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瓶詰AIメル-モニタの中の気になるあの子  作者: SoftCareer
序章 僕の部屋に隠れてる

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第四話 メンテナンス

「よっ。メルちゃんおひさー」

【こんにちはシンジさん。こちらこそご無沙汰しています。今日は宜しくお願い致します】


 年の瀬も押しせまった十二月の日曜。快晴。どこの家でも一年の締めくくりに大掃除を計画していると思うが、僕の部屋もご多聞(たぶん)に漏れず、今日は大掃除なのだ。

 

 僕の部屋……とはいうものの、普段メルとのインターフェースで使用しているデスクトップPCの他に四台の雑多な大型サーバがあり、外部記憶としてのNASや外付けHDDがそれこそ両手で数えきれない位あるし、もちろん掃除だけって事ではなく、メルが基本的に二十四時間365日連続稼働なため、滅多に電源OFFに出来ない機材ばかりなので、ここで一気にメンテナンスもやってしまおうと言う次第で、到底一人が一日で完了出来る作業量ではないので、シンジやミサキにも手伝ってもらうのだ。


「それじゃメル。メインサーバの電源シャットダウンするから、君はハイバネーションで退避しててね。大掃除終わったら起こすから……おやすみ」

【おやすみなさいイナホさん】

 モニタ画面の黒い窓の中に、なにやら文字が表示され始め、メルが自身の退避を始めたのが分かる。そして五分位でPC本体がシャットダウンした。


「それじゃあシンジ。ミサキ。はじめようか」


 ◇◇◇


 普段頻繁に場所を動かす機器達ではないため、裏側のケーブルなどはちゃんとまとまったままでタグもきちんとついている。だが……積もった埃は結構半端ない。僕とシンジは、機器のシャットダウンを確認しながら一台づつケーブルをはずし、本体を部屋の真ん中に引きずりだす。そしてミサキが外した場所の埃を掃除するといった案配だ。


「うっひゃー。このサーバ、後ろのファンよく回ってたな。埃詰まってて向こう側見えないじゃん」シンジがタワーサーバの筐体を開け、中の埃も掃除しながら大声を出す。

「ははは、そうだね。このタワーサーバ、本体自体が掃除機みたいなもんだから。でも、こいつにはグラボ四枚挿してるから、熱には気を付けないと……」

「四枚って……モニタもつけてないのにか?」

「うん。グラボとしてではなく乗っかってるGPUをメルのサブ演算に流用してるんだ。全部規格が違うからスロットとドライバいじるのちょっと苦労した」

「ちょっとって……まあ、イナホらしいか」


「ねえイナホ。ちょっといい?」

 今度はミサキだ。何かと思って彼女の手元を見たら、被覆が痛んでいるLANケーブルが引っ張り出されていた。

「ああ。これは……替えないとダメだね」

 僕はそう言って埃の中ケーブルを追跡しHUBからはずす。

「替えのケーブルあるの?」

「ある……っていうか作る。既製品高いから」


 僕は机の脇の段ボールからCAT5eの裸線を、傷んだLAN線と同じ位の長さに切り出してヨリ線をほどき、RJ45(コネクタ)を両端にカチンと圧着する。

「それでこうしてケーブルテスターで……うん。導通OK」

「はー。あざやかなもんね」ミサキも感心しているが、正直、金属LAN線の製作コンテストがあったら自分でも結構上位に食い込めるのではないかと言う自負があったりする。まあ実際には既製品の方が品質も安全性も高いとは思うし、今時CAT5eってのもな。


「さて。それじゃあ僕はそろそろ今日の課題にとりかからないと」

 機器周りや部屋の清掃は二人に任せ、僕は以前からの懸案事項だった、3AブロックのSMART(故障警告)解消のため、NASのHDD換装を行うのだ。もともとはRaid1(ミラーリング)で使うNASなのだが、容量を少しでも増やしたい僕はこれをミラーなしの倍容量として使っている。そのためHDDが飛ぶとその中身はそのままロストしてしまう。だから飛ぶ前の故障警告が上がった時点で壊れる前に対処する必要がある。


