15
男は、疲れていたようでそのままロッカーの中にもたれかかった。
僕は、そんな姿を見て、相当辛かったのだろうと思った。
しかし、次の瞬間だった。
なんだか、臭う。僕は、何かの間違いかと思って、鼻をヒクヒクとさせたが、どうやら間違いではないらしい。
この臭いはなんだろうと考える。
硫黄の香りに似ている。
そうだ。温泉に入り、温泉上がりに体からするあの香りだ。
何を思ったのか、僕はあたりを見回した。当たり前だが温泉など当たり前だが見当たらない。
僕は、首を傾げた。
僕が、不思議そうにしていると、目の前の男が小さな声で言った。
「す、すいません……漏らしてしまいました」
男は、顔を真っ赤にして下を見ながら僕に言った。
僕は、彼の下半身に目をやると、警察官のユニフォームのズボンに黒いシミができていることに気がついた。
僕は何を話していいのかよくわからなくっていた。
そもそも目の前の彼は、猿轡を外したとはいえ、両手両足はまだ拘束状態である。
また、臭いの正体が温泉ではなく、人間の排泄物の臭いであったと判明し、急に気分がすぐれなくなった。
「本当に……申し訳ない」
彼は、力のない言葉で僕に謝りの言葉を述べている。
僕は、「気にすることはないですよ」という言葉を言って、とりあえず、部屋を出た。
扉の引き戸を戻して、深呼吸をした。
あれ、僕は一体何をやっていたんだけっか。女の子の爽やかなパンチラを見て……。
ああ、違う違う。違うぞ自分。
怪しい不審人物が僕の家に訪ねてきたから、警察に相談しようと思っていたのだ。こんなショートコントみたいなことをやりにわざわざベランダから飛び降りてきたわけではないのだ。
僕は、鼻をつまんで、もう一度奥の部屋に行くことにした。
相変わらず、男はロッカーの中でぐったりとしていた。
ドアが開くと、わずかに僕の方を見たが、疲れているのか恥ずかしいのかよくわからないが、すぐに彼はまた下を向いて黙っていた。
「あの、すいません」
彼は、僕の声に反応して僕の方を向いた。
「ちょっと、手足の拘束は解けないんですけど、なんでこんな格好をされているんですか」
彼は、口を開いた。
「こんな趣味があるとでも?」
彼は、なぜか少し怒っている。
「いや、そういうつもりでは」
僕は、彼をなだめた。
「僕は、人前で着衣の上から排尿をする趣味はない。勘違いしないでくれ」
彼の表情は依然として暗いが、語気は強めである。
なんだか、話が進みそうにないから、僕は彼の言い分を無視して話をすることにした。
「僕の部屋に、小太りの人とあなたにそっくりな細身の男の人たちがやってきました。そして、今朝報道されていた女子高生消失事件で、僕に聞き込みをしてきたのです」
彼の表情が一瞬にして変化した。その表情は驚きを隠せないといった感じである。
「その、細身の男は僕の弟です」
「はい?」
人間というのは、耳がよくても自分が想像していないワードが出てくると聞き取れないものである。
「だから、それは僕の弟です。双子の。僕たち双子で警察官をやってるんです」
双子にしては、あまりにも似ているため、僕は驚いてしまった。
「いや、えっと、その……なんか、異星人とか地球にやってきて、変身して……あなたに成りすまして」
僕は、状況が理解できていなかった。しどろもどろもいいところである。
ロッカーの中にさきほどあった人物にそっくりな人が拘束されている。僕が生きてきた短い人生の中で、このようなパターンの場合、大抵異星人的なシチュエーションが待っているような気がしていた。
「あなたも、結構キテますね。いろいろ」
僕は、口から言葉が出てきそうになったがなんとか押し留めた。あなたに言われたくない、という言葉を。
「じゃあ、あなたはどうしてそんな格好でロッカーの中に」




