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僕は、次第に開かれていくドアをじっと見つめた。
そして、開かれたドアから一人の男性が店の中へ入ってきた。
片手には、本を数冊もっていた。パッと見た感じ背が結構高い。黒い細身のパンツに、白いシャツ。その上からグレーのセーターを着て黒いエプロンをしている。髪型は短めで、おしゃれなオールバックに丸く太い黒ぶちの眼鏡。
このお店の店主だろうか。どことなくそんな雰囲気を感じた。
そして、不意に僕のほうを彼は向いた。
僕は、驚いて体がぶるっと震えた。
「えっと……お客さん?」
彼は、本を持っていないほうの手で頭をぽりぽりと掻く動作をした。
「ええ……まぁ」
僕は、自信なさげに返事をする(一応客であろうという自負はある)。
僕の返事を聞いた男の人は、息をゆっくり吐いた。そして、持っていた本をカウンターに置いて僕の方を向く。
「いらっしゃいませ。ゆっくりしていて」
そう言うと、少し彼は笑った。そして、カウンターの奥へと入っていった。
僕は、一瞬の出来事に少々戸惑った。なんだか不思議な雰囲気の男の人だった。若いようにも見えるし、年老いたようにも見える。オールバックとは不思議な髪型だなぁと思った。
ゆっくりしていってよいと許可をもらった僕ではあるが、ゆっくりしようにもゆっくりする手段がないことに気がつく。
僕の目の前にある棚の本で読んでいないのは二つ。
読んだところで、3分と持たないと思う。
せっかく、店主が戻ってきたのであるならば、僕は話でもしたいと思った。
しかし、今の僕は病んでいる。薬で少しだけ元気になっているものの、基本的には病人である。あまり、長居をしてしまうと店主に風邪を移してしまうと思った。
だから、店主の言葉とは反対に僕は、そそくさと残りの2冊も読まないでこの場から立ち去ろう、そう思ったのだった。
僕は、出口に向かって歩いた。
そして、僕は出口の大きい木製のドアの取っ手を握って手前に引っ張ろうとした。
「あれ、もう帰っちゃうんですか」
カウンターの奥から、低い声が聞こえてきた。
「え」
僕は、カウンターの方を振り返る。店主は、黒い木製の椅子に腰掛けてノートのようなものに記録をつけている。
「いや、今日はちょっと体調が悪いので……すいません」
「本当に?君が風邪をひいているようとは、わたしには思えないのだけれど」
僕は、この人は何を言っているのだろうかと思った。朝起きた時も、病院に行く時も、なかなかの命懸けだった。
フラフラになりながらもなんとか薬をもらった。薬をもらってなんとか回復傾向にあるのだ。そんなにあの薬がすぐに効くはずはない。
僕は、恐る恐る額に手を当ててみた。
「あれ。全然熱くない」
深呼吸をして、呼吸を整えてみた。そして、冷静に考えてみた。
「たしかに、僕は風邪なんて引いていないのかもしれないです」
「だろ?わたしの言った通りだ。そうだ、コーヒーでも飲むかい?」
そう言って、彼は目の前の机に置いてあるバリスタマシーン(市販されているモデル)を指差した。
「1杯100円だけどね」




