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 私は、息を切らしながら走った。


 全然間に合う時間に家を出たつもりだったのだけれど、気がつけば遅刻目前。自分の計画性を疑ってしまう。


 スカートの中身が見えそうでも私は気にしなかった。


 とにかく、今は学校である。学校に遅刻してしまっては意味がない。なんだかんだ、そういうところは私は真面目だ。ルールは破るためにあるのではない。守るためにあるのだ。


 


 私は、野生の豹の如く通学路を駆け抜け、下駄箱の前でゴリラのように豪快に外履きを脱ぎ捨てて上履きを履き、カモシカのように軽やかに階段を上って教室に向かった。


 勢いよく教室の扉をあけると、ホームルームはまだ始まっていなかった。


 私は、ホッと安堵した。大きく息を吸って、走って乱れた呼吸を整えた。


「おはよう。今日はだいぶ遅かったじゃないの。寝坊でもした?」


 となりの席に座る親友の友梨が話しかけてきた。


「ううん、そんなんじゃなくて。ちょっと朝、寄り道をしてたら……こんな一大事に」


 私は、ボサボサになった髪の毛を手早く直した。年頃の女の子が、ボサボサの髪で異性の前に立つわけにはいかないのだ。


「ふーん。イケメンでもいたのかしら?でも、本当遅刻しなくてよかったね。担任の折原は遅刻についてうるさいし」


「本当だよー」


 私たちの朝のくだらない会話は始まった途端、先生がこない限り永遠と続くように思う。


 途切れることのない、くだらない会話は、年を取っても変わらず友梨としているのだろうか。こればっかりは、変わりたくないなと思った。私の性格的に、静かな空気は嫌いだ。


 

 私は、今朝のニュースの話を友梨にふった。神隠しの話である。


「そういえば、そんな話あったね。神隠し?今時そんなのありえないでしょ」


 右手を左右に振って、彼女は否定した。


「でも、いろいろ消えてるみたいだよ?公園のベンチとか、誰かの車とか。不思議だよね」

 

「確か、まだ人は消えてないんだけっか」


「そうそう」


 この事件の面白いところは、物が消えているところだ。(もしかしたら、野良猫とか小動物は消えているのかもしれない。ただ、消えていても元々野良だから、どこかへ行ってしまっただけなのかもしれない)

 

 消失事件ともいえるが、単なる窃盗事件かもしれない。でも、テレビや新聞の報道では【神隠し】とか【消失】とか言って面白がっていた。

 

 私は、友梨と話をしていて気がつかなかったが、教室の時計を見ると既に9時を回っていた。


「先生、遅くない?いくらなんでもさ」


 友梨は、腕を組んで私のほうを見た。


「確かに……遅いかもね」


「もしかして、先生も神隠しにあったんじゃないの?」


 友梨は、少しだけ神妙な顔をして言った。話の流れや世間の話題からすればなんとなく予想ができてしまうから恐ろしい。


 人は、神隠しにあわないのという報道を間に受けていたせいか油断しきっていたのだけれど、確かに人が神隠しにあう可能性はゼロではない。どうして私は忘れていたのだろう。テレビのコメンテーターや、キャスターが「絶対に大丈夫です」という【絶対】ほど信頼できないということを。


 クラスメイトの一人が、先生があまりに来ないもんだからと職員室に向かっていった。

 

 それでも、授業が始まらないのであれば、このままでも良いと思っている生徒も多数居た。ちなみに、私は多数派でり始まらなくてもいいじゃないか説を唱える人物であった。


 友梨はスマートフォンをいじり始めた。アプリを起動させて、SNSに投稿された写真を見始めた。


 私は、教室をぐるっと見回した。


 混乱しているようにも見えるし、楽しそうにしているようにも見える。


 狂気と混沌。かっこよく言えばそんな感じ、とヘンテコなタイトルをつけてみた。


 しばらくして、職員室に駆けて行ったクラスメイトが戻ってきて、黒板の前に立ちチョークを握った。


 右腕を上げて、チョークを黒板に押し付ける。


 そして、すらすらと文字を書き始めた。


「本日、先生不在のため、1限目は休講」


 達筆な字が黒板に書かれた瞬間、やはり混乱しているのか、それとも喜んでいるのか。どちらとも取れない声が教室中で発せられていた。


 私は、なんとなく怖くなって、ぎゅっと拳を握りしめていた。

 

 

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