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白銀のソロディウス  作者: みーこ


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25/31

25.“キーヴァ”

『この先通行禁止』と書かれた看板を無視して歩き続け、太陽の半分程が地面に隠れた頃。ようやく件の倒木が見えてきた。辺りに威圧感のある強大な魔力が漂い、私は魂だけだと言うのに身の竦む思いがした。


(……あれ? この魔力、どこかで……?)


 ふと周囲に漂っている魔力に既視感を覚えたが、一体どこで感じた魔力なのか思い出せない。そのことがより一層不安を増大させる。


「明らかにヤバい何かがいる気配だな……」

「ああ。これ以上進む気が起きねぇな」


 トゥタカルタさんと兄さんが足を止めた。しかしソフィーさんだけは立ち止まらず、その代わりゆっくりとした歩調で倒木に近づいていく。


「ソフィー嬢。あまり近づかない方がいいのではないか?」

「大丈夫ですよ。何も問題ありません。……ふふ。やっぱりここにいたんですね」

「な、何の話だ、ソフィー嬢? もしかして、先程言っていたご友人のことか?」

「はい。その〝もしかして〟です」


 ソフィーさんは悠然と歩き続け、遂に倒木の前まで辿り着く。


「皆さんにはまだ言っていませんでしたね。私の友人がどんな姿をしているのかを。……ですが」


 言葉を切って振り向いた彼女は、ただ真っ直ぐに、トゥタカルタさんを見据える。


「十分ご存じでしょう?」


 ソフィーさんが倒木に触れた。その瞬間。


「うおっ⁉」

〝きゃっ⁉〟


 ごごごご、と音が鳴る程物凄い勢いで風が吹き荒れた。

 私は咄嗟に結界魔法を展開したが、それでも吹き飛ばされてしまいそうな勢いだった。兄さんも足を踏ん張ってはいるが、少しずつ後ろに下がっている。


「リーアムさんもキーヴァちゃんも、ご安心ください! ここにいるのは騎士団が倒せなかった魔物ではなく、私が探していた友人です! あなたも! 隠れていないで出てきたらどうですか!」


 吹き荒れる風に負けじと声を張り上げるソフィーさん。すると段々と風は弱まってきた。だからと言って安心できるわけではない。兄さんは剣を構え、私もいつでも魔法が使えるように意識を集中させる。

 程なくして風が止み、その人物の姿が見えた。


〝えっ……〟

「お、おい……お前……」


 その人物は——その少女は、腰まで伸ばした銀髪を風に靡かせ、紺色のマントを羽織り、手には魔法石のついた杖を持っている。そして目を青く光らせたその姿は、見間違いようがない。


「キーヴァ……?」


〝私〟だ。


「やぁっと来たかお前ら。ったく、待ちくたびれたぜ。暇すぎてここにいた魔物喰らっちまったよ」


 杖を肩に担ぎ、不敵な笑みを浮かべる〝私〟。


(私ってこんな顔するんだ……)

「テメェ……今すぐその身体を返せ! それは俺の妹のだ!」


 兄さんが〝私〟に向けて剣を構えた。だがその手も声も震えている。無理もない。風は収まったが、依然として魔力の圧は消えていないし、剣の先にあるのは私の身体。深い傷を負わせれば、後々本物の私が苦しむことになる。


「ああ、お前の妹……キーヴァ、だったか? まだちゃんと〝そこ〟にいるよな?」


〝私〟が杖をこちらに向けた。兄さんの剣にはめ込まれた、魔法石に。


〝ええ。あなたのお陰でずっとここに閉じ込められています。……どうして、こんなことをしたんですか? 村を焼いて、私の身体を奪って、私の魂をここに閉じ込めて!〟

「おいおいおいおい。全部オレ様のせいだって思ってるのか? むしろ感謝してほしいんだけどな。オレ様はお前を守ったようなもんだし」

〝守る⁉ このどこが⁉〟


 軽薄に笑う〝私〟に腹が立ち、私は爆発魔法を放とうとした。が……できなかった。


「キーヴァちゃん。そんなことしたら、キーヴァちゃんの魂を戻せなくなっちゃう」


 私の魔法を止めたのは、ソフィーさんだった。私が使おうとした魔力の倍以上の魔力をもってして無効化させた。強い魔法を放つ気だったのに、それを世間話でもするような顔で止められた。


〝ソフィーさん。どうして……どうして、言ってくれなかったんですか! ソフィーさんの友人が、私の身体を奪った人だって!〟

「だって、聞かれなかったもの。それに、言うなって言われてたし」


 いつもの笑みを浮かべながら、あっけからんと言うソフィーさん。普段通りだからこそ、空恐ろしく感じられる。


「ソフィー、お前……ずっと俺たちを騙してたのか。そいつを探すために俺たちと旅をしてたのは、俺たちをそいつに殺させるためか⁉」

「だーかーらー違ぇっての!」


 ソフィーさんに吠える兄さんに対し、〝私〟が反論する。


「そもそもあの火事を起こしたのはオレ様じゃねぇし、オレ様にお前たち兄妹を殺す気はこれっぽっちも無ぇ! 勝手に身体を奪ったことに関しては謝罪するが、そうでもしないとオレ様はあの危機的状況から脱することはできなかったし……お前の妹の命も危うかったぞ」


 最後の言葉だけ声を低くさせた〝私〟。その前がおちゃらけた態度だっただけに、私はその変わりようにゾッとした。まさか、本気でそう言っている……?


「どういう意味だ、テメェ……」

「どうも何も、騙されていたのはお前たち兄妹だってことだ。あの宿屋の店主に伝言を預けたが、まさか聞いてねぇのか? 鳥に気をつけろ、って」

「ク……ハハ……」


 笑い声が聴こえた。

 酷く耳障りな笑い声だ。


「アッハハハハハハハハハハハハハ‼」


 隣で、トゥタカルタさんが腹を抱えながら笑っている。


「何だよお前……魔王のクセに、そんなお優しいことするのかよ。……アハハ」

「……? どういう意味だ、カルカル」

「カルカルぅ⁉ お前そんな変な名前で呼ばせてるのかよ! オレ様の威厳が廃れるだろ!」

〝え、な、何……?〟


 少しの会話で色々な情報が交錯した気がする。何も分かってないのって、私と兄さんだけ?


「ああもう面倒くせぇ‼ お前がそいつらに教えてやれよ〝カルカル〟。どうせお前、そういうの自慢したいタチだろ?」


〝私〟が杖をトゥタカルタさんに向け、怒鳴ったように言う。するとトゥタカルタさんは笑うのを止め、顔を上げた。


「ああ、教えてやるよ。俺は……謎の失踪を遂げた金勇者ディアミドにして……」


 バサッ、と音を立てて彼の姿が変化した。私と兄さんが最初に見た、大翼を持つ、鳥のような人の姿に。


「この地に隠れていた魔王トゥタカルタを倒し、その身体を奪った、最強の存在だァ‼」


 その直後、先程とは比べ物にならない暴風が起き、私たちはなす術も無く吹き飛ばされた。

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