鋼鉄天使 2
古臭い、と言われてもしゃーない、ってとこです。
実際古いんだし。書いたときにはまだドローンとかも無いし。
・・・だって大災害とか開戦とかばりばりな時分に、出しにくいじゃない。
突然のサイレンに俺はベッドから跳ね起きた。出動要請のランプが点いている。
畜生!
机上のヘルメットを掴んで部屋を飛び出した。途中、同じ隊の奴や別隊の連中と出くわす。A級待機ではなかった。たしか二つ前の隊がアラートルームに入ったのはつい十分前のはずだ。
『第16分隊から21分隊まで、全機出動せよ。繰り返す、第16……』
頭上でスピーカーががなりたてる。第16分隊が緊急待機員だったはず。で、プラス17~21の五個分隊か。
「B級待機全部駆り出すんじゃねーっ」
俺の横を走りながら、同じ第18分隊のタイカが文句を言った。
C-04基地の俺たち固定翼機隊小隊は、約40の分隊から成る。一個分隊は隊長機、副隊長機共一機ずつに加え隊員14、計16機で編成されるのがスタンダードだ。勿論、空中戦に入ったらほぼ完全に個人戦同然だが。
「まだましだよ、B級待機なら。この間は十個分隊一度に駆り出されてたぜ。BのうえにC級待機だ」
第20分隊のマクリーンが背後でボヤいた。
A級待機は通常一個分隊だけで、B級は五、C級~E級がそれぞれ十個分隊、残りがF級待機でA級待機終了か帰還直後の隊というのが平均的な構成だ。だから下手に敵がボロボロやってきて今日みたいに一時に出撃していると、四十幾つからの分隊も、一回四時間区切りのはずの緊急待機なんか三日と保ちゃしない。
「まわせーっ」
格納庫から次々と出されていく機。最初の内こそ軍支給の規格品、F59 SWALLOWだったが、俺の現在の機はF64 NEREID・B。黒い翼の海の妖精だ。F59(ツバメ)も旋回性能に優れたいい機体ではあるのだが、少々古い。
チャートを掴み、ヘルメットを被ってタラップからシートに飛び込む。
チェックリスト読み上げ!
外部OK、油圧正常、電圧正常。
回転check、タービン内圧check。
電子機器OK、火気管制green。
「All green!」
「Control, request take off for the 18th squad.」
「Okey.Ready?」
「Ready.――Go!」
GOOD LUCK.
聴こえなくとも、声がある。整備兵、誘導員、管制塔員、etc.
おらおら、離陸準備動作に手間取ってるんじゃない。敵さんは待ってくれんぞ。
離陸決定速度到達(V1)。今日は調子いい。
機首上げ速度到達(VR)。前機との軸線を僅かにずらせて。
――安全離陸速度到達(V2)。
「いっけェ!」
ドゴオォォッ
バーニアが火を噴き、車輪が滑走路を蹴る。黒い鋼の翼が風を捉え、そのまま天空へと駆け昇る。
二千、三千。高度計がジリジリと動き、それに反して気圧計は下がっていく。
そして。
あお。
凍りついた蒼の世界。高度計は8000mを示している。――成層圏だ。
パンドラの奇妙なところの一つだ。この惑星サイズと引力で、この高度での成層圏になるなどありえない。火星と比較してみればわかる。
それでも此処では在り得るのだ。俺たちの馴染んだ物理法則をことごとく裏切る、この気違い空間では。
けれど。どんなに狂った世界だとしても。
この蒼い世界――美しく凍りついた成層圏を飛べるなら、それでいいとさえ思う。
蒼い。蒼いよ。どこまでも青い。
そして、静かだ。
下方は白銀に輝く雲の表。地表は黄色い土が淡緑色に草原化し、その果てに海さえ見える。
海、か? 繋がってしまった青と蒼。海が天を映すのか、天が海を映すのか、それさえもわからなくなってしまう。
蒼い、夢だ。成層圏は、高く、蒼く、冷たく、淋しい。それでも――それ故、男達は胸を焦がし、凍えた世界に想いを寄せる。たとえそれが、己の血と命とを代償とするにしても。
ウクライナ侵攻も、何回目かの日延べの原因。




