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 家から出て、通学路を歩いていると少し息が苦しかった。


 しばらくして、げっぷが出た。すると楽になった。げっぷは、朝食べた目玉焼きの匂いが微かにした。


 川沿いをテクテクと私は歩いて行く。学生カバンは肩にかけて、膝上までのスカートをひらひらと揺らしながら。


 私は、学校に行く途中、奇妙なお店が、川を挟んで反対の場所にあることに気がついた。


 外観は大きなガラス張りで、中には明るい茶色の本棚が置いてある。


 これは、本屋だろうか。そして、そもそもこんなお店、昨日からあっただろうか。私は、毎日この道を通っている。もし、今日OPENとしても内装工事とかをしていたのではないだろうか。


 私は、おしゃれなものが大好きである。それも大人っぽいのが。可愛らしいおしゃれなものはたくさんある。同級生たちもたくさん可愛らしいペンケースを持っていたり、お洋服を着ていておしゃれだなぁとは思うことはある。

 

 でも、私は大人っぽいものを求めるのだ(じゃ、大人っぽさを説明してと言われても私は説明できないのだけれど)。


 私の【大人ぽいだろうセンサー】が、お店を見たときに反応していた。


 私としたことが、こんなお店を店を見逃していたとは!と心の底から残念に思った。


 入りたい。


 でも、学校がある。


 入りたい……。


 でも、学校が……ッ!


 私の心の葛藤で悶え苦しむ姿とは裏腹に時間だけが過ぎていった。過ぎていくといっても、たぶん1分くらいしか過ぎてはいないのだけれど。


 ただ、ここで大切なことに私は気付いた。


 朝の下校時刻にこのお店が開いているはずがないのではないだろうか。私は、カバンからスマホを取り出して時間を確認した。


【8時5分】


 開いているはずもなかろう、と私は呟いた。


 スマホの液晶画面から視線を、お店の方に向ける。


 すると、男の人が店内から重そうな木製のドアを開けて出てきた。


 私は、なぜだか隣にあった電柱の陰に慌てて身を潜めた。後ろめたいことなど一つもしていないのにである。


 男の人は、身長はそれなりに高そうだ。黒い細身のパンツに、白いシャツ。その上からグレーのセーターを着て黒いエプロンをしている。髪型は短めで、おしゃれなオールバックに丸く太い黒ぶちの眼鏡。


 私は、持っているスマホで写真を撮ろうかと思ったくらいかっこよかった。


 男の人は、片手に本を何冊か持って店の前を歩いて路地に入っていった。


 朝から、いいことづくめであるなぁと私は思った。


 電柱から、川の反対の男性を見つめる女子高生は、世間から見たらどう見えるのかしら。私は、変態にしか見えないと思った。


「わぁんわん!」


 大きな声で、私に向かって何かが吠えてきた。


 何かが吠えてきた、などというが、この時間帯に私に向かって吠えてくる逸材など、彼らしか居るまい。


 ふっさふさのポメラニアンが、私のことを嫉妬深く激しい表情で見つめる。


 どうやら、私が抱きかかえている電柱は、彼に取っても大事な存在だったようだ。


 ポメラニアンに繋がれたリードの先には、飼い主らしき人物が立っていた。そして、「ごめんなさいねぇ、こここの子の大好きな場所なの。驚かせてごめんねぇ」と軽い感じで私に話しかけてきた。

 

 私は「いえいえ、大丈夫です」と言って、そそくさとその場を立ち去った。


 ポメラニアンは、私が居なくなったことを確認すると、その短いしっぽを狂ったように左右に振りながら電柱に突撃していった。突撃をしてはご主人の方を振り返り、突撃をしてはご主人の方を振り返るという謎の行動を繰り返すのだった。


 私は、その姿を見て、早くどいてあげればよかったなぁと思うのであった。


 ポメラニアンと戯れていて、肝心のことを忘れていた。学校である。スマホの画面に表示される時計を見た。


 【8時25分】


 その場で、大きく叫んだ(ポメラニアンが、飛び上がって私の方を見たのは全く気がつかなかった)。

 私は、学生鞄を深く肩にかけて、勢い良くその場を飛び出したのだった。

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