鋼鉄天使 5
帰還してすぐ俺はシャワーを浴びた。汗で体中がべとべとだ。電熱服が無ければ指先から身体の芯まで凍え、防氷装置無しでは五分で氷結する超高度での戦闘だというのに。
怖いのかな。
怖いさ。誰だって死を畏れないはずは無い。
まして空中戦での戦死者は、墜ちれば肉体はバラバラ、柩に納めるための骨一本だって残りゃしない。海に落ちて魚の餌か、野に果てて肉食獣の腹の中か。どちらにしろろくな死に方はできないってのは明らかだ。
それでも、叶うことならば。
せめて天に消えたい。霞んだ蒼の儚い夢に、そのまま溶けて逝けるのならば、どんなに幸福だろう。
キュ。蛇口を閉める。この掌に握る冷たさがふと心を引き戻した。
濡れた髪のまま居住区を歩く。途中、通りすがりの野郎が、まだ生きていたか小僧、と言った。
おおよ、このとおりピンピンしてらぁ。手前こそまだ首も足もついているらしいな。俺がそう応じると、そいつはからからと笑って行ってしまった。
個々人にあてがわれている個室の戸を開けると、不思議な香が鼻を打った。
さら。
空調の風に花瓶の花が揺れた。合歓木だ。
合歓と言ったが、本物かどうかは判らない。一見似てはいるが、実はこれ、パンドラ産の植物なのだ。地球産の合歓とはまた違った甘い香がそれを物語っている。
しかしそれでも、白が淡い紅へと自然に色を移す花――実際は雄しべだが――は、忘れたはずの昔を思い出させるのだ。
流れ行く河。強い日差し、心地よい涼風。葉擦れの音を聞きながら昼寝した木陰。青い空にくっきりと立つ入道雲。自分の重さに耐えかねたようにぱさりと落ちる合歓の花。
エアコンが無粋な音を立てた。
忌々しくて舌打ちし、椅子の上に立って引っ叩いてみたが、却って騒音が大きくなっただけだった。この安物が。もう一度、今度は拳で殴って静かにさせた。……自分も、拳をさする間静かになったけれど。
涙目で右の拳をさすっているとき。
目の端で緑の葉が微かに揺れた。




