タイトル未定2026/10/19 07:43
# 第3話 ガラクタの剣が、聖剣になった
翌朝。
ギルド長の執務室に呼ばれた俺は、一枚の依頼書を渡された。
「王都の外の森で、薬草の採取だ。Dランク依頼になる」
「俺、Fランクですけど……受けていいんですか」
「ギルド長が許可を出す。問題ない」
セラフィナさんは、淡々と言った。
「それと、同行者をつける。新人だが、腕は悪くない」
扉の外で、少年が直立不動で待っていた。
十六、七歳くらいだろうか。腰の剣が、まだ新品の光を放っている。
「は、初めまして! よろしくお願いします!」
「こちらこそ。ユウトです」
「知ってます! 昨日のこと、噂になってます!」
少年は、目をきらきらさせた。
「神級ポーションを出した人ですよね!」
「たまたまだよ」
「謙遜しないでください!」
セラフィナさんが、小さく咳払いをした。
「ユウト。出発前に、これを渡しておく」
差し出されたのは、革の袋だった。
中には、干し肉と水筒が入っている。
「ありがとうございます。いただきます」
「……気をつけて」
ほんの一瞬、彼女の視線が俺の顔をなぞった。
「無理はするな。いいな」
「心配性ですね」
「違う。ギルド長として、依頼人の無事を確かめているだけだ」
「は、はい」
横で少年が、口を押さえて肩を震わせていた。
「……行ってこい」
王都を出て、一時間ほど歩いた。
道中、少年が言った。
「ガルドさんたち、昨日の件で評判ガタ落ちらしいですよ」
「そうなんだ」
「ユウトさんを追い出したことが、もう広まってて」
「俺は、別に気にしてないよ」
「ユウトさんは、人が良すぎます」
少年は、頬をふくらませた。
森の入口で、俺は足を止める。
「あ、ちょっと待っててくれる?」
「どうしたんですか?」
「出発前に、ギルドの廃棄箱で拾ったんだ」
俺は、背負った袋から一本の剣を取り出した。
刃が根元から折れた、錆だらけの剣だ。
柄の革も、ぼろぼろに裂けている。
「それ、ゴミですよね?」
「うん。でも、試したくて」
昨日の水筒の件で、分かったことがある。
俺の収納は、取り出すときに品質が上がる。
だったら、壊れた物なら、どうなるのか。
「万象収納」
折れた剣が、手の中から消えた。
これで、収納の枠は埋まった。
この枠には、同時に一品しか入らない。
俺たちは、森の中へ踏み込んだ。
薬草は、浅い場所に群生していた。
少年と二人で、せっせと摘んでいく。
「ユウトさん、袋がもう一杯です」
「じゃあ、一度戻ろうか」
そう言って立ち上がった、そのときだった。
茂みが、がさりと揺れた。
「……何か、来ます」
少年が、剣に手をかける。
現れたのは、緑色の小さな影だ。
一匹、二匹。
いや、十数匹いる。
「ゴブリンの群れ!?」
「しかも、ただの群れじゃない。統率されてます」
少年の声が、震えた。
「Dランクの依頼で出る数じゃ……」
「下がって」
俺は、少年の前に出た。
「ユウトさん!?」
「大丈夫」
大丈夫なわけがない。
俺には、戦える力なんてない。
でも、収納の中には、さっきの剣が眠っている。
俺は、そこに意識を向けた。
「出ろ」
光が、爆ぜた。
手の中に、一本の剣が現れた。
白銀の刃。
青く輝く柄。
まばゆい光を放つ、一振りの聖剣だった。
目の前に、画面が開いた。
【折れた剣 → 聖剣(SSS級)】
【効果:刃は決して欠けず、斬撃が光となって敵を薙ぐ】
「……え?」
声が、裏返った。
「ユウトさん、それ、さっきの……!?」
「うん。折れた剣、だったんだけど」
ゴブリンたちが、一斉に跳びかかってきた。
反射的に、俺は剣を振った。
一閃。
光の刃が、扇状に広がった。
先頭の三匹が、悲鳴もなく消し飛ぶ。
「は?」
二閃目。
さらに五匹が、真っ二つになった。
残りのゴブリンたちが、足を止めた。
目に、恐怖が浮かんでいる。
「ひ、ひとりで……」
少年が、呆然と呟いた。
「ひとりで、群れを……」
俺は、剣を握ったまま固まっていた。
自分でも、何が起きたのか分からない。
「お、俺、剣なんて習ったことないのに」
「でも、あの一閃は見事でした!」
「ただの偶然だよ。体が勝手に動いただけ」
「それを才能って言うんです!」
「ユウトさん、それは剣の力です!」
少年が、興奮して叫ぶ。
「でも、あの動き、Fランクの動きじゃないです!」
「いや、剣が勝手に……」
三閃目。
残ったゴブリンが、森の奥へ逃げ出した。
静寂が戻った。
俺は、へなへなと座り込んだ。
聖剣が、手の中でほのかに光っている。
「すごい。すごすぎます」
少年が、俺の腕をがしっとつかんだ。
「ユウトさん、俺を弟子にしてください!」
「で、弟子!?」
「あ、いや、後輩でもいいです!」
「落ち着いて」
「だって、見たことないですよ。あんな剣」
「俺も初めて見たよ。折れてたのにね」
「ユウトさん、怪我はないですか」
「ない。腰が抜けただけ」
「笑ってる場合じゃないです!」
その夜、俺たちは森の外れで野営をした。
焚き火の前で、俺は考えていた。
聖剣は、まだ俺の手の中にある。
収納の枠は、今、空いている。
「そういえば、ギルド長がくれた干し肉」
袋から、干し肉を一枚取り出す。
「これ、試してみようか」
「何をですか?」
「収納して、出すんだ」
干し肉を収納する。
もう一度、取り出す。
光とともに現れたのは、艶やかに輝く肉だった。
ただの干し肉とは、香りがまるで違う。
【干し肉 → 神級干し肉(SSS級)】
「うまそう……」
少年が、ごくりと唾を飲んだ。
半分に割って、二人で食べた。
噛んだ瞬間、肉の旨味が口いっぱいに広がった。
疲れが、すうっと溶けていく。
「な、なんですかこれ! 体が軽くなってます!」
「本当だ。昼間の疲れが、全部消えた」
少年は、泣きそうな顔で干し肉を見つめた。
「こんなに美味しい干し肉、初めてです……」
「これ、売ったら一生遊べますよ」
「売らないよ」
「えっ、もったいない!」
「食べてもらう人が、いるからね」
少年は、にやりと笑った。
「ギルド長ですか」
「……なんで分かるの」
「顔に書いてありますよ」
「これなら、セラフィナさんにも食べてもらえるな」
思わず、そう呟いた。
焚き火が、ぱちぱちと音を立てる。
夜空には、星が満ちていた。
「ユウトさんは、どうして荷物持ちを?」
「戦えなかったから。それしか、できなかったんだ」
「でも、今日は戦いました」
「剣が強かっただけだよ」
「その剣を出したのは、ユウトさんです」
少年は、まっすぐに言った。
「俺は、そう思います」
胸の奥が、少しだけ温かくなった。
「そろそろ寝ようか」
俺は、聖剣を収納に戻そうとした。
そこで、気づいた。
聖剣を入れれば、収納の枠は埋まる。
そうなると、別の物を取り出せなくなる。
「あ……」
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
でも、胸の奥に、小さな引っかかりが残った。
聖剣を持てば、他のものが出せない。
回復薬も、食べ物も、一つずつしか持てない。
一つしか、持てない。
その意味を、俺はまだ軽く考えていた。




