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 僕は、店内にかけられていた時計を見た。10時というなんとも微妙な時間であった。まぁ、お家に帰ったとしても僕はやることはないのだけれど。


「じゃあ、一杯だけ」


 僕は、流れに身を任せて返事をした。

 

「了解です」


 男の人は、笑顔で返事をして奥の方へと消えていった。たぶん、コーヒーを入れる容器でも取りに行ったのだろう。


 僕は改めてコーヒーマシンを見返す。どこからどう見ても家電量販店で売っているコーヒーマシンである。


 市販の専用のコーヒー豆を買ってきてセットし、専用のタンクに水を注いでボタンを押せば10秒と経たず完成するやつだった気がする。そんなものに100円も払うとは、僕は熱を通り越して少し頭がおかしくなったのかもしれない。


 しばらくして、店主は真っ白いマグカップを持って現れた。


 そして、コーヒーマシンにセットし、ボタンを押した。マシンは大きな機械音を発した後、熱いコーヒーを真っ白いマグカップへと注いで行った。


「おまちどうさま」


 店主は、明るい茶色の木でできたカウンターに白いマグカップを置いた。マグカップからは、綺麗な湯気が出ていて、なかなか美味しそうであった。このカウンターと白いマグカップの相性は抜群だと思った。


 僕は、100円を財布から取り出して渡した。店主は、小さな声で「ありがとうございます」と言って受け取った。


「君、名前は?」


 店主は自分の分も作ろうと、マグカップをコーヒーマシンにセットしながら僕に質問をしてきた。


「並木です」


「並木さん」


 店主は、僕の目を見ながら名前を復唱した。


「はい」


 店主は、マグカップに注がれたコーヒーを持って僕が立っているカウンターの方にやってきた。


「あぁ、ごめんごめん。立ち話もなんだから座ろうか。ほら左側に机と椅子を置いてあるでしょ」


 僕は、本棚とは逆側に体を向け、机があることを確認した。


「なんか、すいません」



 僕らは、座って話をし始めた。僕がどんな仕事をしているとか、どうしてその職についたなど。よくある会話だ。


「そういえば、どうして僕が風邪をひいているとは思わなかったですか。別に病気の原因が風邪とは言ってないですけど」


「なんとなくだよ。風邪って言ってれば、7割くらいは当たるもんさ」


 店主は、コーヒーをすすった。


「君こそ、どうしたんだい?風邪をひいてもいないのに、風邪をひいたふりをして会社を休んだりなんかして。わたしからしたら結構考えられないけどね」


 店主は、不思議そうな顔で僕に質問をした。


「本当に風邪をひいていると思ってたんですよ。熱だってあったし。医者も風邪かなと言ってたし。別に仮病を使ったつもりはありませんよ」


「ひょっとして、仕事がいやなんじゃないの?」


 店主は少しにやけた。


「そ、そんなんじゃないですよ」


 僕は、両膝に手を置いて小さく丸まった。

 

 なんだか、取り調べを受けているような感覚に陥った。


 小さいお店の隅っこ。コンクリートで塗り固められた灰色の床に、白い壁。取調室の一室にも見えなくはないと思った。


「まぁ、仕事は辛いよね。でも、仕事が辛いことの要因の8割以上が人間関係だと僕は思う。学生時代に、気が合わない奴とかはもちろんいただろう?でも、会社の人と気が合わないっていうのはどうしてか雰囲気が違うんだよなぁ。みんな働くとどうしてあんなに変わってしまうんだろう。わたしは働くことがそんなに偉いなんて思わないけどなぁ。なんであんなに偉そうなんだろうね」


 店主は喋り終わると天井を見た。何か物思いにふけっているように見えた。


 僕の悩みは、遠からずそんな感じであった。人間関係。


「なんか、そういう経験があったんですか」


 僕は、鋭く質問をし返した。もしかしたらと思った。


「まぁ、いろいろね」

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