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急に背後に人が現れて、私は驚きのあまりコンクリートの床に倒れこみそうになる。
いけない。
朝方に、スカートの中身を晒してきたばかりである。
夕方には、スカートの中身こそ見えないが、裏ふとももの晒す気か(この倒れ方だと、ふとももの裏側は前回であろう)。
気は正気か自分。うるわしき女子校生なのに。
倒れそうになる瞬間、時間にして1秒はなかっただろう。私は、自問自答をしていた。
そしてなんとか、右足を前に繰り出して、倒れこみからの裏ふともも晒しは、回避した。
右足が、コンクリートの床を綺麗に踏んだ瞬間、変な汗をかいた。恥ずかしかった。
「だ、大丈夫ですか」
黒ぶちメガネの店員さんが私を気遣ってくれた。
私は、ジャンプをし、着地をした。そして、何もなかったかのように振る舞い、手ぐしで髪の毛をセットするようなふりをしながら、クールに振る舞った。
「なら、よかったです」
店員さんは、笑顔だった。なかなか人の心をつかみやすい笑顔だと思った。こんな笑顔を見せられたら、誰でも心を許してしまうのだろうか。店員という職業はこの人に転職なんじゃないだろうかとさえ思う。
「この本は気に入っていただけましたか」
店員さんは私に聞いてきた。
しかし私の口からは、すぐに答えは出てこなかった。
喉の奥のどこかに、何かがつまったかのような感じで口から出てこない。
悪くはないのだ。でも、なんだか好きになれない。素直に首を縦に振れない。
「難しいですよね。モノクロって」
店員さん言う。
私は、続けて何かをしゃべろうとするも、やはり口から言葉が出てこない。つまる。
「まぁ、ゆっくりしていってください。オレンジジュースとかコーヒーとかも、お金はいただきますけどご用意できますんで」
去り際も、優しい笑顔だった。そして、元の入り口の前の机の前に戻っていった。
私は、試しに声を出してみる。
「あー」
出る。
「いー」
やっぱり出る。
「うー」
まぁ、出ますよね。出ますね。
緊張というやつだろう。あのイケメンの店員さんがそばにいなければ私はいつもの私で居られるのだ。
リラックスとか、自分らしいとか。そういうのってとても大事だなと思った。
私は、気をとりなおして、モノクロの写真集を見ることにした。
たしかに、モノクロ写真というのは難しい。
でも、こうして写真集として出ているわけだし、この写真集以外もモノクロ写真集は町の本屋さんで売っている。
何か人を惹きつける魅力があるにちがいない、と私は考えた。
カラーの人物写真が見たいと、その時思った。
私は、おもむろにスマホをカバンから取り出した。
写真フォルダを漁って、人物の写真を探す。
写真フォルダの大半が、青色の空ばかりの自分におどろくものの、なんとか友梨の写真(変顔)を見つけた。
モノクロの写真が写っているページを開きながら、私はスマホを見ようとしたが、写真集が重くて片手で持つことは難しかった。
私は、辺りを見回して、私が立っている本棚のちょうど反対側に椅子と机があることに気がついた。
私は、重たい写真集と学生カバンを肩にかけて、反対側に小走りで移動した。
反対側に向かう途中、店員さんの前を通った。そして一瞬だけ、私の肩が丸まった。丸まったところで、私の存在が彼の前から消えるわけではなかったのだが。
机に写真集を開きながら置いた。
そして、スマホも写真を開きながら置いた。
両者を、交互に私は見た。
モノクロのほうが、人の肌が綺麗に写っていることに気がつく。
カラーよりも、目に優しい。
モノクロのほうが、撮り方の影響なのかもしれないが、「人」の印象を強く受ける。
いろいろな発見があることに、私は夢中になっていた。
私が一人で楽しんでいると、レモンの香りがするティーカップが目の前に置かれた。
「なんだか、楽しそうだったので。サービスです。まぁ、紅茶はお店で出してないんで、僕の私物で安物のティーパックから入れた紅茶ですけどね」
私は、お礼を言いたかったが、声にならない。とにかく、声が出ないから、思いっきり頭を縦に振った。なんだか、ロックバンドのライブで、ぶんぶんに振っているファンみたいに見えたかもしれない。
店員さんは、にっこりと笑って、また元の定位置に戻っていった。
私は、置かれたティーカップに手が伸びた。
あたたかい。




