか気づいている。
いや、知っていると言うべきか。恐らくは、ザストに地表のことをある程度聞いていたんだろう。
「ああ。我は、地表にある夜の国の王だ。
そこに暮らす夜眼たちの、未来を守らねばならん。」
「やっぱりな!ザストの話は本当だったんだな!
そこで相談なんだが、あたしも連れて行ってくれないか?」
「え!?」
突然のベルの申し出に、アクトは声をひきつらせ、さすがのジアドも目を見開いていた。
そんな二人の反応を見たベルは、どこか楽しげに話を続ける。
「はは!良い反応をしてくれるじゃないか。あたしは名前を売らなきゃいけない……
親父を始末しても他の奴らがあたしたちに手出しできないようにな。
だから、あんたたちについて行って、まずは下層を仕切ってる“ブラドファミリー”を潰す。」
さも当たり前のようにとんでもないことを言ってのけるベルに、ジアドは大きく声を上げて笑った。
アクトも苦笑しながら、呆れたように深く息を吐いた。だが、ベルなら現実にやってしまいそうだと思う自分もいた。
「はははは。やはり面白い女だ。いいだろう。
どうせ、地表に戻るには中流層まで行かねばならん。ひとまずそれまでは共闘してやろう。」
「ああ。よろしく頼む!」
ベルは立ち上がり、ジアドに歩み寄ると大きな手を差し出した。
同じく立ち上がったジアドも、不敵な笑みを浮かべながらその手を強く握る。
「はは。マジかよ……
やべえ奴らが出会っちまった……!」
二人が放つ迫力は、何者も寄せ付けない怖さと、誰よりも頼もしい強さを漂わせる。アクトは胸が震え、熱が込み上げるのを感じていた。
それはただの成り行きかもしれない。それでも、リーリアを無事に地表へ連れ出すため、ベルという心強い味方ができたことをアクトは素直に喜んだ。
そして──
この出来事は、この先地下世界を大きく揺るがす、二人の“最強”が出会った瞬間だった。