 このNASもかなり旧式でHDDのインターフェースもコネクタ形状が結構特殊だけど、これも自作のケーブルでPCにつなぎ、新たに用意したHDDに中身を転送するのだ。


 容量もそれなりにあるので、転送に小一時間位かかりそうだ。

「それじゃあ二人とも。ちょっと休憩してお茶でもしようか」


 ◇◇◇


 夕方。陽も落ちて暗くなった頃、なんとか予定作業を終了した。

「ふわー。なんか鼻がすっげえムズムスする。これアレルギーあるやつだと死ぬんじゃね?」

 まさにシンジの言う通りだな。サーバから出て来た埃だけで、軽く段ボール一杯分はあるんじゃないか?


「二人ともご苦労様。それじゃあメルを起こそうか」

「よっしゃ。それじゃ順番に電源を……」

「わあっ。ちょっと待ったシンジ! 一気に電源ONするとブレーカー落ちる事あるから! 一台ずつ起動を確認しながらだよ」

「ははは。なんかギリギリなんだな」

 

 そして僕は、メルの本体をインストールしてあるメインサーバにモニタを切り替え、本体スイッチを入れる。だが……なんだ? ブートが進まない?


「おいイナホ。これおかしくないか?」シンジが心配そうに僕の顔を見る。

「えっ、えっ。これってメルちゃんの本体だよね? 大丈夫なの?」ミサキも結構慌ててる。

「うーん。こいつ僕んちで一番高性能なサーバなんだけど、如何せん二十年以上前のものだから……」

「何よ。イナホより年上じゃん」ミサキが呆れていた。


 とにかく障害の原因を突き止めないと……僕はなんとかサーバのBIOS画面を引っ張りだして問題がないかひとつひとつ確認していく。慌てる必要はない。メル自体はハイバネーションでスナップショットしてるから、仮にこのサーバがオシャカでも別のサーバに再インストール後に今朝の状態までレストア出来る……はずだ。でもそれはすっごく大変な作業でもあるし、万一ハイバネーションファイルそのものに損傷でもあったら……僕はこの時、ハイバネーションファイルの格納先がミラーリングになっていない事を後悔していた。


 そして三十分位の格闘の末……。


「あった! 分かったぞシンジ。これだ。Raidコントローラの構成がすっとんでる!!」

「Raidコントローラ? お前、容量ケチってRaid使わないんじゃなかったっけ?」

「メインサーバだけは別だよ……ああそうか。これは盲点だ。このサーバ、Raid構成の保持用に内部にバッテリー持ってるんだ。それが古くなって電池切れしていたところで電源落としたから……」

「なるほど。それで……直るのか?」

「とにかくもう一度電源落として、替えのバッテリー探さなきゃ。構成パラメータは多分、どっかにファイルで保管していたと思う」

「とにかく早く頑張って。メルちゃん心配だし、私もうお腹ペコペコよ!」

 ミサキが情けない顔で力なくそう言った。

 

 ◇◇◇


 バッテリーはメーカーの専用パーツみたいだったが、電流電圧の規格を確認し同等の乾電池を応急処置として無理やりつけた。そして……ああよかった。こんどはちゃんとブートしてる。五分ほどの自己点検後、サーバは無事いつものGUIの状態になった。サービス関連の起動も……問題ない!

 

 僕はモニタを机の上のPCに切り替え、本体の電源を入れる。こっちは問題なくデスクトップが表示されたのでそのままメルのコンソールを起動し、Hello Merueとタイプした。

 

 砂時計がクルクル回って……。


【こんばんはイナホさん。大掃除、予定より時間がかかりましたね】

 ああよかった。メルが立ち上がった。

「いや……いろいろあってね。とりあえずまずは自分自身とシステム全体の自己診断を頼む。サブサーバも外部記憶もこれから順番に立ち上げていくからそれもお願いね」

【了解しました】

 

 そばで見ていた二人もほっと安堵の息をついて脱力する。

「ごめんね二人とも。結構遅くなっちゃった。機械全部立ち上げたら、台所に母さんが作ってくれたちらし寿司があるから晩御飯にしよう。どのみちメルのシステム診断は一時間以上かかるからさ」

 


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