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 結局僕は、会社を休んだ。


 警察の人がうまく言ってくれたのだろう。会社から電話はあったが「それは、大変な目にあったね」と深く内容を追求するようなことは言ってこなかった。


 あっさりと休めたもんだから、警察の人が余計なことを言ってなければいいのだが。


 休んだはいいものの、特にやることはなかった。


 交番から、そのまま歩いて自宅に帰ったし、自宅に帰ったところで、やることもないから、スーツから寝巻きに着替えてもう一寝入りした。


 お腹が空いて目がさめると、もう日が暮れる寸前だった。


 布団の中からなんとか這い出た。


 そして、背中を丸めながら、冷蔵庫に向かってとぼとぼと歩いた。


 冷蔵庫の中身は、驚くほど何もない。このまま大型家電量販店で店頭に並んでいてもおかしくないレベルである。綺麗に使っているとも言えるし、ズボラであるとも言える。


 しかたなく、僕は寝巻きの上にジャンパーを羽織って、サンダルで家を出た。


 


 日も暮れた駅前を僕は歩いていた。


 サンダルを引きずりながら歩いていたが、コンクリートにサンダルが擦れる音が、道路を走る車の音にかき消された。


 いつも、仕事帰りに行くコンビニを横切った。相変わらず今日も明るい。


 そういえば、この近くにまた新しいコンビニができるらしい。


 本当に最近のコンビニは高頻度で開業される。種を植えたら、ぽんぽんと生えてくる家庭菜園の野菜のようである。


 開業資金はそんなに安くはないはずだ。


 それにコンビニがそんなに儲かるとは思えない。よっぽど開業に関するセールストークが上手いのだろう。


 できてくれるのはありがたいが、周りのコンビニ同士が競い合って客を奪い合うのは心地のよいものではない(コンビニは差別化ができないから競争のしようがないし、最終的にはどっちのコンビニオーナーも泣くことになって、フランチャイザーが喜ぶだけである)。


 僕が一番開業したくないなと思う要因は、24時間休みのない生活が無理である。僕からしたら、そんなことは考えられない。


 

 歩いている横の大きな道に、複数台のパトカーが音を鳴らしながら通り過ぎる。


 そして、耳障りの悪い音の余韻が僕の耳の中に残った。


 僕の周りには警察官しかいないのだろうか。自然と両手が自分の頭の方へ行き、両手で髪の毛をかきむしった。



 

 コンビニから数百メートル先にあるスーパーに入った。


 今日は、スパゲッティでも買ってお家に帰ろうと入った瞬間に思いついた。


 僕のスーパーでの買い物はいつもこんな感じである。入った瞬間のインスピレーションに任せるのだ。



 

 セルフレジでお会計を済ませて、僕はスーパーを出た。


 僕は、少しだけ気持ちが高まっている。

 

 なぜならば、お刺身が少し安くなっていたからだ。


 いつも高くて買えないのだが、時間的にいいタイミングでお店に入れたようだった。


 鮮魚コーナーを歩いていると、白い鮮魚コーナーの制服を着た従業員の人が、ラベラーを片手に、中腰でお刺身のパックに半額シールを入っていた。


 そして、周りには、半額シールのついたお刺身パックを狙っている主婦のおばちゃんたちが群がっていた。


 僕は、その群れの中に潜り込み、スパイのごとくこっそりとお刺身パックをゲットしたのである。やりましたよ大佐。


 

 そんなルンルン気分で僕である。なんだかスキップをしたい気分であるともいえる。



 大通りから外れた小道に入った。


 大通りと比べて、やはり薄暗い。だから、この近隣は家賃が安いのかもしれないと毎回思う。


 


 僕は立ち止まった。目の前に人が立っているからである。


 その立ち方は、奇妙であった。


 まっすぐの一本道に対して、正面を向かず、僕からみるとその人物の側面が見えていた。


 立っているというか、立ち尽くしているというか。その人物は道の真ん中に立っていた。


 僕はまた歩き始める。そのまま立っていても、自宅にはつかない。


 歩いていくにつれて、目の前の奇妙な人物は大きくなっていく。近づいていくにつれてわかったのだが、結構身長が大きい。180センチ、いや190センチくらいはあるだろう。


 そして、かなり細く、猫背。


 背中のあたりからもくもくと邪悪なオーラのようなものが見えたなと思った瞬間、首だけが動き僕の方を見た。


 

 


 その後のことはあまり僕は覚えていない。思い出そうとしても何も思い出せない。


 気がつくと、見知らぬ白い壁が目の前に広がっていた。


 何回かまばたきをして、体の感覚を調べる。僕は、立ってはいない。寝ているようだった。


 目の前に広がるのは壁ではなかった。天井だった。


 看護師さんがやってきた。


「具合はどうですか?」


 僕は、頭の中が真っ白になり、返事をすることはできなかった。

 

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