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 男は、足をもじもじとさせながら僕を見る。


 そして、何かを話そうとした瞬間、彼は話すのをやめて口を閉じてしまった。


 微妙な空気が小部屋に流れている。僕は、その空気感を感じ、何かをしゃべろうとするものの、何も思い浮かばなかった。


 秋から冬に季節が変わろうとしているこの季節の変わり目に、僕は一体何をしているのだ。


 というか、何か事件に巻き込まれてしまっているのだろうけど、会社を無断欠勤してまでするような逃走劇ではない。


 僕が、自分を責めまくっていると、誰かが交番内に入ってくる音がした。


 その人物は、特になんの挨拶もない。


 コツコツとブーツが床に当たる音だけが徐々に近づいてきた。


「あれ、何やってんの」


 引き戸をガラガラと開ける音とともに僕は振り返る。


 僕の目の前には、大柄な細身の男が現れた。先ほど僕のアパートを訪れた男だと思われる(もはや、双子説が本当かどうかもよくわからなくなってきた)


「兄さん」


 ロッカーに横たわる男が、目の前に現れた男に話しかける。


「あれ、何やってんのお前。今日休みだろ。しかも、お前の勤務地は隣町の交番だろ」


 よく見ると、細身の男の後ろには、先ほどいた小太りの男もいる。どうやら、僕のアパートから引き上げてきたらしい。


「兄さんを驚かそうと思って待ってたんだよ。交番で。今日、誕生日じゃんか」


 細身の大男(弟)は嬉しそうに言う。その顔は笑顔に満ち溢れている。格好はなんとも卑猥だが。


「まぁ、確かに休みだわ。そっかそっか。最近はやってなかったけど、誕生日恒例のドッキリ大会か……俺、なんもネタ考えてないぞ」


「いいよいいよ。気にしないから」


 細身の大男の双子は、大きな声を出して笑い始めた。


 どうやら、彼は兄さんを驚かそうとして、拘束状態で交番のロッカーに待機していたらしい(ロッカーからどうやって驚かそうとしていたのだろうか)。どう考えても、上司にバレたらそれなりの処分をくらいそうな行動をしているように思える。警察官とはそれほどまでにストレス負荷がかかる仕事なのかもしれないと静かに悟った。


 僕は、二人が大笑いしている横をバレないようにすり抜けて、交番を出ようと試みた。


 当たり前である。


 この人は、さきほどまで僕のアパートに聞き込みに来て、その聞き込みの最中に僕は逃走したのだ。


 バレたら何をされるのか、見当がつかない。だから、僕は逃げるのである。


 四つん這いになり、僕は入ってきた男が開けたドアを通りぬけた。


 しかし、この時僕は部屋から出ることばかり頭の中で考えていたため、一瞬目に入った光景をすっかり忘れていた。そう、細身の男以外にもう一人帰ってきた人がいたことを……


「あ、さっきの!」


 小太りは大声で叫ぶ。そして、結局僕は捕まり、交番で取り調べのような聞き取り調査を受けることになった。




 時間はどれくらいかかっただろう。


 終わる頃にはお昼はとっくに回っていた。お腹がとても空いていて、何度もお腹をさすった。



 別に、僕は特に咎められることはなかった。むしろ、逃げる必要なんてなかったのにと何度も言われた。


 彼らは真っ当な人間であり、正真正銘の警察官であった。


 最近起きている怪奇な事件については、本当に苦労しているらしい。なにせ、人が消え始めているらしいからだ。

 

 最初は単なるその辺の構築物や物が消えていたのに、今度は人が消えるようになってきたらしい。いつも、手がかりらしい手がかりがなかったのだが、今回は初めて手がかりが見つかった。

 

 そのため、早速僕に聞き込みに来たとのこと。


「こういう事件て、スーツにノーネクタイの刑事さんが聞き込みにくるもんだと思ってましたよ」


 僕は素直な感想を打ち明ける。


「刑事ドラマの見過ぎだよ。僕らだって聞き込みの一つや二つやるさ」


 小太りの男が、お腹をさすりながら言う。


「でも、どうして君に電話がかかってきたんだろうね」


 細身の男(兄)は言う。


「確かに」


 僕は同意する。


「本当に知り合いじゃないよね?」


 細身の男(弟、非番)は言う。


「むしろ、女子校生とお近づきになれる方法があるなら僕が知りたいくらいです」


 僕は、真顔で答える。


「だよな」


 目の前の3人が、同時に僕の答えに賛同した。


「まぁ、今日は帰っていいよ。今日仕事だったんだろう?後で、電話して休ませてもらえるように頼んでおくんで。事件に巻き込まれたとかなんとかって言っとく」


 小太りの男は、頭をかく。少し、反省しているようにも見えた。


 僕は「お願いします」と言って、交番を出た。

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