妖刀
「……あの時?……すまないが私は君のことを知らない」
「いいや絶対にあったことがあるぞ。名前は確か雪……雪……なんじゃっけ……?」
その少女の声色はまっすぐだ。
「そういえば……可憐!可憐はどうしたんじゃ……?お主らいっつも一緒におったじゃろ」
『可憐』という名前を聞いた瞬間、どこか引っかかるような感覚がする。
「人違いだ……それよりお前は、なんなんだ?」
私は思わず話を遮った、これ以上聞くとどうにかなってしまう、そんな気がしたからだ。
「あ、わしか?わしは稲光ちゃんじゃ、妖刀の稲光ちゃんじゃ!」
「妖刀……?」
私は頭を抱えた、この状況で冗談を言うなんて。
「そうじゃ妖刀じゃ、それがどうしたんじゃ……?」
そう言い少女は首を傾げた。
あたかも「当たり前じゃろう?」と言いたげに。
「え……ほ、本当に刀なのか……?」
「そうじゃよ?お主昔会った時は全く驚かなかったじゃろう、どうなってるんじゃ……?」
昔の私は喋る刀を前にして驚かなかったのか。
こいつは少なくとも作り話ではない、先ほどから全く言葉に迷いがない。
「もう一つ聞くが……ここはどこだ?」
「刀の意識の中じゃよ、普通は入れないはずなんじゃけど……昔契約していた名残じゃな、多分……」
先程から全く話が見える気配がない『可憐』という少女の事も、稲光という刀の事も。
話が進めば進むほど話が見えなくなる。
「で、再契約はするのか……?もちろん――」
「しない」
私は寸前で言葉を遮った。
契約などと言う物騒な言葉を拾えるほど今の私に余裕は残っていない。
「そ、即答じゃな」
「ああ、見ず知らずの刀と契約するわけないだろう」
その時稲光の視線が私と迷いなく繋がる。
「お主、もしや……記憶がないな?」
「……は?」
不意に心臓を刺されたような感覚に陥る。
そうだった、今の私は記憶がない、まさか……こいつ……。
「図星じゃな……おぬしに何があったんじゃ?」
すかさず刀は私に質問を投げかけた。
だが今の私には。
「わからない……」
とそんな言葉しか出てこなかった。
「そうか……」
優しい声で刀はそう呟いた。
だが表情はどこか諦めた、そんな表情をしている。
「気が向いたらわしと契約するといいぞ」
「お前は……私の何を知っている……?」
その時、私の体がほんわりと足から消え始めた。
「……は?」
「時間切れじゃな……お主とわしは契約していない……」
「せ、せめて『可憐』のことをっ!」
「可憐はお主の――」
刀の声がそこで途切れる。
「雪花ちゃんっ!!」
途切れた声を補うようにニオの声が耳に入る。
「わ、私は……」
「雪花ちゃん!よかったぁぁ……」
ニオは安堵の息をついてその場にへたり込んだ。
「お前さん、何を見たんだ……?」
武器屋の店主がそう私へと問いかけた。
「それを知ったら何になるんだ……?」
「い、いや……正直刀に触れた瞬間気絶なんて見たことがねえんだ……」
店主の目は見開いていた、そうして話を続ける。
「お、お前が刀に選ばれた、とでも言うのか……」
「私はその刀と話をした」
「つ、つまり……」
口をパクパクとさせ、地上に上げられた魚のような顔を店主はする。
私はそれを見て、チャンスだと思い店主にこう言った。
「ああ、そういうことだこの刀を私に売ってくれないか……?」
「分かった」
「じゃあっ」
「ただし条件がある」
店主の目つきが変わった。
そして一拍置いて条件を言い出した。
「お前の実力を証明しろ、この刀をどこかで落とされちゃ困るからなぁ」
「実力……?」
「ああ、最近村の周りで暴れてる人さらいのボスを倒しな、そしたら売ってやる。」
「ゆ、雪花ちゃん……危険だよぉ……」
ニオが私の腕を掴む。
ニオの手はプルプルと震えていた。
だが私は引き下がらずに声を出す。
「分かった、いつまでだ?」
「お前さんが生きてる限りだ」
「そうか、ありがたい」
そう会話を交わし、店の外へと足を運ぶ。
その時、店主は私に刀を投げた。
「お前さん、武器ないんだろ?今はそいつで繋げ」
手渡された刀は、鞘に収まった普通の刀。
「感謝する」
そう告げ、店の外へと出て行った。




