第40話:挿絵追加
日が暮れつつある王都居室にて、老将の個別面談は一転してオアシスとなっていた。
「……何というか、お疲れですか?」
「ワシ疲れた」
儂は疲れた。なんで化け物を相手取らねばならんのか。やっと癒しが来たのか?教え子の息子は悪魔だったが、教え子の娘は天使じゃないか。
「ふふっ。大変でしたね、お茶でもどうですか?」
「セレナ嬢、頼めるかね?」
「はい。少しお待ちくださいね」
天使じゃな。ズタズタに荒んだ儂の心に染み渡る。そうとも、十九歳とはこうした心地良さがあって然るべきであろう?
「こうしてお話出来て光栄です。幼い頃にお会いしたかと思いますが、実は記憶が曖昧で……」
「そうじゃろうな。初めて会ったセレナ君は確か四歳だっただろう」
「そうなのですか!きっと無作法な子供だったのでしょうね」
「そんな事は無いとも。とても礼儀正しいお嬢さんだったよ」
「そうですか?そうだと良いのですけれど……」
セレナ嬢がはにかみながら言う。和むのぉ……。
「ところで、信じられない話なのですけれど」
「何かね?」
「ティーゲル様は収容していたマーガトロイド公爵家の捕虜三万人を皆殺しにしようとしたという、信じがたい話を伺いました」
びしりと凍りつく。
「その様な非人道的行為を出来る訳が無いのですが、ギリギリでその命令を撤回させたという話を伺いまして」
「……」
アレは捕虜が寝返って襲いかかってくる事を予期した儂の命令だ。何か知らん内に有耶無耶になっていたが。
「あなたがそんな事する訳ないのに」
「……そ、そうじゃな」
当たり前だ。儂が理由も無くそんな事をする訳が無い。
「……つまり、あなたにそんな事をさせるヴォルフが悪いのよ」
「……」
「ごめんなさい」
「参ったよ。儂に何を求む?」
ワシ吐きそう。セレナ嬢はまさにヴォルフガング君の秘書だ。若者怖い。怖くない?
「私もヴォルフも、あなたの平穏を求めています。あなたはそもそも働き過ぎじゃないですか?」
「そうかね……?」
君らが働き過ぎでないかね。
「私はあなたと、その家族の亡命を推奨します。ヴォルフは詳細を語りませんが、その実行計画を既に準備しているそうです。望成目標としてあなたに二重スパイとして働く事を望んではいますが……」
「望成目標だと……?」
「はい。彼は、二重スパイは短命だからなと言っています。あなたには平穏に長生きして欲しいのでしょう」
「馬鹿な」
「私もそう思います。どうかあなたには平穏に欲しいです」
「馬鹿な……」
そんな馬鹿な話があるか。儂は数え切れない人々を地獄に叩き落として名声を得てきた。その儂が地獄に堕ちるどころか、平穏に生きろだと?
「まず受け入れられない事と思います。それでも……」
「儂が受け入れぬ事は想定しているのか
?」
「……それが二重スパイです」
「成程な……」
「重ねて申しますが、彼と私はあなたに平穏に生きて欲しいです。私達の結婚に立ち会って頂ければなお嬉しいですよ?」
「儂にそんなことは出来ぬ……」
「……彼も言っていましたが、それならばとても悲しいです。とても……」
な、なんと悪辣な……これが即死コンボなのか。瞳を潤ませながら俯くセレナ嬢はまさに悪女そのものだ。
「な、泣かないでくれ、セレナ嬢」
「私は悲しいです……」
「ゴフッ」
ワシはもう駄目みたいだ。
「……何を望む?」
「あなたの平穏を」
「やめてくれぇ」
老 人 虐 待。
挿絵追加しました。




