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7つ星  作者: 水嶋


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新しい出会い

遠くに見える茶色いビルをぼんやり眺めていた。

あれから半年近く経っていた。


あのビルは佳奈ちゃんが飛び降りたビルらしい。


眺めながら佳奈ちゃんのお母さんとしたやり取りを思い出していた。



俺はあの後仕事を辞めた。

あの場所は佳奈ちゃんとの思い出が多すぎて現実を見たく無くて逃げ出したのかも知れない。


今は会社の社員食堂で働いている。


現実を見たくない癖に佳奈ちゃんの最後の場所の近くの会社で働いている。

見たく無いけど忘れたい訳では無い。

未練がましいと思う。


仕事帰りに立ち止まってタバコを吸って眺めていた。

佳奈ちゃんから託されたジッポーは一度も触れていない。それでもいつも持ち歩いている。


思えばあのジッポーで出会った。



「ふふふ。このオイルの匂いが好きなの」


「なんだ、結構歳近いね!じゃあ私は佳奈で良いよ!じゃあまたね!タムさんも若いのにセッターは渋いからね!」



ふと佳奈ちゃんとのやり取りを思い出すと涙が滲んでくる。

俺はこんな泣き上戸だったんだなあ。

身近な人が死ぬ経験が無かったので相当ショックだったんだろう。



「ここでタバコ吸ったらダメだよ!」


ガキンチョに注意された。


「ゴメンなあ。携帯灰皿は持ってるから…ポイ捨てはしないよ」


そう言って素直にタバコを消した。


「なんだ、オジサン泣いてるの?」


「煙が目に入ったんだよ。まだオジサンじゃねえよ。25だ、ガキンチョ。」


「ガキンチョじゃねーよ。明日花だ。14だ。」


「何だチューボーかよ。俺は…勇気だ。」


タムさん…は佳奈ちゃんにだけ呼ばれたかったので下の名前を教えた。


「なんだよ。ユーキなんて強そうな名前の癖に泣いてんのか。」


「お前は明日かって希望のある名前で口悪いな」


「仕方ねーなー。コレやるから元気出せ」


そう言って卓球のピンポン玉を渡された。

星のマークがついていた。


「なんだこれは?ピンポンか?」


「そう。これでこの間の試合に勝った縁起物だ。お守りにしてたけど貸してやる。良い事あるぞ。」


「そうか…何か知らんがありがとな」


「私はあそこの卓球道場でやってるから。良い事あったら返しに来な。」


遠くに見えてる建物を指差した。

そう言ってガキンチョ明日花は去って行った。


卓球なあ…

暫くやってねえなあと思っていた。




「ユウくん!今日は月一回の大事な定例議会だからね!絶対参加よ」


「ハイハイ。」


「じゃあ18:00にいつものトコね!」


「はーい。」



ここでも下の名前で呼んでもらっている。

今の職場はまあ、皆様年齢層が高い。

俺が一番年下で、後は40代後半〜50代と俺の親世代だ。


居酒屋とか飲食店とかで佳奈ちゃん位の年齢のいる子がバイトしてそうな所は辛いので避けた。

名前負けした弱虫だなあってつくづく思う。


料理長の中原さんは50代、後パートのおばちゃんの倉田さんも50代で野原さんは40代だ。

この人数でやっている。

今まで大人数だったので落ち着いている


が…




「ほてるでーあってほてるでわかれーわたしぃーみちゃったのぉぉーあなたのいえのーにちようびぃぃーー」


「ホント倉ちゃん好きよねえ不倫ソング」



大事な定例議会…とは


月一回のスナックで飲み会だ。


正直スナックなんてここで働くまで来た事無かった。


あの家の扉みたいな扉を開ける勇気も無かった。

いざ連れられてくると…

何とも居心地よくて成る程、おじさまおばさまのオアシスだと良く分かった。


俺も今ではいいちこをボトルキープしている。


そして倉ちゃんこと倉田さんはカラオケで不倫ソングを毎回歌う。

何かあったのかな?


大体ママがツッコミ入れてる。

ママは声がガラガラで酒焼けしていてもう、男か女か分からないが格好は女だ。


俺がチビチビ飲んでると料理長の中原さんが話しかけてくれる。


「ユウくん、仕事慣れた?」


「はい。皆さん優しくてありがたいです。」


「この世代は飲みにケーションだからなあ。若い子はうざったいかなあ?」


「いえいえ、楽しいですよ!」


事実そうだ。1人でいるとつい落ち込んでしまうから正直誘って貰ってありがたい。



リサイタルが終わった倉ちゃんが絡んできた。


「こらー!ユウくん!私と不倫するかあー?」


「しませんよ。倉ちゃんも今独身でしょうが」


「うわぁーん!」


泣き出した…

かなり酔っ払ってる…

中原さんが慰めてる…

野原さんが苦笑いしてる…





でもこんな馬鹿騒ぎが心地よかった。


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