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僕は、走っている。それはそれは全速力で。
アパートのベランダからブロック塀に飛び移り、そのままコンクリートの地面へと華麗に着地を決める。
さながら、ハリウッド映画のワンシーンだ。と、さっきは自分で感心していたが、着地をした瞬間はさすがに痛かった。両足に電気が走ったような痛みがした。
女の子と会話をしていくうちになんとか痛みは紛れたが、無茶なことをしたものだと走りながら思った。
雑誌に「パルクール」というスポーツが海外で流行っているという情報が載っていた。
僕は、読んだ時にはできっこないと思っていたが、雑誌の内容を思い浮かべて飛んでみると、以外とできるもんだと思ってしまった。僕のコンビニでの立ち読みの経験が生きた瞬間だった(二度とやりたくはないけれど)。
そろそろ冬が訪れる季節が近いとはいえ、スーツのジャケットを着て走っていると暑い。
しかも、肩幅が少し窮屈にできているから幾分走りづらい気もする。
おまけに、履いている靴はスニーカーだ。スニーカーでもランニング用ではないから、特に走りやすいというわけでもない。
咄嗟の判断だったとはいえ、我ながら理解不能な行動をしたもんだと思う。
僕が、自分の行動について、反省をしながら走っていると目の前に交番がいつの間にやら現れていた。
ゆっくりと、歩くスピードに調整し、同時にジャケットを脱ぎ、右手で持って歩いた。
僕は、交番の入り口のドアを開いて中に入った。
「ごめんください」
僕は、大きな声を出したが、返事がなかった。
交番の中の机の上には、特に巡回中等の来客用の案内はない。
つまり、この交番には警察官の人が居てもおかしくないということになる。
再び声を出す。
「ごめんください」
すると、奥の部屋から鉄っぽい何かが落ちるような音がした。
僕は、机とセットで置かれていた椅子にジャケットをかけた。
そして、交番の奥の引き戸をノックした。
「ごめんください」
僕は、ゆっくりと引き戸を引く。
掃除用ロッカーの前に、金属のバケツが転がっていた。どうやら、この金属のバケツが掃除用ロッカーの上から落ちたのだろうと推測がついた。
そして、掃除用ロッカーを中から叩くような音がした。中で何かが動いているようだった。
恐る恐る僕は近づく。
そして、ロッカーの取っ手に手を掛ける。
僕は一呼吸をついてから、一気にロッカーを開けた。
中には、見覚えのある人が口に猿轡をされ、両足を縛られ、両手を背中に回して縛られていた。
中の人は以前として暴れている。僕を見たとしても安堵している様子はない。
ただ、僕は安堵どころか不安が増してしまった。
どうして、この人がここにいるのだろう。
そして、どうしてこんな拘束された状態でロッカーにいるんだ。
僕の想像を超えた光景が目の前に広がり、僕は吐き気を覚えた。
口に手をやり、吐き気を抑える。
また深呼吸をした。そして、僕は目の前で拘束されている人に近寄る。
「あなたは、さっき僕の家に来ませんでしたか」
僕は、彼に問う。
彼は、首を横に振る。
細長いロッカーに綺麗に収まったその細身の震えは、徐々に収まっていくのがわかった。
「あなたは、僕の敵ではないですか」
彼は、大きく頭を縦に振った。
僕は、少しだけ考え、そして彼の猿轡を外すことにした。右手と左手をゆっくりと彼の後頭部にやり、猿轡を解いた。
猿轡を解くと、彼は大きく息を吸い込んだ。あまりにも急に吸い込んだせいか、むせて咳き込んでいた。
「あ、ありがとう。た、助かった」
ようやく彼の表情から安堵が見て取れた。
そして、僕は思った。
やはり、この人は僕の家に来た小太りの男の後ろに居た、細い人であると。




