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白銀のソロディウス  作者: みーこ


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11/31

11.ソフィー

 朝が来ると、何事も無かったかのように兄さんはトゥタカルタさんと朝食を共にした。それから昨日と同じように宿の主人からお昼の分の食料を貰い、残りの依頼を達成するべく村の北側へと向かう。

 午前中は昨日の感覚を思い出しながら魔物を倒していった。もう少し強い魔物がいれば腕試しにもなるけれど、いないものはいないので数をこなすことに集中した。

 昨日よりも格段にペースが上がり、討伐は順調に進んでいった。昼休憩をした頃には依頼は残り五分の一程度であり、日が暮れる前には全ての依頼を達成した。


「存外早く終わったな。二人とも、よく頑張った。とは言え魔物を一掃できたわけではないから戻ればまた現れるだろうが、とにかく依頼された分は片がついた。お疲れ様」


 トゥタカルタさんから笑顔で労いの言葉をかけられ、私は肩の荷が下りた気分になった。


〝ありがとうございます! トゥタカルタさんに色々と助けていただいたおかげで、この状態で魔法を使うのにもだいぶ慣れてきました。これなら強い魔物と出会っても難なく戦えそうです!〟

「そうかそうか! それはよかった! 君の素質の良さは見ていればすぐに分かる。だから習得も早く、ずっと共に戦ってきたリーアムとの連携も息がぴったりだ。こうして傍で見ていると、これからの成長もずっと見ていたくなるなぁ……」

「年寄りか」


 何故かご満悦な様子で私たちの未来の姿を想像するトゥタカルタさんに、兄さんがすかさずツッコミを入れた。確かに、孫の成長を見守るおじいちゃんっぽい。


「そりゃあ君たちより年上だが、年寄り扱いする必要はないぞ。見ての通り若くて綺麗なお姉さんだからな。お姉さん扱いするがいい」

「よし。依頼も全部終わったことだし、さっさと宿に戻って報告するぞ」

〝うん、そうだね。明日出発するなら準備もしないといけないし〟

「二人して無視するのは酷くないか⁉」


 そんな言葉も無視して兄さんはさっさと歩き出してしまう。置いていかれたトゥタカルタさんは二言三言文句を言い、早足で追いかけた。

 宿に戻り店主に全ての依頼を達成したことを報告すると、店主は驚愕して目を見開き、それから満面の笑みを浮かべた。


「まさかこれだけの依頼をたったの二日で全てこなしてしまうなんて! 流石は勇者様だ! 二人とも疲れただろう。魔物を倒してくれたお礼に、何か甘いものをご馳走しよう。そうだな、木苺のパイなんてどうだい?」

〝……‼〟


 木苺のパイ!

 その単語を聞いただけで、私は涎が出る思いをするほど舞い上がった。旅をしていると、どうしても道中に食べられるものは限られる。保存のきく干した肉や果実、もしくはその場で食べられる植物を探すか、調理器具があれば動物を狩って捌くか。しかし肉を焼く程度の簡単な調理はできても、手間暇のかかるお菓子作りは到底できない。お菓子が食べられるのは村を訪れた時のみ。だと言うのに兄さんは節約志向のためなかなかお菓子を買うことを許可してくれない。だからこうして向こうから善意でお菓子をくれる時くらいしか食べられない。

 それなのに!


(口が無いせいで食べられないなんて……‼)


 私はこれほどまでに今の己の状態を恨んだことはなかった。うう、私の身体を奪った人め。身体を取り戻したら私が満足するまで色んな種類のパイを作らせてやる。

 私が声を出さないよう我慢しながらじたばたしていると、兄さんがその気配に気づいたのか一言「食う」とだけ言った。私の代わりに食べてくれてありがとう兄さん。でもできることなら今だけ身体を代わってほしいな。


