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白銀のソロディウス  作者: みーこ


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26/31

26.トゥタカルタ

「がッ⁉」

〝兄さん⁉ 大丈夫⁉〟


 吹き飛ばされた先で、私は地面に強かに打ち付けられた。あまりの風の強さに兄さんは剣を離してしまったようだ。しかし幸いにも遠く離れた場所に落ちたわけでもなく、私にはふらふらと立ち上がってこちらに寄ってくる兄さんの姿が見えた。兄さんは顔を苦痛で歪めながら剣を手に取る。


「なんとか、な……」

〝よかった……。一応治癒魔法をかけるね〟

「ああ、助かる」


 私が簡単な治癒魔法を兄さんにかけていると、どこからか私たちを呼ぶ声が聴こえた。


「リーアムさん! キーヴァちゃん! ……ああ、よかった。こちらにいましたか」


 もう太陽は完全に沈んでいる。暗くてすぐにそれが誰の姿なのかは判別しづらかったが、こちらに近づくにつれそれがソフィーさんであることが判明した。そしてその隣には、〝私〟もいる。


「いやぁ、よかったよかった。今ので誰も死ななくて」


 軽い口調で言う〝私〟。そんな〝私〟に対し、兄さんがすかさず剣を構えた。


「テメェ、この状況がどういうことなのか、説明しやがれ!」


 険のこもった声で詰問する兄さん。しかし〝私〟は意に介した様子もなく、のんびりと空を見上げる。


「だいぶ厄介な奴だなぁ、あの勇者。オレ様魔王じゃねぇってのに……」

「おい! 俺の話を聞け‼」

「だったら」


〝私〟がこちらを一切見ずに、兄さんの剣の切っ先に指を添え下げさせる。兄さんの困惑した気持ちが、柄を握る手から私にも伝わってきた。


「黙ってオレ様の話をよぉく聞け。オレ様は古よりこの地を見守ってきた、風を司る神トゥタカルタ。だが、ここ数百年は新たな神が乱立して、オレ様たち古い神は魔王だのなんだの言われることがある。あの勇者もオレ様を魔王だと思っている口だな。だから、オレ様を倒しに来た」

「で、テメェは倒されたのか」

「だぁから黙ってろっての。確かに倒されたとも言えるが、正確に言えば〝倒されてあげた〟んだ。人間ってのは英雄譚が好きだからな。英雄を作り上げてやるために時々人の前に現れて、倒されてやるのもまあまあ良い暇つぶしになるんだよ。……だが、今回はそれが裏目に出た」


〝私〟——本物のトゥタカルタさんが、空を舞う偽物のトゥタカルタさんを見据える。偽物の方は、どうやら私たちの姿を探しているようだ。


「あいつ、ディアミドっつったか? 奴はオレ様の前に現れた時から、妙に強さに執着していた。お前を倒して俺が最強の勇者になる、ってな。これは面白そうな奴が来たな~、なんて思って倒されてやったら……あいつ、オレ様の魂を魔法石に閉じ込めて、あいつ自身の魂をオレ様の身体に入れやがったんだ」

〝そんなことが……〟

「ああ。ビックリだよな。そんなことをして何をするつもりなのか聞いてみたら、あいつ、なんて言ったか分かるか? この姿で街を襲い、人間の姿に戻って街を救えば、誰もが俺を魔王から街を救った英雄だと認めることになる、なんて答えたんだぜ? 笑えるよな」


 そう言うトゥタカルタさんの顔は、一切笑っていなかった。


(私の真顔ってこんななんだ……)

「そしてあいつはオレ様の入った魔法石と共に、あの村を訪れた。……ああ、オレ様を傍に置いておいたのは、あの身体の使い方を逐一オレ様に聞くためだ。何をすればどんな攻撃ができるのか随分知りたがってたから、あることないことテキトーに教えてやった」


 そんなはた迷惑な。


「で、起きたのがあの村一つ焼き尽くすほどの大火事ってわけだ。何であいつがあの村を襲ったのか分かるか、キーヴァ」

〝え? えーっと、大きすぎず、小さすぎない村だったから……とか?〟

「お前だ」

〝え、ええー? どういう意味ですか?〟

「お前が自覚してるかどうかは知らねぇが、お前の魔力は、人間にしては強い部類に入る。だから当然魔法も強い。そういう強い奴が自分以外にもいたら……まぁ、最強になりたい奴にとっては邪魔だよな」

