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 店主の表情の変化に少しだけ驚いたが、私は、店主の言葉にゆっくりと答える。


「知ってますよ」


 私くらいの年齢でも、この話題は知っている。なぜなら、テレビで多く報道されているからである。


「そうでしたか。そりゃそうですよね。こんなに報道されてますし」


 彼は、にっこりと笑い、机の周りを移動し始めた。

 両手を腰の後ろに回して歩く。なんだか、探偵のような振る舞いだ。


「あなたも、気をつけたほうがいいですよ」


 店主は顎を右手でさすっている。店主がさする肌は、とっても真っ白く、ヒゲなんて一度も生えたことのないように見える。でも、その行為は、朝に髭を剃り、剃り残しがないことを確認する動作に見えた。


「とても可愛いし。若さがあふれているというか。うん」


 なぜか、店主は私を褒め始めた。いや、褒められてからといってお店の利益に貢献する行為をすることはありませんけど。


「いや、全然。私、クラスでもちょっと浮いた存在というか。うん」


 私も私で、真面目に返答してしまった。なんだか、タヌキの化かし合いになってる。店主の言葉の意図はなんなんだろうか。




 その後も、わたしたちは意味がありそうでまったく意味のない会話を繰り返した。人のたわいもない会話ってこんなものだ。意味がありそうで意味がない。


 でも、店主は始めに言ったのだ。気をつけたほうがいいと。


 私が狙われる?これから?


 確かに、体育の先生は消えてしまった。


 消えてしまったが、それはどうして?


 物が消えている事件なのに、人が消えた。


 私は、店主との会話に合わせながら思考を巡らせた。答えは思い浮かばない。でもなんだかひっかかる。


 私は、とりあえずここから出たほうが良さそうだと思った。


「すいません、ちょっとそろそろ帰らないといけないんで。うちの家、門限が厳しいんです」


 スマホの時計を見ながら、そう言った。


 すると、店主は「あら。それは帰ったほうがいいですよ」と目を大きくして返事をした。


「私も昔は門限厳しかったなぁ。ははは」


 また、笑った。


 そして、私は席を立った。カバンを肩に深くかけて、お店の入り口まで歩く。


 お店の扉を引いて、私は外へ出た。


 入るときは気がつかなかったのだが、この扉には、開け閉めをするとなるように鈴がセットされていた。


 ちりんちりん、と体の中のどこかに響き、お店で紅茶を飲んだ時の余韻を思い出した。


「ありがとうございました。また、お待ちしております」


 店主は、深々と頭をさげてお礼を私に向かっていた。


 このお店には一円たりとも支払っていない。しかし、彼はお礼を私に言った。


 私は、頭をぽりぽりと掻きながら思った。わたしは、何もしてないんだけどなぁ、と。




 帰り道、私はコンビニに寄った。


 近所のコンビニである。


 入り口の自動ドアから入ると、音が鳴った。


 さっきのお店のアナログな感じではなく、とってもデジタルな感じだった。


 

 なんだか、甘いものが食べたい。無性に食べたかった。


 しかし、甘いものを物色する前にやることがある。


 立ち読みだ。


 私は、女の子であるが少年漫画がとても好きだった。


 クラスの女の子でも、少年漫画が好きな女の子は沢山いる。というよりも、少女漫画よりも圧倒的に少年漫画のほうが本屋に平積みされているから、漫画が好きな私としては嫌が応にも目がいってしまう。


 平積みの中にたまたま、単行本の表紙が気に入った漫画があった。


 試しに1巻を買って帰って読んでみたら、それが面白かった。それはそれはとても。


 で、それはどこに掲載されているのだろう……と調べたら、今のような立ち読み女子になってしまったのである。


 時代にそぐわないかもしれない。今時、本屋で漫画を調べて、買ってなんて人はいないし、本屋から趣向を広げるのは昔の話だと高校生の私でも思う。


 今は、ネットで調べればなんでも出てくる。1話目無料と銘打って、1話まるまる載せているところ漫画もある。映画かなんてされようものならば、1巻まるまるネットで無料配布。


 でもこういうアナログさが私は好きだ。好きなのだ。


 自分の肌でさわって調べる感覚。


 漫画のページ数が重ければ重いほど、中身が詰まっている感覚(週刊誌に載っている漫画だと、だいたい3ヶ月にいっぺんくらい出るのだが、出していくうちに1冊くらい太い巻が出る。だいたいその巻の最終話には、今後のストーリーを占う出来事が起こるのだ。作者の意図的な巻数調整であると私は思っている)。


 


 ぺらぺらと、めくる。この2色刷りがたまらないなぁと思う。


 そして、手の脂がどんどん吸われてなくなっていった。


 この時、私はあまり気にはしなかったのだが、目の前の大通りに、数台のパトカーがサイレンを鳴らして通り過ぎて行った。


 私は、雑誌の置いてある窓越しにその光景を見ていたが、すぐに目線は紙面に戻った。

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