「店主殿の作る料理はどれも絶品だったからな。木苺のパイもさぞ美味しかろう」


 トゥタカルタさんも舌なめずりしながら言った。ああ、やっぱり兄さんだけじゃなくて二人とも身体を私に譲ってほしいな。パイを独り占めしたい。


「よぉし! じゃあ気合いを入れて作るから、出来上がるまで待っていてくれ!」


 気合い十分な店主が厨房へと向かう。店内には私たちだけとなり、私は我慢していた分を一気に発散させた。


〝うう~。私も木苺のパイ食べたい~! 兄さん身体代わって~!〟

「残念だったな」


 私の抗議は軽く受け流され、兄さんは剣を机に立て掛けた。


〝もう。兄さんは普段甘い物食べようとしないのに、何でこういう時に限って一番食べたいと思っている私が食べられないのさ!〟

「まぁまぁキーヴァ。身体を取り戻してからのお楽しみができた、と思えばよかろう」

〝よくないです! 今! 出来立ての! 木苺のパイが! 食べたいんです!〟

「キーヴァよ。あまり大きな声を出し過ぎると店主殿に聞かれるぞ」

〝うぎ~〟


 トゥタカルタさんにまで軽くあしらわれた。でも彼の言うことはもっともなので、これ以上大声で抗議はできなかった。

 とは言え大声でなければ大丈夫なので、パイが出来上がるまで三人でとりとめのない会話をしていた。いや、正確に言えば主にトゥタカルタさんが喋り、私と兄さんが適当に相槌を打っていた。トゥタカルタさんは今まで戦ってきた魔物の話や出会った人々の話を聞かせてくれたのだけれども、そのほとんどが自慢話で正直なところ少し辟易した。兄さんも何度か欠伸をかみ殺していた。

 厨房から美味しそうな匂いが漂い始めた頃、酒場に一人の女性がやってきた。赤茶けた髪を腰まで伸ばした、穏やかそうな雰囲気の人だ。一見して年は兄さんと同じくらいだろうと私は思ったが、その人の魔力の雰囲気からして見た目と年齢がそぐわない類いの人だと気がついた。

 人間とは異なる魔力の流れ方。

 魔人だ。


〝っ……〟


 魔王の配下である魔人は討つべし。魔王軍討伐のことなんてほとんどの勇者の頭には無いだろうが、それでも一応は最優先事項である。しかし魔人といえども、皆が皆魔王軍の配下であるとは限らない。人間だって幾つもの国や人種があり、別々の国同士で争うこともある。それと同じように魔人にも幾つものコミュニティがあり、その中の一つが魔王軍であると教わった。

 逆に人間に混ざって暮らす魔人も、多くはないが存在する。実際、私も旅の途中に人里で暮らす魔人に出会ったことがある。


(この人は、どっちだろう)


 魔王軍か、否か。もしかしたら私の身体を奪った人の遣い、なんて可能性もある。


(うぐぐ……。兄さんにこの人が魔人だってことだけでも伝えたいけど、喋っちゃったらこっちの手の内を明かすことになっちゃう)


 私が悶々としている間に、こちらに気づいた魔人の女性が話しかけてきていた。


「あら、見ない方々ですね。こんにちは。もしかして、あなた方がこの村に来た勇者ご一行……ですか?」

「ああ」

「いかにも。こちらが勇者のリーアム。私はお供のカルカルだ。君は?」


 兄さんが素っ気なく返事をし、トゥタカルタさんが紹介をする。まだ二人ともこの人物の正体に気づいてはいないようだった。


「私はソフィーと言います。あのぅ……」


 ソフィーと名乗った魔人の女性は、困ったように眉を下げて剣を指差した。


「そちらの方は?」

「……」

「……」

〝……へ?〟


 ソフィーさんはまっすぐ剣を――魔法石を見つめていた。私が思わず間の抜けた声を出すと、ソフィーさんは安堵したように笑顔を見せる。


「ああ、やっぱり。いますよね、そこにも。見間違いだったらどうしようかと」

「おい待て。お前……分かるのか、これ」


 兄さんも珍しく焦ったようで、ソフィーさんと剣を交互に見る。トゥタカルタさんも「おやおや……」と言ったきり目を丸くしている。


「ええ、ちょっと自信はありませんでしたが、その剣から人っぽい魔力を感じたものですから。お名前を教えていただけませんか?」


 そう言って毒気の無い笑顔を私に向けるソフィーさん。その笑顔にあてられて、私はさっきまで彼女が魔王軍かどうか思案していたのも忘れて名乗っていた。


〝わ、私はキーヴァ。リーアムの妹です〟

「あらまぁ妹さんなの? 何でそんなところに?」

〝えっと、それは……〟


 質問に答えるべきかどうか迷っていると、丁度店主が現れた。

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