受け入れられない
「タムさん…ですか?」
「はい…」
「すみません…お名前が分からなくて…」
「はい…田村と申します…」
「佳奈が飛び降り自殺したと…持っていた身分証で私に警察から連絡が来まして…」
「はい…」
「警察の現場検証から…自殺と断定されまして…」
「はい…」
「損傷が…激しかったので…葬儀の前に火葬いたしました…」
「はい…」
「遺書もなくて…何があったのか…なんでこんな事をしたのか分からなくて…」
「はい…」
「スマホのロックは遺族でも解除して貰えなくて…」
「はい…」
「業者に…頼んだら…最後のやり取りがあなたの名前だったので…何か分からないかご連絡させて頂きました…」
「はい…」
「もし…宜しければ…お会いしてお話し出来ませんか?」
「はい…」
「では、日時と場所は…」
「はい…」
とりあえずお母さんに会う事にした。
数日後、喫茶店で待ち合わせた。
「こんにちは、佳奈の母です。お呼び立てしてすみません。 」
「俺はお付き合いさせて頂いていた田村と申します…」
「早速で申し訳ありませんが、佳奈の事で…何か悩んでいたとか、トラブルがあったとか…わかる事が有ればお話し聞かせてくれますか?」
「佳奈ちゃんは夢に向かって頑張ってました。いつも明るくて前向きで、自殺なんて絶対する子じゃない…と思うんですが…」
「?」
「最後に会った日に…佳奈ちゃんに呼び出されて…変だったんです…」
「変?」
「はい…俺が佳奈ちゃんを嫌いになっても、佳奈ちゃんは俺が好きだって言われて…意味が分からなくて…」
「別れ話が出てたとかですか?」
「いいえ。絶対有りません。仲良くさせて貰ってました。」
「そうですか…」
「その前に…ちょっと問題があって」
「?」
「バイト先の先輩に80万借りたから仕事紹介してもらってて、俺と最後に会った前の日の夜にそのバイトに出掛けてたんです。」
「何ですか!?それ!?80万!?バイト!?」
「俺は何回もやめてって止めました。金も俺が何とかするって言ったのに…聞かずに行ってしまいました。その次の日が俺と会話した最後です…」
「何でそんな借金なんか…」
「そのバイトを紹介した先輩に自己啓発セミナーに誘われて受講料だったらしいですが…」
「自己啓発!?…そんな事してたなんて全然知らなかった…」
「確か佳奈ちゃんの部屋に分厚い本があった記憶あります…タイトルとか難しくて覚えて無いですが」
「分かりました。佳奈の部屋の解約前に何かあるか調べます。」
「俺もその先輩ってのが誰か探してみます。俺も佳奈ちゃんも同じテーマパークで働いてるんで」
「分かりました。お願いします。それではまた後日お会い出来ますか?」
「はい。宜しくお願いします」
そう言って後日待ち合わせをした。
同じ職場…ではあるが、少々特殊で他部署の人伝てが俺にはない。
と言うのも、巨大テーマパークで全体を引っくるめれば2万人となる。
ちょっとした地方都市の人口レベルだ。
おまけに佳奈ちゃんは表舞台、俺は裏方のキッチンでその中でも更に特殊で、各料理の店舗で使う料理の元…ソース類や仕上げる前のサラダやらスープやら下拵えまでした物やら…各店舗に発注されて作るセントラルキッチンなので、特に交流はキッチンの一部のキャストとしか関わらない。
どうしたものか…と思っていたが、確か同僚にショップキャストの子と付き合ってる奴がいたので、何とかお願いして清掃キャストのリーダーに紹介して貰えた。
「お忙しい中、すみません。俺は田村と言います。前に清掃やってて確かポップコーン売り場に移動になった、鈴木佳奈さんって分かりますか?」
「私は野田と申します。はい、覚えています。元気で明るい子でした。噂で聞いたんですが亡くなったと…」
「はい…俺は鈴木さんと付き合ってたんですが…その気になる事がありまして…」
「何でしょう?」
「鈴木さんと仲良くしてた先輩って誰だか分かりませんか?」
「うーん…鈴木さんは…誰とでも仲良くて…特定が難しいですが…」
「そうですか…」
「ただ…気になる人が…」
「えっ!?どんな人ですか!?」
「鈴木さんが入って来る確か1ヶ月か2ヶ月前位に入って来て、鈴木さんが失踪した日に辞めた人がいて…」
「誰ですか!?」
「菅野志帆さんって女の方です。確か年も23歳だったかと…」
「そうですか!有難う御座います!」
かなり有力な情報が手に入ったと思った。
後日、佳奈ちゃんのお母さんと待ち合わせした日に、先に俺が知った先日の情報を伝えた。
「最初はあなたを疑ってました…ごめんなさい…」
「…」
「でも…あなたに会って…佳奈を本当に好きでいてくれたって分かって…本当にごめんなさい…」
「最後の連絡が俺じゃ仕方ないですよね…」
「佳奈の部屋に行ったんです。聞いていた本どころか…ほぼ目ぼしいものが何もなくて…生活してた感じが無いって言うか…」
「そんなバカな!」
佳奈ちゃんの部屋には何度か行ったけど結構物は色々あった筈だ
「もしかして…死ぬ覚悟で処分したとか…」
「うそだ!」
「スマホのやり取りも…あなたとのやり取り以外消されてて…」
「そんな!」
「もしかして…辛い事があって…あなたとの思い出だけ残したかったのかと…」
「そんな…」
「家に…お線香あげに来ますか?」
「佳奈ちゃんが…居なくなったって…思いたく無い…見たくない…いやだ…行きたくない…いやだ…」
「分かりました…」
俺は知らない内に涙が流れていた…




