鋼鉄天使 4
STINGRAYは、バングールかその前のバージョンのグールくらいですかねー、ってダラさんネタか!
十六機の天駆ける狼が、その牙を剥き出しに襲い掛かる。
照準器サイトに敵機を捉える。反射的に指がトリガーボタンを押す。叩き込まれる弾丸、火を噴く機体。
ガアアアアァッ
ほんの一瞬のすれ違い。操縦桿スティックから震動がビリビリ伝わってくる。機首はあたかも暴れ馬のようにあらぬ方へ向きたがる。翼端が敵機を擦り、ガリガリと音を立てた。
茶色いペイントのエイに30ミリ砲弾を数十発喰らわせ、その上方を掠めるように抜けた。
反転。
キイィィィッ
急なG変化に、骨も筋肉もギシギシ鳴った。血が頭に昇ったり、かと思うと足元へ駆け下りたりと忙しい。細めた目にチラチラと赤い闇と黒い影が交叉する。
敢えて捜すまでもなく、血に飢えた照準機サイトは次の獲物を捉えていた。操
縦席の中の引きつった表情、背後を取られ、焦りにバタつかせる昇降舵ラダー、それらの全てが僅か数十発の弾丸で天に散る。
「くの……っ」
すれ違いざまの撃ち合いは、敵も味方もギリギリの大迫力だ。ヘルメットやフライトスーツの中は冷たい汗にまみれ、凍るような衝撃とともに背を胸を滑り落ちる。額から流れてくるそれも拭う暇がない。
それでも。
ニヤリと笑う。
男だから。一度闘争本能に火が点くと、もう止まらない。
目の前で16番機ツバメがエイの翼に胴体を切り裂かれて墜ちた。パワーもスピードも違い過ぎる。F59がエイに勝てるのは旋回性くらいのものだ。
俺の機は逆に旋回性に劣るものの、エンジンパワーはエイを凌ぐ。が、やはりエイは苦手だ。三回に二回は機体がボロボロになる。
心臓は。きっとヘルメットの中にあるに違いない。低い気圧で耳鳴りがしても、心臓の音だけはいつでもはっきり聞こえている。
それじゃあ、精神ってヤツはどこにあるのかな。
あまりに強い憧れに、もっと広い胸に移ったのかもしれない。だからきっとこんなにも胸が苦しい。
想いは何処へ征くのだろう。
機銃が火を吐く。炎と煙をまとって下界へと身を投げる魔物たち。操縦桿スティック操作一つで生死が分かれ、運命の輪は常に破滅へと回ろうとしている。
白い胴体から火を噴いて僚機が墜ちる。
操縦席コクピットを破裂させ、朱に染まった硝子が天空に散る。蒼いあおい天空に。
砕けた想い(こころ)は何処へ逝くのだろう。
砕けた硝子のように、成層圏に溶けていくのか。蒼く冴えた夢の中に。
照準器の彼方で穴だらけになった敵機が雲の海に沈んだ。
ギイイィィッ
重い操縦桿を握り締め、ギリギリまで引き倒す。あまりの高度に大気は希薄になり、バーニアが咳き込みかける。海の妖精ネレイスに追いすがっていたアブが息を切らせて墜ちていった。
時折入れ替わる天と地。風防硝子キャノピー越しに蒼く透きとおった成層圏。燈色の恒星が激しく照りつけ、俺達を焼き殺そうとしている。
照準器が示す緑色のラインに、やっと気づいた。
今墜ちた機が最後だ。
終わったのだ。
俺達は十機になってしまっていた。
帰投する。荒れた通信の向こうで隊長が言った。
高揚していた心がようやく冷めてきた。
成層圏の蒼が目に沁みる。
「三分の一になっちまったな……」
俺の呟きに、うん、とタイカが応えた。
マスクの下で唇に歯を立てた。
この本の数分で、六人も死んだ。
けれど、俺は生きている。
生もギリギリ、死もギリギリ。それが戦場だと解っていても。
離れられない。
還ろう。
機の鼻を基地へと向ける。
次が自分の番で無いと、誰が言い切れよう。
だが、天空そらの高さに、成層圏の蒼さに。焦がれ、焦がれた男達には。
鉄の柩、鉄の墓標、鋼の翼で、それでいいのだ。俺達はそれ以上望みはしない。
たった一つの願いは。
天空で、死ねる、こと。