〝ま、まさか……私を、こ、殺すために……?〟

「ああ。だからオレ様はあいつの隙を見て逃げ出し、お前の身体を奪って……今に至る。……あいつ、やっとオレ様たちの姿を見つけたぞ。オレ様の身体使うの下手すぎか? よし、お前ら。これからオレ様たちであいつを倒すが……オレ様の身体を壊すなよなァ‼」

「無茶な注文だなおい⁉」


 兄さんがそう叫ぶが早いか、偽物のトゥタカルタさん――ディアミドが空から突っ込んできた。


「くッ⁉」


 鋭く何度も突き出される翼を、兄さんが剣で受け止める。だが、一撃一撃が重すぎる。防ぐだけでも精一杯だ。


(何か魔法を……ああ、でも傷つけずにってどうやって⁉)


 私の魂を私自身の身体に入れ直すには、今現在私の身体に入っているトゥタカルタさんの魂も元の身体に戻す必要がある。だからトゥタカルタさんはオレ様の身体を壊すなと言ったのだが……それでどうやってディアミドを無力化させろと言うのか。


「おいおいどうしたリーアムぅ‼ 攻撃してこいよ‼ それじゃあ倒し甲斐が無いだろ‼」


 ギャハハと笑いながら大翼で兄さんを攻撃し続けるディアミド。今まで共に旅をしていた人と同一人物なのか、かなり怪しい。でも、恐らくはこちらが元々の性格なのだろう。今まで私たちの前で見せていた姿は全て演技だったのだ。


「クソッ……! おいカルカル! じゃなくてディアミドだったか⁉ お前今までずっと本性隠してたってのか⁉」


 攻撃を受けながらも、兄さんがディアミドに向けて叫んだ。


「ああそうだよ! 名前も! 姿も! 何もかも! お前たちに見せていたのは偽りだ!」

「じゃあコウモリの体液浴びて気持ち悪そうにしてたのも演技だったのかよ!」

「あれは……」


 ディアミドの攻撃が一瞬止まった。この僅かな隙を好機とばかりに兄さんは一歩踏み込んだ。しかし次の瞬間、ディアミドが叫びながら更に強い一撃を与える。


「あれは本気で気持ち悪かったに決まっているだろうがッ‼」


 重く、鋭い一撃に、兄さんはまた後ろに吹っ飛ばされた。


「何怒らせてんだよお前⁉ 馬鹿か⁉ 馬鹿なのか⁉」


 余波を喰らったトゥタカルタさんが兄さんに罵声を浴びせる。負けじと兄さんも大声で返した。


「だって気になるだろ! 本当に全部演技だったのか!」

「だからって今聞く必要ねぇだろ⁉」

「二人共! また来ますよ!」


 怒鳴り合う二人にソフィーさんが注意する間にも、ディアミドが一度空に飛んでから勢いをつけてこちらに突進する。兄さんは慌てて地面に伏せたが、それでも翼が擦れ、布地の破れる音と兄さんの呻き声が重なった。

 それからもディアミドによる一方的な攻撃が続く。あの身体を壊さずに倒す方法が思いつかず、こちらは防戦一方だった。


「リーアム! もう少し耐えていてくれ!」


 そんな折、背後から声が聴こえた。周囲の魔力が一ヶ所に収集されていくのを私は感じた。


「捕らえろ! 死人の檻ゲィク・フォ・エスプローク!」


 トゥタカルタさんが叫び、杖を地面に突き立てる。


「何ッ⁉」


 地面から薄汚れた細長い布が何条も伸び、ディアミドを取り囲む。


「やったか……⁉」


 ディアミドは突然現れた布にぐるぐる巻きにされた。かと思いきや……。


「この程度で……俺を捕まえられると思ったかッ‼」

「うわっ⁉」

〝ひゃっ⁉〟


 翼で布を引き裂き、そのまま空中へ飛んだ。


「俺は! 最強なんだ! 魔王の力を得て最強になったんだ! 人間如きの攻撃なんて効くわけないだろう!」


 勝ち誇ったように嗤うディアミド。でも私は、その声から僅かに焦りや怒りも感じた。〝最強〟にこだわる理由が、彼をそうさせるのか? 〝最強〟にならなければいけない理由が、何かあるのか——?


「チッ。人間の持続力弱すぎるだろ……。リーアム、キーヴァ! 気を抜くなよ! ソフィー! お前敵の動き止めるの得意だろ! 何とかしてあいつの動きを止めろ!」

「簡単に言ってくれるけど、私よりあなたの方が強いんだから難しすぎるの!」

「そうだったな!」


 などと言い合っている間にも、空から攻撃が降り落ちる。ディアミドが翼を一振りするだけで、風が刃となって襲いかかる。

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