鋼鉄天使 1
これもひとつの未来である。
けれど、異なる未来、選び得た希望が、きっと。
これもひとつの未来である。
西暦2481年勃発した戦争は、我々には荷の勝ち過ぎたものだった。
戦場に散った堕天使たちに、捧ぐ――。
ここはパンドラ。母なる地球から、いや、それどころか我らが太陽からからさえも遠く隔たった惑星だ。
俺は、――名前など意味を成さない。仮にエアと呼んで欲しい。彼(er;独語)と。
俺は現在十九歳と一か月。髪は少し青みを帯びた黒、目は碧。難を言えば少々小柄なところだが、パイロットはちょっとくらい小柄なほうが都合が良いというものだ。
パイロットと言っても、水先案内人でも定期旅客機運転手でもない。れっきとした戦闘機乗りだ。パンドラC-04基地では最年少の一人だろう。
母恒星に戦の女神を持つ惑星パンドラ。そこは戦場だった。
パンドラは火星によく似た惑星で、半径は地球のおよそ四分の一、重力は0.38G。そのくせ山在り谷在り、海も河も森も在る。砂漠に凍土、廃墟に遺跡。惑星まるごと、まるで誰かがしつらえたジオラマか映画のロケ地のようだ。
けれどそのどれもが、本当に戦場なのだと。俺たちはすぐに認めねばならなかった。
パンドラの地表は、作戦上大きく八等分されている。
北半球にA~D、南半球にE~H戦区がふってあり、俺の所属するのはC戦区の第04基地だ。台地上の基地には、海が近いせいか南風にのって時折潮の香が届く。西風にはD戦区から熱砂の匂いが混じり、機械油に慣れた鼻に不思議な感覚を残す。
俺たちのC-04は、わりと変わった基地だった。
というのも、正規兵とそうでない兵とが半々くらいの割合で入り交じっていたからだ。そうでない兵――つまり傭兵のことだ。
早いうちに整備された基地は正規兵が主だが、後発基地はどうしても正規兵が不足してしまう。正規兵を育てるのには時間も金も掛かる。その点傭兵なら一山いくらでかき集めることができるので人員補充にはもってこいだ。実際、殆ど傭兵ばかりの基地もあると聞いた。
いや、ここだって今や傭兵が八割にもなるはずだ。
俺は。
俺も正規兵じゃない。ご多聞に漏れず促成栽培の傭兵だ。二か月の戦闘と半月の休暇、それが五回で契約一セット。と言っても、鋭気を養うという名目の休暇も、外界へ戻るには短過ぎ(火星に戻ると最速でも片道一月)、D戦区に始まった植民都市レティシアで羽を伸ばすか、休暇返上で継続戦闘するくらいだ。勿論そうしたからといって契約期間が短縮されるわけでもないが。
契約が切れても、大概そのまま更新している。傭兵なんかしている連中は、ほかで食えない食い詰め者が殆どだ。
あまり大きな声では言い難いが、かくいう俺もそうなのだ。生まれ育った火星の開拓地には、もう帰る家はない。磁気嵐で吹っ飛ばされて村自体が消滅したのを知ったのは、高校の修学旅行の初日だった。どこに行く予定だったのかなんて忘れてしまったのに、せめて最終日ならと思ったことを、今でも忘れられない。
さて、正規兵と傭兵とが交じっていて悪い点は、扱いに格差が見え隠れすることだ。
給料は俺たち傭兵のほうが高いが、たとえば物資の配布などは後回しにされ易い。それはまだ我慢できるが、機体の整備まで後回しにされるのは非常に困る。動作不良で逃げ帰るなんて無様な真似はもう二度とごめんだ。
しかし一番困るのは。
何処の戦区でもそうだが、完成している基地は二番目から三番目まで。C-04も未完成で、基地の端っこではいまだに連日土木工事だ。05はこの間見切り発車で動き始めたが、06は建造中、07は計画段階、以降はめども立っていない。一番の激戦区と名高いD戦区も、同じくらいか、もっと悪い状況らしい。戦線は拡大する一方、基地は未完、不備。物資も人員も不足がち。いくらなんでもあんまりだ。
と、いろいろ何のかんのと述べてきたが、別に重要なことじゃない。
ここが、海王星と冥王星との軌道が交わり入れ替わるポイントに開かれた、亜空間トンネルを抜けた先、母恒星ミネルヴァを天に戴く惑星パンドラであること以外は。
これから語られるのが、光さえ歪む異空間、ESPを著しく制限する世界での、超能力者(所謂エスパー)と普通人との戦争であることでさえも。
書き直したいような、書き直せないような。
長く書くほど生じるこのジレンマよ・・・




