13
僕はドアノブを回したが、開く前にドアのチェーンを掛けることにした(念のため)。
玄関のドアをあけると、そこには男が二人立っていた。
一人は、背が小さく小太り。もう一人は、背が高く、骨と皮でできているんじゃないかというくらい細い男だった。二人とも薄いコートを羽織っている。
「やっと、出ましたね。並木さんでお間違いないですか」
小太りが僕にしゃべりかける。僕は、「はい」と小さな声で返事をした。
「ちょっと、あなたに聞きたいことがありまして。昨日の夜は何をされていましたか」
小太りは、お腹をさすりながら聞いてくる。きっと、彼なりの集中している時の行為なのかもしれない。
「仕事から帰ってきて……コンビニで買ったお酒を飲みながらテレビを見ていました」
僕は、昨日の行動を必死に思い出す。
「間違いないですか」
小太りは注意深く聞き返してきた。僕は、「間違いないです」と彼の目を見ながら返事をした。
小太りは、お腹をさすりながら何かを考えている。これ以上の質問が浮かばないのだろうか。そして、どうして僕のところに警察官が訪れているのだろうか。
「じゃあ、質問を変えま……」
「まどろっこしいなぁ」
後ろで立っていた、背の高い細身の男が急に小太りの話に割って入ってきた。
「ちょっと君……!」
「先輩は、まどろっこしいですよ。何ですかその回りくどい質問の仕方は。そんなんだから奥さんに逃げられるんですよ」
細身の男は、外見と異なり、割と攻撃的な口調で喋り続けている。僕はその光景を呆然と見続けた。
「並木さん」
気がつけば、小太りは後ろに追いやられ、細身の男が玄関のドアの前に立っていた。
「昨日、あなたに電話がかかってきたはずです。ご存知ですよね?女子高生消失事件。被害者の携帯電話から、あなた宛への発信が確認されています」
僕は、その話を聞いて、やはりその話かと思った。しかし、僕はあることに気がつく。
「いや、かかってきてはいないんじゃないですかね……」
「そんなはずはない」
細身の男は、僕を鋭い目つきで睨みつけてきた。僕は一瞬、その鋭い眼差しに驚いた。
ひとつだけ気になる点があった。しかし、そのことを確認する方法は……。
細身の男は、ドアを叩いて僕に返事を要求してきた。
「かかってきてるだろうぉ!」
あまりに大きな声で怒鳴ったため、さすがに小太りの男が後ろから止めに入った。
小太りの男が後ろから抱きかかえるようにして細身の男を、ドアから剥がした。
僕はその隙をついて玄関のドアを閉め、鍵をかけた。
ドアを激しくノックする音が部屋中に響いた。
僕は、急いで床に落としたスマホを手に取り、ネットのニュースを確認した。
そして僕は、大きなドアを叩く音が玄関からスニーカーを取り、クローゼットからスーツの上着を取り出して羽織った。
ベランダの窓をガラガラと開けると、目の前には大きな川が広がっていた。
その手前には細い道路があり、アパートを区切るようにしてブロック塀が建てられていた(丁度1階部分が見えるか見えないかくらいな感じである)。
僕は、深呼吸をする。
『雑誌で読んだことがあるから大丈夫……大丈夫』
スニーカーの紐をきつく結んで、僕はベランダの淵に立ち、ブロック塀に向かって飛び降りた。
落ちていく瞬間、確実に地球の重力によって地面に引きつけられているという感覚が体に伝わってきた。
ブロック塀の頭に僕は両足で着地し、そのままブロック塀からも飛び降りた。
そして両手をコンクリートの地面につけ、僕は着地した。
立ち上がる瞬間は、アメリカ映画のヒーローモノのワンシーンな気がして一瞬だけ興奮したが、僕はすぐに冷静になった。
女の子が僕の横で尻餅をついて僕のことを見ている。その女の子は、制服を着ており、ばっちりスカートの中身が見えていた。僕は極力その方向へに目をやらないように気をつけた。
女の子はすぐに気がついたのか、急いで立ち上がり顔を赤らめて下を向いた。
「怪我は大丈夫?ごめんなさい。急に飛び降りてしまって」
「だ、大丈夫です。いやぁ、人が飛んでくるもんだからびっくりしちゃいましたよ。お兄さんは何かの選手ですか?」
女の子は恥ずかしがっていたかと思っていたが、急に僕を羨望の眼差しで見つめていた。なんと、気持ちの入れ替わりが早い女の子なんだろう。
「ただのサラリーマンです。しかも、事務職。運動とか全然してなくて……あ、でも階段とかよく登ってるか」
と、平然とした会話をしている場合じゃないということに僕はすぐに気がつく。
僕は、彼女に「先を急ぐんで」と一言残して、交番に向かって走りはじめた。




