異変
「う~寒い~」
外へ出るなりニオは身を震わせた。
「これでも羽織っておけ」
私は自分の上着を小柄なニオに着せた。
「え?雪花ちゃんは大丈夫なの……?こんなに寒いのに……」
「大丈夫だ、黙ってもらっておけ」
そう返してニオの少し前を歩いた。
ニオがどんな顔をしていたかは知らない、だが私にはきっと似合わない。
「ありがとう!雪花ちゃん!」
「ああ」
少し歩き森の中へと入った時、私は感じた。
先程感じた視線とか類じゃない。
それでいて気配でもない。
だが確かに背中を刺すような感覚。
「……ニオ、私の後ろから離れるな」
「え?なんで……?」
急いで辺りを見渡す。
何度見渡しても来た時と同じ風景。
それなのに常に息が詰まる。
簡単な話だ、予感がするのならば。
「出て来い、お前ただ者じゃないだろ」
声が木々に吸い込まれる。
ニオは安堵の息をついて私へと話しかけた。
「もう……雪花ちゃん怖いよ……?ほらいこ」
その刹那、後ろの悪寒がさらに強くなる。
咄嗟に振り返った。
「ふうん、あなた私を感じ取れるんだあ」
そこには私より少し小柄な女がいた。
だがそいつの表情はにたにたと笑っていた。
「何者だ……?」
「0ちゃあん、私さあんたと殺りあいたいんだよね」
そいつは口を開くなり私に交戦を要求してくる。
「そういえば0ちゃん、可憐は……??」
確かに口から聞こえた、『可憐』という名前が。
感情が一瞬揺らぐ、記憶の根底を掴まれているような。
だが私には記憶がない。
「誰のことだ……?」
「あれ?こう言えば本気出すって聞いたのに~ざーんねん」
そう言うと女は拳を強く握る。
「まあいいや、殺りあえばわかることさ、ね?そうだよね0ちゃん?」
私は即座に構えを取った、刀を初めて握る素人のような構えを。
「ニオ、木の後ろに隠れろ」
そう言って、敵の目を睨みつけた。
「きゃははっ、0ちゃんジョーク?面白いね全く!」
言い終えるとそいつは地を強く蹴り、私の目の前から消えた。
どの部位に攻撃が来るか見当がつかない。
だが攻撃が来る一瞬に絶対に姿を見せなくてはいけない。
その一瞬に私は全神経を預ける。
刹那、予想通り奴の体が一瞬見える。
「ちいっ!」
拳を受け止めた衝撃で体が後退する。
再び体制を直して構えた、だが敵の顔から笑みが消えていた。
「つまんな、0ちゃんまだ取り返してないんだ………」
「……は?」
「あのスペックだったらもうだともう戻ってると思ったのに……」
そう言って女は大きく息を吐いた。
「じゃあね、0ちゃんまたどこかで」
女はそう吐き捨て、森の奥へと消えて行った。
ニオはおろおろと木の後ろから出てくる。
「あ、あの人……誰……?」
赤の他人だ、と答えたいところだ。
だが本当のことを喋ったところでニオは怯えるだけだ。
「私の友達だ」
「と、友達………?え……?」
そう会話を交わした後、再び帰路に着いた。
しばらくして私たちは村の近くに着いた。
暖かな光が目に入り込む。
「雪花ちゃん~やっと帰ってきたね~」
ニオの声は完全に脱力しきっていた。
その姿はまるで背中を撫でられた猫のようだ。
「私はギルドに向かう、お前は先に帰っていろ」
そう声を掛け、ギルドの方向へと一人で踵を返した。
「はいはーい!気を付けてね!雪花ちゃん!」
少し歩いた後、ギルドの門前へと来ていた。
戸を押し開け、ギルドの中へと入る。
夜が更けているせいか、ギルドは喧騒に包まれていた。
ギルドの面々は頬を赤らめて、完全に酔っぱらっていた。
その中にある人が居た。
「おおーうゆきばなぁ!!お前ものむぞぉ!!」
そこにいたのはグリムだ。
「お前に用はない、さらばだ」
踵を返し、カウンターに駆けた。
事を素早く済ますために、口を開く。
「ギルドマスター、早速だが人さらいについて教えてくれ」
瞬間ギルドがざわついた。
「あの新人の女が……人さらいのクエスト受けんのか……?」
「ぎゃっはっは!頭でも狂ってんのか……」
グラスを落とす音すら聞こえてくる。
ギルドマスターの表情が固まり、出てきた第一声は。
「……は?」
そんな素っ頓狂な声が漏れ出る。
「情報はないのか……?」
「いやいやいや、ええ?あのさ、人さらいは子供と女を中心にとらえているんだよ……?」
「ああ、教えてくれ」
ギルドマスターは完全に固まった、次の瞬間私の肩に手が置かれた。
「おいおい雪花、俺はお前を人さらいの任務には連れて行けねぇ」
その手の正体は先ほどまでべろべろだったグリムだった。
「なぜだ?教えればいいだろう」
「だいたいあのクエストはAランク以上のクエストだBランクのお前には教えらんねえ」
「そうか分かった」
そう言い残し、私はギルドの外へと向かう。
私を笑う物もいた、戸に手を掛けるころには再びギルドは喧騒に包まれた。
少し歩いた後決意を固めた、一人で人さらいのボスの首を取ると。
そのために私は情報を集めることにした。




